君には、タクシーをしてもらいます 4


「だから、そう言ってるでしょうに」


「え、いや、コレ。何があったんだし?」


「琴誇君、言葉が乱れてるよぉ~。

 神になって、イメチェンしたんだよぉ~」


「イメチェン? そんな次元の話じゃないんですけど?

 別の生き物なんですけど?」


「ふふふ。そろそろ、バカにするのやめないと、怒るからねぇ~」


「どうしたら、こうなるんですか」


 写真と、自称神・後藤を交互に指差すという、実に失礼なアクションが。

 後藤の口を、軽くさせる。


「ビールでも飲んで、嫌なこと忘れようと思ってさぁ~。

 冷蔵庫を開いたら、ココだったんだよ。

 そんで、ビールの代わりに、この本が置いてあったんだ」


 後藤は、緑のハードカバーの、辞典と同じ厚みをもった本を、教卓の上にのせ。


 金色の文字といい、深い緑の具合といい。

 学校の図書館に置いてあるような、国語辞典のようだ。


 金色の文字が、目に、たたき込んでくる、インパクトを除けば。


「とある神のインデックス……」

 どうやら、最近の要素も取り込んだようだった。


「これを開いてみたらさぁ~。

 分かりやすく、説明が浮かび上がってきたのよ。

 あなたは、今日から神様ですって」


 これが後藤の、神様になった日である。


「えっと、ちょっと待って…。

 ソレって、後藤さんは、神ですらないってこと?」


「いや、俺は神になったぞ。たぶん。

 まるで、小学生にも、わかる科学みたいにね?

