仲間ができて、お姉様になった
そのメイド姿の女性は、ゴウのことをお兄さまと呼んだ。
部屋の中にいたのは、この女性ともう一人、私よりも少し小さな女の子だった。
こちらの服装は……なんというか、豪華だけどドレスとか、そういうんじゃなくて、魔法大学の講師のような、言うなれば……
「賢者?」
つい、声に出てしまった。
それを聞いた少女は、満面の笑みを浮かべ、飛び跳ねんばかりに喜んで、私の手を握って振り回す。
「そうです、その通りなのです。さすが聖女様なのですよ!」
「えっ? 聖女?」
誰が? ……と思ったけど、疑うまでもなく私のことだ。
誰から何を聞いたのか分からないけど、誤解がどんどん酷くなってる気がする。
部屋の中へと入り、渋い緑茶と甘い羊かんでひと息をついてから、改めて自己紹介をすることになった。
この部屋の雰囲気で、メイドさんが用意しているのに、紅茶でティータイムってわけじゃないのが何だか変だけど、とても美味しかった。
「たぶんもう聞いていると思うけど、私は水上一恵。この世の災厄を祓う旅をしている
「いや~、あれには参った。強いってもんじゃねぇよな。それに王様に祝福を与えるって、もしかしてヒトエって大司祭様ってやつか?」
「おにいさま、まだ自己紹介の途中ですよ。自重してください」
「す、すまん……」
ゴウがメイドにやり込められている。
この二人が兄妹だなんて、まだちょっと信じられないけど、こんな関係を見せられたら信じるしかない。
「この国に来たのは偶然だったけど、王都だったら情報も集まりそうだから、少し
じゃあ次は……と、ゴウが話し始める。
「俺とトキヤのことは今さらだよな。王国兵だったが、今はヒトエの護衛だ。旅にも慣れてっから、何でも言ってくれ」
「それと、俺たちにも新型の銃や武器が支給されるから、後でみんなで工房へ来るようにって話だよ」
いつの間に伝言を受け取ったのか、トキヤがそう言って補足する。
前の
王様から、二人を護衛にって言われた時は、護衛は要らないんだけどな……なんてことを思ったけど、勝手の知らないこの世界で過ごすのに、道案内とか買い物とかを手伝ってもらえたら、すっごく助かるって思い直した。
それに、一人旅は寂しいっていうのもある。だけど……
「でも、二人はそれでいいの? よく分からないけど、あんな特別な銃まで与えられるんだから、王国兵になりたくてなったんじゃないの?」
銃は兵士の命だ……なんて言ってたんだから、すごく思い入れがあるんだって思ってたのに、クビになって銃を取り上げられたにしては平然としている。
「敵の強さを思い知ったからね。王国兵こそが最強だと思っていたのに、勝てなかった。だから、ヒトエと旅をしながら、ヒトエに頼らなくてもアレを倒せる方法を見つけて国へ持ち帰りたいと思っている。もちろん、友のために力を尽くしたいって気持ちもあるけどね」
世界の脅威度を下げる。それが私の目的だけど……
とにかく私が、片っ端から
だけど、どれだけいるのか分からないし、他にも世界の脅威度を下げる方法があるのかも知れない。
トキヤの言葉は、私には「この世界の人たちに協力してもらってもいいんだよ」って意味に聞こえた。
ゴウが不思議そうな顔をして、声を掛けてきた。
「ん? トキエ、どうした?」
「あっ、ごめん。ちょっと考え事をね。……そっか。トキヤ、ありがとう。で、ゴウは?」
「俺か? 俺はまぁ、なんつーか……」
王様の前では堂々と言い切ったのに、なんだか答えにくそうだ。
「もし、王国兵をクビになったのがショックだったら、私から復帰させてもらえるように頼んであげるわよ?」
「違う、違う、そうじゃねぇよ。なんつーかさぁ、ヒトエって俺より強いだろ? なのに、俺が護衛でいいのかなって」
「真面目かっ」
つい、ツッコミを入れてしまった。
クスクスと周りが笑い声を漏らす中、ゴウは憮然とした表情を浮かべる。
「王様は私の護衛にって言ったけど、私と一緒に行動をして、困ったことがあったら助けてあげてねって意味だから」
ゴウは、本気で私の護衛をしようと思ってたみたいだ。
「ほら、私って、この世界のことってあんまり知らないし、道案内とか買い物とかしてもらえたら、すっごく助かるんだけど。それに、人のいる場所で戦うことになった時、避難誘導とかしてもらえたら、すっごく助かるって思う。もちろん、一緒に戦ってもらうのも……ね。だからゴウ、頼りにしてるわよ」
「おう、わかった。任せてくれ」
なんだろう……、ゴウのことが、すごく犬っぽく見えてきた。
命令をしたら、喜んで走っていきそうな……そんな気がする。
メイドさんが、頬に手を添えながら、分かりやすくため息を吐いた。
「騒々しい兄で申し訳ございません。それでは、僭越ながらわたくしから自己紹介をさせていただきますね」
そう断り、給仕の手を止めたメイドが、立ったまま姿勢を正す。
「わたくしは
なんで王女様のメイドが、こんなところに?
……って、そんなの、理由はひとつしかない。
「本職はメイドではありますが、戦闘の心得もありますので、護衛を兼任致します。よろしければ、お二人の身の回りのお世話をさせて頂きたく存じます」
メイドが深々とお辞儀をする。
……と、何かを思い出したように付け足した。
「おわかりの通り、この豪はわたくしの兄で御座いますが、兄が至らない分は、わたくしが存分に働きますので、どうかご容赦頂けたらとお願い申し上げます」
「……おい」
なるほど、そういう力関係なのね。
よく分かったわ。
「よろしくね。サエさん」
「はい。でも、わたくしは使用人。ですので、よろしければ呼び捨てでお願い致します」
「わかったわ。サエ」
「はい。ヒトエさま」
何だか、使用人って感覚が分からないせいか、妙な感じがする。
けれど、サエは満足そうに微笑んでいる。
「ああ、アタち……」
幼き賢者は、顔を真っ赤にしながら、コホンと咳ばらいをして仕切り直す。
「アタシは、水上家第三王女、水上一葉。メイジにしてセージの称号を持つ、偉大なる賢者なのですよ。必ずや聖女様のお役に立ってみせますので、どうか一緒にお連れ下さい……です」
よく持ち直して言い切った。
拍手を送りたい気分だけど、馬鹿にしていると思われそうだから、心の中だけに留めておく。
それよりも、やっぱりこの子がお姫様か……
間違いなく危険な旅になるのに、わざわざ自分の娘を指名するだなんて、あの王様もどういうつもりなんだろ。
「えっと……カズハさま? ……で、いいのかな?」
「いいえ、アタシもカズハと呼び捨てにして欲しいです」
さすがにお姫様を呼び捨てにするって、ちょっとためらうけど、こう期待した目で見つめられたら断りにくい。
「じゃあ、カズハ、よろしくね」
「はい、お姉様っ!」
ギュッと抱き付いてきた。
こうして人と触れ合ったのなんて……前世、それもずっと小さな子供の頃以来かも知れない。
恥ずかしくも嬉しい感じがして、なぜか少し目が潤んでしまった。
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