友達ができた

 王都──安月あづき京の中は無人になっていた。


 国王の判断としては、何も間違ってはいない。

 どの時点で決断したのかは分からないけど、大型地竜エルミキャニオンと討伐隊の戦いを見ていたら、勝ち目なしと判断して被害を最小限にしようと努力するのは正しい。

 だけど、捨て駒にされた兵士たちは、たまったもんじゃないはず。

 ほら……、門をくぐるなり、泣き崩れる者が続出した。


「出迎えがないのはともかく、見張りの兵士すらいないって、どういうこと?」

「おそらく、城での決戦に備えているのでしょう」

「えっ? ……そっか、ごめん」

「謝らないで下さい。王城での決戦ともなれば、この辺りは壊滅的な被害となっていたでしょう。それに王城が陥落すれば、国が揺るぎかねません。ヒトエ様は、それを救って下さったのですよ」

「うん……わかった。けど、ミクマリさん。さっきも説明したけど、アレを倒したのは流浪の銃士ですからね。私は王都に向かう途中でたまたま出会って、護衛してもらってるだけの、ただの旅人なんだから、もっと普通でお願い」

「だったらせめて、何か感謝の証を受け取ってくれないかな」


 そうは言われても、私としては、別にお金に困っているわけじゃないから報奨金はいらないし、あまり目立ちたくはないから名誉とかもいらない。

 できれば、ただの旅人として、王都で静かに過ごしたいと思ってる。


「だったら、友達になってくれない? それで、私が困った時に助けてもらうの」

「それは友と呼べるのか怪しいけど……」

「私の事はヒトエって呼んで? 私もトキヤって呼ばせてもらうわね」

「了解した。おい、豪もこっちにこい」


 最初に銃を借りた、粗野な男が近づいてきた。


「ほら、お前も自己紹介ぐらいはしろ」

分かわ~ってるよ。スマンな嬢ちゃん、じゃなくて……」

「ヒトエ殿だ」


 殿という言葉に反応したのだろうか。

 男は、ひざまずいて頭を下げる。


「失礼致した、ヒトエ殿。我が名は八代豪ヤシロゴウ……」

「だから、そういうのはやめてってば」

「けどな……それぐらいの礼を尽くさにゃならんだろ」


 男は、そのままペタリと地面に座り込む。

 本当にこの人たちは、私の説明を聞いていたのだろうか。

 あれだけ、倒したのは私じゃないし、目立ちたくないって言ってるのに。

 まあ、目立つも何も、今は兵士たちしか居ないけど……


「……とまあ、この通り、ノリが良くて義理堅い男だから、俺が見つからない時は、この男を使えばいいよ」

「じゃあ、あんた……じゃなくて、ゴウ、あなたとも友達ね」

「おう、ヒトエ。なんでも言ってくれ」

「じゃあ……」


 未だに号泣を続ける人たちに視線を送る。


「なんでみんな泣いてるの?」


 驚きの表情……というか、信じられないものを見る表情でゴウは私を見つめた。


「いや、なんでってそりゃ……、生きて戻れた嬉しさが半分、この王都を守れた嬉しさが半分ってとこじゃねぇか?」

「あとは、命を捧げた戦友を偲んでっていうのもあるだろうね」


 お前の死は無駄じゃなかった。

 足止めに成功したからこそ、私が現れ、その結果、国が救われた。

 ……と、そういうことらしい。


「それにしても驚いたよ。あの身のこなしもだけど、どうやってコレを使ったんだ?」

「どうやってって、念を込めて引き金を引くだけだよね?」

「まあ、そうだけど。この銃は特殊でね。所有者専用に調整されてるから、他の人には使えないようになっている……はずだったんだけど。キミは、豪の銃どころか、俺の銃も使っただろ? こんな事は本来あり得ないことなんだよ」

「そうだったの? だったら余計に、私のことは内緒にしてね」

「そのつもりだけど、話したところで誰も信じないだろうね」


 だったら安心……かな?

 さっきからゴウは、難しい顔をして銃を磨いていた。


「ところで、ヒトエ。俺の銃になんかしたか? なんかすっげぇ臭いがして、全然落ちねぇんだが……」


 あっ、と思ったが、何が? ……って表情を浮かべる。

 神様だってうら若き乙女だもん。羞恥心だってあるんだから、アレの*にアレしただなんて恥ずかしくてとても言えない。


「ん? なにが?」

「いや、だから……」

「……ゴウ、道具は大事にしたほうがいいわよ」


 苦し紛れにそう言うと、トキヤさんが思いっきり同意してくれた。


「そうだぞ、豪。いざって時にトラブルに見舞われたら、悔やんでも悔やみきれないからな。普段からしっかりと整備しておくんだな」

「そういうんじゃねぇんだけどな……」


 不思議そうに首を捻りながら、ゴウは布で銃身を磨き続けた。

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