グリーンランド 6


 守護者の立場からすれば、自分個人の意見だけで発言できるハズもない。

 アリサのように、守護者の立場と利益だけで口を開ける方が珍しい。


「それだけ、青龍が、口うるさいってこと?」


「青龍が、口うるさかったことなんてないわ。

 だけど、中途半端なことや。

 その場しのぎの事柄、先に不幸を押し付けるような方法は。

 すべて考え直せと言うのよ。


 青龍は、悪いことがあって。

 今、苦しんでいるのは、おまえらがやったことの結果なのだから。

 生きているうちに責任をとれ、って言うだけ」


「青龍のイメージがすごく、変わってきたよ」

 本当に、青龍は。

 貴族・王族社会に組み込まれても、青龍だ。


「青龍に、人が考えるレベルの化かし合いなんて、意味ないわ。

 それすら飲み込んで、善悪を決めているんだもの」


「そういうこと言う、アリサって、賢く見えるね」


「……。真面目に聞く気あるの?」


 龍は、その時代に生きる人間の甘えを許さない。

 方法には、どうしても、メリット・デメリットが存在する。


 政治とは、いかにデメリットを相手になめさせ。

 メリットを吸い上げるか、と、いう戦いだ。


 だからこそ、下手な政治には、デメリットだけが残される。


 デメリットをなめる相手が、誰か。

 その誰かが、青龍に不満を募らせ。

 長年生きる青龍は。

 誰にでも、まんべんなく不満と嫌悪を、向けられているのだろう。


 それでも、青龍は。

 それを、改善するまで、次には進ませない。

 知恵と教養の北大陸のご神体としては、これ以上なく正しい。


 海龍のおかげで、各大陸の国境線は、絶対に守られている。


 国内の問題を、問題ないように見せるには。

 自分が死んだあとの未来に、押し付けることだけだ。


 そんなことを、青龍が認めるはずがない。


「大体わかった。

 理由は何でも良いけど、政治をしている人たちには、青龍が非常に邪魔だから。

 いなくなって、ほしいわけだね」


「それが、人のためになると、本気で信じているのよ」


「どこかで聞いたような話だなぁ…」


 アリサ以外の守護者達は、龍に政治介入させなように動いている中。

 それを持ちかけられたアリサは、ハッキリと断ったのだ。


「私は、青龍様に認められるよう、頑張るべきだとおもうわ」


「アリサ、カッコイイなぁ…」


「青龍様が言ってくださることは、いつも単純明快で。

 一つのことを、言葉をかえて、言い続けているだけよ」


「なんて言ってるの?」


「早く、成長しろ。

 今あるものが、最善ではない。

 だらけず、甘えるな。

 現状維持で、早くに滅びるのが、おまえら人間だって」


「……」


 アリサのひどく真面目な顔が、ハッキリと言い切る態度が。

 南の管理者を彷彿とさせる。


 アリサの姿もそうだが。

 青龍の考えを、そこまで読み取れているアリサに、琴誇は、言葉を失った。


「この人、誰ですか?」

「ナビィ。あれは、アリサだよ」


「龍のイメージもそうですが…。

 悔しいですが、今ので、私の中でアリサさんの株価が上がりましたよ」


「素直に、ほめてくれて良いのよ?」


「僕は、そっち方面に、頭の全部を使ってしまったんだなぁ…。

 って思ったよ、ナビィ」


「あ、そうか。私も、訂正しなければ、ならないですね。

 全部はダメでした、それ以外も頑張りましょう、アリサさん」


「……」


「で、ついにアリサは、青龍に認めてもらえるような考えをまとめて、ブルーリバーから出てこようとしたら、妨害だらけだったと」


「だから乗ったのよ、悪い?」


「現金を持っていないあたりが、最悪に悪い」


「世の中、現金が、全てじゃ、ないでしょ!」


「今、現金がないから、みんなで頭を抱えてるんだよ、アリサ」


 アリサは、右手で後頭部をかき。

 胸元から、茶袋を抜き出し、中身を取り出した。


 チャリンと、少ない硬貨の音が車内に響き。

 金色に輝く硬貨を、琴誇の前に差し出す。


「これが、今の全財産よ」


 手のひらで光る三枚の硬貨に、琴誇は、眉間にシワを寄せた。

 この貴族様は、現金三万円だけ握りしめて、逃げ回っているらしい。

 今どきの高校生でも、もっと裕福だろう。


「ナビィ、もつと思う?」

「ガス代だけなら、何とかなるかと」


「食費は?」

「すごく、ギリギリかと」


 いくら、お金のやり取りがあろうと、現金がなければ、誰も潤わない。


 個人同士で、いくら数字のやり取りをしたところで、何一つ変わりはしないのだ。

 今、求められているの「現ナマ」である。

 「ツケ」が、できる場所には、限りがあるのだから。


「泊まりやめにして、早く、走ったほうが良いよ、アリサ」


「それは、ダメよ」

「なんで、ダメなんだよ?」


 アリサの表情は、うって変わり。

 苦虫をかみ潰したような、複雑な顔を見せ。

 ため息と、ともに、言葉を吐き出す。


「矢倉を焦げさせたから、怒られてこないとイケないのよ」

 琴誇とナビィの口から。

「さすが、アリサ」という言葉が、同時に出たのは言うまでもない。


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