世界観がごちゃまぜ

 私の目的は、世界の脅威を取り除き、神レベルを上げること。

 その為には、分身体アバターとなって、この世界を冒険する必要があった。

 だけど、分身体アバターになったら、様々な制約がかかる。

 神様の力は使えなくなるし、この世界についての詳しい記憶も封印される。


 これってやっぱり、大神様──私を神様にした神様としては、せっかく自分で作った世界なんだから、その住人になって楽しんでね……ってことなんだと思う。

 それに、どれだけ酷い世界になったとしても、ここで取り戻せるチャンスがあるっていう風にも考えられる。

 つまり、私が頑張れば、殺伐とした世界を修正して、最初に思い描いていた『夢と希望に満ちたファンタジーな世界』に、変えられるかも知れない。

 ホント、できればいいな……




 迎えに来た二人──トキヤとゴウに連れられ、仕方なく私は王城へと向かう。

 一夜明けたのに、街にはまだお祭り騒ぎの余韻が残っていた。お酒を飲んでいる人たちをチラホラ見かけるので、今日もまた大騒ぎになりそうだ。


 私が王都に来たのは、世界に脅威を与えるモノ──影鬼シャドラが居るって聞いたからだった。

 だから、この国のことはほとんど知らない。

 途中で聞いた話では……

 ここが水上みなかみ国の王都で、安月あづき京と呼ばれていること。

 人族ヒュメア領の中でも、比較的安全な場所だけど、それでも影鬼シャドラや亜人種たちの襲撃に怯える日々が続いていること……ぐらいだ。


 ……現実逃避をしていても仕方がない。


「ねえ、トキヤ。昨日、聞きそびれたんだけど、なんで私、王城に呼ばれたの?」

「すまない。理由までは聞かされてないんだ。いきなり俺たちに、大型地竜エルミキャニオンを倒したというヒトエという少女を連れてくるように……って。そんな感じだったから、かなり調べがついてる様子だったよ」

「だったら、王都に到着してすぐに分かれたから、どこに行ったか分からない……って、答えればよかったのに」

「俺もそう思ったんだけど、なぜか、宿の世話をしたことまで筒抜けだったからね。惚けても無駄だって思ったんだ」


 そこまで詳しいとなると……


「お、おい。なんで俺を見てんだ? 俺を疑ってんのか?」

「えー、だって、そんなことまで知られてるなんて、やっぱり変だよね? 二人のうちどっちかってなったら、やっぱり……ねぇ?」

「言っておくが、絶対に俺じゃねぇからな」

「容疑者はそう言ってるけど、トキヤはどう思う?」


 容疑者って……と呟くゴウを無視して、トキヤの答えを待つ。

 実のところ、私はゴウが人に話したとは思っていない。

 もちろん、トキヤも。


「豪は、報告の時に一緒だったし、その後、すぐ部屋に戻って爆睡してたから、人に話すタイミングはなかったと思うよ。それに、豪の性格だからうっかりぐらいはあっても、約束は守ろうとする男だよ」


 なかなか、微妙な評価だ。


「まあ、そうよね。ごめんね、さっきのは冗談。私もゴウを信用してるわよ」

「うっ……」


 一瞬、怒鳴り返そうとしたゴウだけど、複雑な表情を浮かべて沈黙した。


 生き残った兵士の中には、お祭り騒ぎに繰り出した人もいると思う。

 お酒が入って武勇伝を話す人も出てくるだろうし、つい勢いで、私の事を話す人がいてもおかしくはない。

 たとえ私の事を話したとしても誰も信じないだろうし、酔っぱらいの戯言だって聞き流すような内容になると思う。


 ……なのに、それを真剣に受け止め、当日のうちに私の事を探り出した人物がいるっていうのは、少し気になる。

 それに、王城に呼ばれたってことは、権力者に近い人物なんだろうけど、そう考えると不安にもなる。


「二人に、ちょっとお願いがあるんだけど……」

「何かな?」

「ああ、何でも言ってくれ」


 本当にいい人たちだ……

 真剣に私の役に立とうとしてくれている。


「お城に着くまででいいから、この国のことを教えてもらってもいいかな。お城の偉い人と会うんだったら、何にも知らないっていうのも失礼かなって」

「そうだね」

「おう、任せてくれ」


 話を聞き始めてすぐに、私は勘違いをしていたことに気付く。


 ここは、水上国の王都なのは間違いないけど……

 私は、外壁に囲まれた部分が王都だと思っていたけど、違うらしい。

 外壁周辺の田畑が広がる平地も含めた、この安月盆地全体が王都なのだそうだ。

 盆地の端の各所に関所があり、そこの内側全てが王都ということになる。

 外壁に囲まれた部分は王都の一部で、これを安月京と呼ぶらしい。


 つまり、私が発見した時には、すでに大型地竜エルミキャニオンは王都の中に侵入していたってことになる。

 それを倒して、安月京と、その中にある王城を護った……というのが正しい。

 その結果、王都が護られた……ってことには、変わりないんだけど。


 王様は、第二十四代国王、水上一繁みなかみかずしげ

 漢字で書くと、私の名前とひと文字違いだった。

 この国と同じ苗字だったから、ゴウやトキヤにも苗字を名乗らなかったのに、これだとますます名乗り辛い。

 だったら偽名でも考えようか……って思ったけど、後でバレて怒られるのも、なんか嫌だし恥ずかしい。


 それにしても……

 制約だらけの神様だけに、全く介入ができないことなんだけど……

 日本風の名前や言葉、風習なのに、城主や当主じゃなくて、なんで国王なの?

 お城や城塞は洋風なのに、なんで田園風景は日本っぽいの?

 途中で見た小屋や家は和風なのに、なんで宿は洋風なの?


 なんていうか……

 世界観がごちゃまぜなのが、すっごく気になるし、それを私が作ったんだって思ったら、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

 とても、他人(他神?)には、見せられない。

 

 二人の話を聞きつつ、そんな事を考えているうちに、とうとう小高い丘に建つ王城に到着してしまった。

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