グリーンランド 5

「おはようです。随分、早いお帰りで」

「ナビィが、ナビの代わりだっていうことを、今、初めて理解した気がするよ」

「言葉遊びですか? 活字じゃ伝わりにくいですよ」

「いつも通りで、何よりだよ」


「で、なんでアリサさんは、外でソワソワしているんです?」

「やっと、言葉が通じないって、理解できたみたいだよ」


「今! 今ですか!

 さすが、頭良いらしいけど、理解力の低い、アリサさんですね」


「なんで、ナビィは、人を馬鹿にするとき、そんなに元気になるのかな?」

「かわいいでしょ?」

「ムカつくなぁ…」


 パタリと扉を開け。

 アリサが乗り込むのを確認しながら、翻訳機のスイッチを入れる。


「これじゃあ、私のつけで、部屋をとった意味、ないじゃないの!」

「車を動かすのも、タダじゃないんだけどなぁ…」


 ガソリンメーターは、三分の一を消費したと、メモリが訴えていた。


「え、なにそれ」

「何事も、タダじゃ動かないの。燃料がないと、車は動かないんだよ」


「ねんりょう?」


「うん、お金がないと、ね。

 もう、目的地に着けないって事だけ、理解してくれれば、十分だよ」


「また、馬鹿にして」

「馬鹿にしている訳じゃ、なくてさぁ~?

 アリサは、よく南の管理者なんて、できているなぁ~。

 なんて、思ってるだけだよ」


「同じことじゃないの!」


「だってアリサは、馬鹿じゃなくてさ。

 分からないモノに対する理解力が、低いだけじゃん」


「それは、褒めてるの、けなしているの?」


「両方だね」


「……」


「そろそろ、なんで追われているか教えてよ」

「私の、この心は、どうすればイイの?」


「知らない。で、なんで追われているの?」


「知らないって、はぁ…。追われている理由よねぇ…」



 いろいろと、考えているアリサに。

「アリサさん。そうです。そうやって、あきらめるんです」

 ナビィは、的確に茶々を入れていく。


「……。政治的な話だけど、理解できる?」

「僕の国よりは、絶対に単純明快だから、もったいぶらずに、早く話してよ」


「琴誇の国は、すごいっていう、遠回しなアピールが、ひどく腹が立つわね」

「すごくないよ。本当に。アリサ達が住んでる世界のレベルが、低いだけ」


「どうすれば、そんなレベルが上がるのよ?」


「それだけ、人の血が流れて。納得がいかない秀才たちが。

 それこそ身の程も知らずに、突き抜けて死んでいった結果だよ。

 歴史を積み上げたら、そうなったってだけ」


「……」


「申し訳ないけど、この世界に、龍が現れてから死んだ人の数よりも。

 間違いなく、僕の世界のほうが、無駄に、人が死に続けたハズだよ」


 西暦以前からの生活が、わかり始めている昨今。

 我らがご先祖、ホモ・サピエンス族が駆逐した数を、なんとなく数え始めたら。

 ほぼ、同種の抹殺の歴史からでも、相当数になるだろう。


「……。で、なんで、追われているかだったわね」

「そうだね」


「私が、守護者達が結託している輪から、離れたからよ」


「へぇ~。アリサは、ちなみに、なんて言って抜けたの?」


「龍を王座に干渉させないように、離別させて。

 人だけの統治を行おうとしている、東西と北に対して。

 北大陸の産業として、一番、規模大きい南管理の私が。

 それは間違っているって、言っただけよ」



 得意げに話す、アリサの話しを要約すること、こうだ。


 龍が、この世界に表れて、もうすでに数百年がたち。

 表舞台から降りたといっても、各大陸の根本には、確実に龍が存在している。


 北の青龍は、現在の文化を作り上げるため。

 生活を「力」ではなく「方法」で作り上げた。


 各大陸よりも、北の大陸内は、まず拳を振り上げることはない。

 口論、経済戦争、裁判の是非を言い始めたら、キリがないが。

 物理的に、相手を殺す発想が希薄だ。


 紛争・抗争は、必要なものを得るための「方法」であり。

 ソレそのもの自体に、意味はなく。

 相手の畑よりも、畑で育つ作物の制作方法のような。

 経験・知識のほうが重要だとすり込んだ。


 一番、驚くべきことは。

 すり込んだ張本人が、数百年たった今でも、生存していることだ。


 今の世界の基盤を作り上げた、現存する四龍は。

 まだ玉座に意見できる、立場と権限を残している。


 つまり、人をまつり上げる、王国制度をとってはいるが。

 王と政府だけで、何かを決めることが、できないのだ。


 王国だからと言って、好き勝手にふるまうことが、許されない。

 王の下には、当然権限を持った者がいる。


 通常の王国制度は、この権限を持った者と。

 その下に連なる貴族たち。

 彼らを使いながら、王は王の考えのもと。

 しがらみをすり抜け、決定を下していくものだ。


 王が、最終決定権を持つのだから、王の命令を、否定することは許されないが。

 王とて人間だ、決定を下した先で得られるモノを意識する。


  だが、下のモノは、決定を否定ができないからこそ。

 決定する前に、かしこまり。

 権力を与えられた者たちは「進言」が、許されている。


 だが、北の大陸で王の役目とは。

 皆の意見を、最終的に決定する以上の力を持たない。


 王の決定の先に、青龍がいる。


 すべてを決められる人の王が。

 青龍に、すべてを一度、進言しなければならないからだ。


 青龍の承諾を得ない限り。

 王国は、なんであれ、実行に移すことが、許されない。


 干渉を極力嫌い。

 自己利益を考えない青龍は。

 最悪を取り除き、最善を口にしているだけなのは、間違いない。


 だからだろう。

 青龍は、人に干渉する、邪魔な存在に成り下がっていた。

 不満全ての担い手とでも、言えば良いだろうか。


 普通、王が失敗すれば、王の首が飛ぶ。

 だが、最終決定権が、青龍にあるのなら。

 決定されたあとの、不満は、全部請け負うというコトだ。

 こうなるのは、当然だろう。


「だから、私以外の守護者たちは、竜を、玉座から完全に下そうとしているの。

 それが一番、正しい形だって」


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