どんな生物でもこれは効くよね

 私──水上一恵みなかみひとえは神である。

 だって、神様から「神様になってみたいか?」と問われ、「はい」と答えてこの世界にやってきたのだから、絶対に間違いない。


 私がこの場所へとやってきたのも、神レベルを上げるため。

 世界の脅威を、決められた割合にまで下げればクリアになるらしい。

 神様のままだと何かと制約が多いので、レベル六の特典である、生み出した世界に降り立つ権利を行使した。

 地上に分身体アバターを作るというイメージが近いと思う。

 本体オリジナルはちゃんと神様を続けているし、私が飽きたり死んだりすれば、私の意識は本体オリジナルに戻って同化するらしい。


 人間の分身体アバターとなった私は、神様の力が使えなくなる代わりに、この世界に住む、亜人も含んだ人型生命体の中で最高の能力値が授けられている。

 普段は人間並みに制限されているけど、ドラゴンに踏まれてもそう簡単には死なないという自身はある。実際に試したことはないけど。

 それに職業は聖職者プリースト。神様の力は使えないけど、神の奇跡を代行できる。


「さてと……」


 再び、大型地竜エルミキャニオンへと視線を向ける。

 制限を解除すれば簡単に片付けられるんだけど、しばらくこの国に滞在するつもりなので、できれば変な誤解……でもないけど、せめて人並みの能力で退治したいと思ってる。

 

 ……そうだ。


「その銃、借りてもいいかな?」

「だ、ダメに決まってんだろ。この銃は兵士の命だって、知らねぇのか」

「そうなんだ……残念。それがあれば、アレを倒せるのに」


 見るからに粗野な男が、怒気をまとわせつつも面白そうにニヤリと笑う。


「ほう……。この銃のことも知らねぇ素人が。やれるもんならやってみやがれ」


 ドンと胸を突くように銃を渡された。


「キャッ、どこ触ってんのよ……」

「わ、な、何言ってんだ。わざとじゃねぇし……、いや、当たってねぇだろ」

「まあいいわ。ちょっと借りるね」


 触って少し調べれば、使い方や性能はすぐに理解できた。

 念の力を弾に込めて撃ち出す銃。

 だったら……


「おい、嬢ちゃん。前、まえっ!」


 地響きがしているのだから、ちゃんと気付いている。

 兵士たちを巻き込まないようにと、私も大型地竜エルミキャニオンに向かって走り出す。

 あの男の驚く声が聞こえたけど、今はどうでもいい。


 ガチガチの鱗に守られて、突進するかブレスを吐くことしかできないと思っていたのに、思ったよりも動きが早い。

 歩く速度は遅いけど、腕や口、尻尾などの瞬発力が尋常じゃなかった。


「私じゃなきゃ、死んでたね☆」


 鋭い爪の一撃をひらりと避けて、その腕を踏み台にして飛び上がる。

 狙ったように巨大な口が迫って来るが、私はそれを待っていた。

 白く輝く光弾を、口の中へと撃ち込む。

 これでもう、迂闊に口は開けないはず。

 じゃあ次は……

 地面を走りながら属性表示ジェムマークを緑に光らせ、脇腹に撃ち込む。

 続いて、切り裂かれた傷口に向けて、光弾を二発。


「あとは……」


 いい方法を思いついたけど、さすがに実行をためらった。


「まあ……、私のじゃないからいいよね」


 動物ならば必ずある部位、排泄口。そこに銃身を突っ込んで光弾を連射する。


「これは効くよね……いろんな意味で」


 尻尾の一撃をひらりと躱し、背中の上を走る。

 当然、振り落とそうとしてくるけど、もうロクに動けないのか抵抗は弱い。


 さあ、トドメ!

 首の付け根で立ち止まると、緑の銃弾──風の刃で鱗を剥がし、青の銃弾──氷の槍で貫き……


「あれ? 壊しちゃったかな……」


 念を込めても属性表示ジェムマークが光らない。

 不思議に思って調べると、ただの弾切れだった。

 その目の前に新たな銃が現れた。

 宙を舞うそれをジャンプして手に取ると、黄色の銃弾──最大出力の雷撃を、大型地竜エルミキャニオンに突き刺さっている氷に向かって撃ち込んだ。


 シュタッと地面に降り立つ。


「はいこれ。あなたの銃よね。助かったわ」

「ああ、役に立ったのなら良かったよ」

「えっと……、こっちのは、あなたのよね。ほら、ちゃんと倒したでしょ?」

「いや……まだ、動いてんだけど……」

「あっ、大丈夫、ちゃんとトドメは刺したから」


 神経に高圧電流を流したら、どんな生物もイチコロなはず……

 しばらくゆらゆらと首や尻尾を揺らしていた大型地竜エルミキャニオンだったけど、プツリと糸が切れたかのように地響きを立てて倒れ伏した。

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