君には、タクシーをしてもらいます 2

 強い光を感じ。

 見上げた視界に映る、真っ白い衣装の女性。


 神々しさを、感じずにはいられない景色に、琴誇は見とれ。

 光をまとった女性が、目の前に降り立つ。


 優しい顔立ちは、ほほ笑み。


 和服を基調とする。

 白い露出度が高めの、ヒラヒラとした衣装は。

 大きすぎず、小さすぎず。

 形の良い胸と、ボディラインを浮き彫りにし。


 キメ細やかな、白い肌が。

 琴誇の視界を、誘惑する。


 ミニスカートからのびる、おみ足は、白い二ーソックスに覆われ。

 かわいらしい、小さな靴が地面を突く。


 白に、アクセントの、小さなピンクのリボン。

 すべてが、かわいらしく見え。


 小柄な体つきが、その印象を、もっと抽象的にする。


 彼女は両手を、ゆっくりと、真横に水平に広げ。

 あさっての方向に、突きだしていく。


 キレイに、そろえた両足は、はしたないまでに広げられ。

 あと、もう少しで、見える角度まで腰が落ち。


 目線だけ琴誇に向け、顔を、手をつき出した方向に、そらす。


 まるでバイクに乗った、ヒーローの決めポーズのように。


「神! 参上!」


 BGMもない、静かな空間に。

 かわいらしいアニメ声が、突き抜けていく。


 琴誇は、漂う抜群の昭和臭に、なにも言えなくなり。


 目の前で、繰り広げられる奇行に、頭が、追い付かない。


 琴誇は、黙って成り行きを見守った。


「反応、薄いなぁ」


 なんて、グチッぽい小言を、聞き流しながら。


 疑問だけをうかべる、琴誇の視線の先で。


 神と名乗った彼女は、右手の指先を、鳴らす。


 どういう原理なのか、理解できないまま。

 地面から現れる教卓に、神は両手を叩きつけ。


 一人、棒立ちしている生徒に、言い放つ。


「じゃあ、本題ね。君には、タクシーをしてもらいます」


 今度は、平成初期、ミレニアムの匂いがした。



 顔を傾け。

 無駄に声を作っている意味を、くみ取っては、ならないのだろう。


 琴誇は、深く頷き。

 目の前の女性を、にらむ。


「理解が、早くて助かるよ」


「いえ、アナタが全力で。

 僕を、馬鹿にしているって事が、分かっただけですよ?」


「バカになんか、するかよ。俺は、大真面目だっつうの」


「……。だっつうの?」


「ソコなの? 一番、初めに拾ってくれるの、ソコなの?」


「とりあえず、説明を求めても良いですか?」


「その、俺が犯人的な言い方、やめてもらって良いかい?」


「じゃあ、キャラ作り間違ってるんで。

 ちょっと、直してもらって良いですか?」


「キャラじゃねぇよ! 作ってねぇから!

 俺が、君をココに連れ込んだ原因だと思うの、やめてもらって良いか、マジで!」


「じゃあ、違うんですか?」


「俺だけども」


「ボクが、すっごいイライラしているの、伝わりませんか?」


「じゃあ、手短に」


「最初から、そうしてくれると、僕も助かるんですけど」


「パンパカ、パ~ン」


 自称神は、片手を大きく振り上げ。

 振り上げた手を、アゴに手繰り寄せ、眉をつり上げる。


 芝居がかった動きの果てに。


「君は、死にました」


「よし、殴ろう。そうしよう」


「神様に、手をあげるとか!

 マジで、罰当たりすぎるでしょ!」


「だったら、人をバカにするのも、大概にしてください」


「バカになんか、してないでしょうが! 事実だって!」


「ココが天国とか、地獄だとか、言うつもりですか?」


「違うけどね」


「分かりました。

 頬を全力で叩きますんで、目を覚ましてくださいね」


 琴誇は、迷わない足取りで、自称神に歩みより、右手を振り上げる。


「ちょ、ま、待てって! マジなんだって!

 君、死んだんだって! 心当たりあるでしょうに!?」


「あるか、ないかでいえば、あるけど」


 全力で、バックアクセルを踏んだ記憶から、先がないだけで。

 死んだと言われても、現実味にかける。


 実感を、遠ざけているのは。

 教卓前に立つ人物が、一役かっているわけだが。


「あるんじゃん!」


「指差すの、やめてくださいね。

 それと、そろそろ、ビックリ大成功の立て看板、出してください」


「実感を持てないと?」


「持てませんね」


「では、VTRどうぞ」


 機械的な音を隠さないプロジェクター幕が降り。

 どこから照らしているか分からない光が、弱まっていく。


 ドコにあるんだとは言わせないタイミングで、用意されていく機材たちに。

 琴誇は、ため息を吐き出した。


 木の葉から、さし込む光をバックに。

 ゆっくりと浮かび上がる、白い文字。


 柊 琴誇 ヒストリー 享年 十八歳。


「……。ココは、葬祭場ですか?」


 突然、激しい効果音が流れ。

 白文字の上に、筆で書きなぐった赤文字が表示され。

 デカデカと、存在を主張する。


 怪奇 青春の全てをかけ、車を買った当日に。

 不本意ながら、自殺してしまう男。


 どこぞの、動画のサムネのようだった。


「映像を止めてください。そして、今すぐ殴らせろ!

 もう、女性でも容赦しないからね!」

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