ストレージが拡張されました

 王都に滞在する手筈は、全てトキヤが整えてくれた。


 放っておけば最高級の宿へと連れて行かれそうな気がしたので、何度も「普通」を連呼して、なんとか中の上ぐらいの宿に決まった。

 私の普通は、中の下か、下の上ぐらいだったんだけど、トキヤとは少し基準が違ったみたいだ。

 もちろん、少しでも良い所へ……と、思ってくれたんだろうけど。


 住人たちは、あの後、しばらくして戻ってきた。

 あっという間に、祭り騒ぎが始まり……


「よ~し、今日は存分に、食って飲んで騒ぎまくるぞ~」


 なんて声が、そこかしこから聞こえてくる。


 私もひとりで街を歩き、その雰囲気を楽しんでたんだけど、いつの間にか手荷物で一杯になってしまった。

 可愛い旅人さん、今日はめでたい日だから好きなものを持ってお行き……ってな感じで、次から次へと頂いてしまったのだ。

 本当に嬉しそうで、こちらまで楽しくなる。

 でも、さすがにこれ以上は持てない。

 手荷物を減らす方法があるにはあるけど、受け取る余裕があれば、どんどんご祝儀が渡される。

 もちろん嬉しいし、相手も喜んでくれているのなら気にする必要はないんだろうけど、あまり荷物が増えても困ってしまう。

 少しだけでも安月あづき京の雰囲気を楽しめたことだし、大量の荷物を抱えたまま宿へと戻り、旅の装束を解いて楽な服に着替える。


 部屋は洋室だった。

 備え付けられていたお水で喉を潤し、大きなソファーに座って、そのままコテンと横になる。

 ひと息ついて、仰向けになって天井を見つめていると、視界の端にある呼び出しマークに気が付いた。


「ナビ、どうしたの?」


 私の呼びかけに応えて、妖精が姿を現す。

 蝶のような羽根を持つ、典型的なフェアリーだ。

 だけど、この子の姿が見えるのは私だけ。声が聞こえるのも。


 この子は、ナビゲーターのナビ。

 私が神様になった時、難易度モードの選択があって、無難にイージーモードを選んだ。

 その特典が彼女と、地球型環境に酷似した惑星を選べる権利だった。

 知的生命体を誕生させ、信仰を集めるようにと言われた時には、どうなることかと思ったけど、さすがイージーモード。なんとかここまで育った。

 ……思っていたファンタジーな世界とは少し違ったけど。


「ヒトエさん、お見事な活躍でした。銃身を*にアレした所なんて、永久保存版ですよ」

「って! ……ちょっと、録画とかしてないでしょうね?」

「録画なんてしませんよ。そんな事をしなくても、神様ならいつでも見れますし」

「……そうだったわね」


 気にしないようにしてたけど……

 分身体アバターの行動は全て、神様の私に筒抜けだし、いつでもどの場面でも見たい時に見ることができる。

 それに、ナビも同じように、いつでも見れるらしい。


「あっ、何か用事があったのよね?」

「はい。ストレージが拡張されました」

 

 これは、私に神様の力が残っているってわけじゃなくて、この機能は神の祝福ってことになっている。だから、私専用の能力ってわけじゃないらしい。

 ストレージは、物を自由に出し入れできる空間(能力?)のこと。

 そのストレージには多くの物が入れられるんだけど、物が増えたら目的の物を探すのに少し時間がかかってしまう。

 なので、すぐに取り出したい物はショートカットにセットしておくという……

 まあ、ゲームでありがちな機能なんだけど、現実にあると、こんなに便利なんだって感動している。

 今となっては、なくてはならないものだけど……


「ちょっとこれ、増えすぎてない? 私はすごく助かるけど……」

「効率化することに成功した……って聞いています。その気になったらもっと増やせるらしいですけど……」

「そうよね。これなら整理をさぼっても、簡単には一杯にならないよね」

「ちゃんとしてくださいね」

「ちゃんと助けてね」


 それなら、このぐらいは平気で入るでしょ。

 そう思い、持ち帰ったプレゼントの山を一気にストレージに送る。


 扉がノックされた。

 まだ食事には早い時間だし、湯浴みの準備かと思ったけど……


「ああ、俺だ」

「私の知り合いに、オレダさんって人は居ないわよ」

「……ゴウとトキヤだ。入っていいか?」


 最初のひと言で誰かは分かったけど、このやり取りの間にショートカットから上着を出して羽織る。


「いいわよ。どうしたの?」


 本当にどうしたのかと不思議に思ったけど、困ったような表情を見て、なんとなく察しがついた。

 思わずため息を吐く。


「まっ、いいわ。中に入って。何か飲む?」

「いや、止めておこう。俺たちは、ヒトエに謝罪とお願いにきたんだ」


 部屋に入るなり、頭を下げるトキヤ。


 まあ……、そうなるよね。


 今回は、神レベルを上げるって目的があったから、影鬼シャドラ──大型地竜エルミキャニオンを倒したけど、私としては、できれば自分の行動で世界が変わることを避けたいって思ってる。

 だから、この世界の厄介事は、この世界の人たちで解決して欲しいって思ってるんだけど……


「すまん、トキエ。俺たちと一緒に王城へついてきてくれ」

 

 やっぱり……

 土下座をするゴウの言葉に、私は額に手を当てて、天井を仰いだ。

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