 分かりやすい絵と、解説つきで、この本が、説明してくれたし」


「それで、納得したんですか?」


「納得も何も、本に書かれていることは、全部できるし。

 本当に神様気分を味わっているから、信じるしかないでしょうが」


「神様気分って、なんですか?」


「俺の世界でなら、だいたい、なんでもできるし。

 他の世界にも、君を連れてくるみたいに、干渉できる感じ?」


「で、かわいそうだから、僕を、後藤さんの世界に放り込もうと?」


「そうだねぇ~」


「棚ぼたパワーで、人の命を、もて遊ぶの、勘弁してもらって良いですか?」


「うるっさいなぁ~。で、琴誇君。本題だけどね」


「その前に、僕に拒否権は、ないんですか?」


「あるよ。そんなに嫌なら、このまま、向こうの世界に戻してあげるよ。

 何に生まれ変わるか、分からないけど。

 運良く人に生まれても、赤ちゃんスタートで。

 君が、君だって、自覚できる瞬間は、永遠に来ないけどね」


「ないですよね? 拒否権、ないですよね?」


「なにか、ココまでで、質問あるかい?」


「なんで、後藤さんは、女体になったんですか?」


 後藤は、深く息を吐き出し。


「琴誇君、君さぁ~。想像してごらんよ」


「なにをですか?」


「登場のアレね。自ら演出してんだけど。

 神々しい光とか、浮いたりとかして、神様が、登場したときにさぁ~」


「自ら、演出してるんだ」


「中年デブ男だったら、どうよ?」


「言葉を失いますね」


「でしょ? で、女になろうと思ったわけ」


「発想がバカすぎて、ついていけないです」


「やっぱり、神様っぽい外見って言ったら、綺麗な女性じゃないかぁ~」


「えらく、童貞男子に偏った発想ですね。男性神だっていますよ?」


「だって女のほうが、いろいろと楽じゃん。

 外面だけキレイにしとけば、神様業、楽だしさぁ~」


「全国の女性を敵にまわしたあげく、神様を、仕事と言い切りますか」


「だって、女に、なってみたかったんだもん!」


「結局、ソレなんですね? 一番、大事なのは、ソコなんですね?」


「だから、童貞じゃないよ、俺は」


「気にしてたんですか」


「処女でもないけど」


「その先を聞きたくないので、別のことを聞きますけど。

 後藤さんは、なんで、その容姿にしたんですか?」


 後藤の容姿は、とても神話で描かれる神ではなく。

 かなり、あるジャンルに偏っている。


 明らかに幼く、かわいい方向へ。


 身長も大きくなく、出る所は、出していく方向へ。


 きっと脱げば、男の子は、下半身が熱くなることだろう。


「俺の好みだけど?」


「神様、関係ないですよね?」


「かわいいほうが良いだろ! 萌えるだろ!」


「ちなみに、声が、そんななのは。

 今、声を作って話している訳じゃ、ないんですよね?」


「もうコレが、地声だねぇ~」


「その容姿と声で、オヤジトークされると。

 スゴく、やるせない気持ちになるんですけど?」


「下ネタ言ってるときが、一番クルものがあると、俺自身、思ってる」


「絡みずらい神様だなぁ…」


「エッチなのは、いけないと思います!」


 琴誇は、深く考え、突っ込んではいけない、と。

 違う神の声が、聞こえた気がした。


「で、僕は、具体的に、どうすれば良いので?」


「よくぞ聞いてくれました。後ろを見るんだ!」


 後藤が指差す方向へ顔を向ければ。

 よく知る、車両が琴誇に、挨拶をしているように光る。


「マジで、出てきたよ…」


 ちょっと、ビックリさせてやろうと、今までの流れを作ったのではなく。

 本気で乗せる気なのだと、後藤の顔は言っていた。


「僕、二種免許、持っていないですよ?」


「大丈夫、大丈夫。俺の世界に、免許証なんてもんないし。

 むしろ、自動車すらないし」


「…はぁ? ちょっとまって。どういうこと?」


「道はあるけど、舗装されてないし。

 アスファルトを、俺の世界の人達に聞いたら、首をかしげると思うよ?」


「いまいち、よく、伝わってこないです」


「だからぁ~。白線も、道路標識も、信号も、ないんだから。

 運転免許なんて、あるわけないでしょ?」


「ん? 僕がやることは、なんですか?」


「タクシー業務だねぇ~」


「ドコで、やるんですか?」


「俺の世界で」


「文化レベルが、僕の想像道理なら、中世後期ぐらい。

 日本で言えば、江戸時代前ぐらいで、間違っていないですよね?」


「まぁ、細かくは違うけど、そうだねぇ~。

 アイツら、タラタラ陸路を行くからさぁ~。

 もっと、早い乗り物、用意してやろうと思って」


「荷物を運ぶトラックとか、たくさん人を運べるバスとか、じゃなくて?」


「それじゃあ、重くて、タイヤが地面に沈んじゃうよぉ~」


「……。マジで?」


「マジで!」


「本当に?」


「本当に!」


「頭に脳みそ、つまってます?」


「神様に向かって、失礼なヤツだなぁ~」


「バッカ、じゃないですか!?

 順序飛ばしすぎにも、程があるでしょ!

 籠屋だとか、荷馬車の馬が、パカパカしてる中に。

 自動車、しかもタクシーで、入っていけと?」


「そ。しかも、その収入で、生活してもらいます」


「ルール無視ですよねぇ?」


「いや、道交法は日本のものだし。むしろ、地球ですらないし」


「ガソリンとか、どうするんですか!」


「大丈夫。考えてあるよぉ。おいで~」


 暗がりからか現れる、琴子の腰ぐらいの背丈の。

 絵にかいたような、よぼよぼ老人が、琴誇の前に立つ。


「いちいち、意味が分からないんですよ、アナタが、することは!」


「この人が、必要なモノを、お金と引き換えに、琴誇君に、提供するんだよぉ~」


「有料なんだ! しかも、他人任せなんだ!

 後藤さんが、いろいろ、しないんだ!」


「ダルいし、俺が使うおこずかい、欲しいじゃん?」


「自分の世界で使う金欲しさに、僕が、タクシーやるんですか!」


「だって、独占市場でガッポガポでしょ? なんとかなるって!」


「アンタ、感覚で生きすぎだよ! 商売なめすぎだ!」


「で、この、おじちゃんの召喚方法なんだけどね?」


「今度は召喚ですか?

 次から、次に、ポンポン投げ込みますね、アナタは」


「いくつか、候補があるわけだぁ~」


「……。いや、普通に呼ばせてください。このかたのお名前は?」


「おいちゃん」


「いちいち、反応に困るんですよ、そういうボケは」


「いやいや、ボケじゃなくて」


 顔の前で、手を振るあたりが、本意を読みにくくさせている。

 自覚が、後藤にあるか、どうかは、非常に疑問だった。


「名前が、おいちゃん、とでも、言うんですか?」


「ザッツライト!」


 両手で指を指され。

 同意を求められる側の気分を、くみ取れるかどうかも、疑問だ。


「で、このおじさんの召喚方法だけどね?」


「もう、勘弁してくださいよぉ~。死んだばっかなんですよぉ~、僕」


 次々と、ブチこまれる後藤のネタに、本気で、つきあわされ。


 全てを諦めた頃には。

 琴誇は、車と一緒に、異世界へ飛ばされたのだった。

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