王様の頼みごと
立派な王城だった。
小振りで質素だけど、戦闘向きって言えばいいのか、壁や塔に銃眼や胸壁なども備えられ、
だけど……
これで
控室に通されたので、少し情報を集めようかと思ったけど、すぐに案内係がやってきて連れ出されてしまった。
「ねえ、これから何が始まるの?」
そう声を掛けてみるけど、無言で首を横に振られてしまった。
結局、何も知らされないまま、巨大な二枚扉の前に立たされた。
「ヒトエ様、他二名、ご到着に御座います!」
えっ? トキヤとゴウが、おまけ扱い?
ゴン、という音のあと、小さくギギギという軋み音を鳴らしながら、重そうな扉が開かれていく。
「えっ?」
大ホール? 謁見の間?
広い空間に、赤い絨毯。
その両側には、武装した騎士が立ち並び、左右に貴族様らしき人たちが……たぶん全部で百名ほど集まっていた。
絨毯の先には、豪華な椅子に座る人物。
三段ほどある階下には畳が一枚だけ敷かれていた。
この場に畳があるという異物感や不自然さは相当なものなんだけど、それを変だって思っているのは、この中で私だけなんだろう。
たぶん、そこへ座るようにって意味なんだろうけど、これだと、時代劇にありそうな打ち首や切腹って感じがして、不安になる。
「ゴウ、あそこまで歩いて座ればいいの?」
「ああ。出来るだけ顔を伏せて、正面を見ないようにしろよ」
「できるだけ、お淑やかに振る舞ったらいいと思うよ」
二人のアドバイス通り、顔を伏せ、楚々とした足取りで
座布団ぐらい出してくれてもいいのに……と思いつつ、靴を脱ぎ、畳の上で正座をする。
思ったよりも畳には弾力があった。
だけど、正座が長くなったら辛くなると思う。
玉座の横に立つご老人が、こちらを見てうなずく。
「ふむ。常識外れとは聞いておったが、その程度の常識は弁えておるようじゃな」
言葉だけを聞けば、こちらを見下した皮肉のようだけど……
なんとなくだけど、本当に感心しているように感じる。
どういたしまして……と、声にするわけにもいかないので、ご老人に視線を送り、ニッコリと微笑んで小さくお辞儀をする。
私と同じように、右にゴウ、左にトキヤが正座をし、そして深々と頭を下げた。
それを見て、私はどうしようかって迷ったけど、別にこの人の臣下じゃないわけだからと、涼しい顔をしてやりすごした。
「ほう、この場において王に恭順せす、礼を以て応えると。なるほどな……」
そう言って、爺やは王様に耳打ちをする。
ひとつ咳ばらいをした王様が、キッと前を見据える。
「一同、面を上げよ」
「ははーっ」
まだ若そう……といっても、たぶん三十代ぐらいだろうか。なかなか渋くて良い声だ。それに、威厳もたっぷりだ。
……あれ? 二人は答えたのに動かない。
「苦しゅうない、面を上げい」
再び王様が命令すると、ゴウとトキヤが頭を上げて座り直した。
たぶん、そういう儀式なんだろうけど、なかなか面倒そうだ。
「我は水上の国王、水上一繁である。して、ヒトエと申したか。此度は、大いなる災厄より我が民を護りしこと、まことに大儀であった。旅人のようだが、名と目的を述べよ」
「私の名前は水上一恵。この世の災厄を祓うべく旅をしている
背後が騒がしい。
そりゃそうでしょ。
水上国に、殿様と同じ……じゃなくて、王様と同じ名前『水上』と名乗る者が現れたのだから……
王様の表情が変わった。
驚いてはいるようだけど、妙に納得したような表情で、爺やとヒソヒソ話をしている。
爺やは、また別の誰かに耳打ちをして、何かを指示しているようだ。
「この世に災厄が満ちる時、天より使者が舞い降りる。その名はミナカミ。よもや、我が代にて降誕なされようとは……」
そう呟くと、王様はこちらを向き、私を見つめる。
「ヒトエ殿。天の御使いである貴女様に願い申す。我に祝福を授けて頂きたい」
……えっ?
思わず顔を上げ、王様を見つめてしまう。
何か頼みごとをしてくるとは思っていたけど、予想外だった。
「祝福……ですか?」
そりゃまあ、私は
これを受けたら、王様に祝福を与えた人物ってことになって、自由に冒険ができなくなるかも知れない。
本音を言えば断りたいけど、その場合、王様に恥をかかせた魔女とか言われて処刑されかねない。
もちろん大人しく処刑されるつもりはないから全力で逃げるけど、指名手配……賞金首になったりしたら、それこそ自由な冒険ができなくなる。
「承りました」
内心で盛大にため息を吐きつつ、ニッコリとそう答えた。
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