2話 君には、タクシーをしてもらいます 1

 「誰か」が。


 その「誰か」が、自分になる瞬間は、いつだろう。


 そんなに大それた事件も、イベントもなく。


 キッカケは、大きくなくて良い。


 気づけば、そうなっていた。


 部外者が、当事者になる瞬間は。

 案外、些細な事なのかも、しれない。


 いきなり、異世界に飛ばされるような。

 大きく変わる変化など、めったに起こらないのだから。


 ただ、日々の中で。


 井の中の蛙が。

 何げなく、たどり着いてしまった、井戸の縁で。


 自分ではない蛙をみて。

 話し、考え、感じ、無意識のうちに、選び続けているだけだ。


 選択の重さは、常に一定なのだから。


 年齢を積めば、より重い決断が、デキるようになる。

 長い目でみれば、その通りなのかもしれない。


 だが、当事者である、本人からしてみれば。

 当時、その場、その瞬間。

 選び続けた選択の重みと言うモノは、あまり変わらない。


 小学生が思い悩むもの。


 中学生が感じるもの。


 高校生が考えるもの。


 それぞれ違えど、選んでいるのは。

 小・中・高校生の、自分なのだから。


 選びとった先で「誰か」が、問題になり。

 損害を被るのも、おいしい思いを、するのも。


 結局、自業自得。


 起こってしまったことへの責任を、誰かに求めたところで。

 責任のありかを、決めただけで。

 何も変わらず、改善は、せずに過ぎていく。


 こすり付けた責任の持ち主を責めて。

 個人を陥れるだけ、陥れたら。

 それだけで、終わっていく。


 現代の生け贄文化の、あり方は、直接的に人を殺さない。

 殺さないから、忘れ去られてしまう。


 できることには、限りがあり。

 正論を並べたところで「できない」のだから。

 納得がいかないから、責任追及をやって。

 誰かに、感情をぶつけて。


 できないから、悪くなって行くしかなく。

 冷たいぬるま湯に、みんなでつかる。


 「悪役」を指差し。

 アイツのせいだと、何もしない。

 激情で、体を一瞬、温めても、体温は奪われるしかないのに。


 責任の押し付けあいが、完了した時点で。

 当事者たちは、解決したと勘違いし。


 もう、悪くなるしかないと思えるのに。

 実際は、そうはならずに済んでいる。


 なぜか。


 責任のこすり付けが、終了した時点で。

 「悪役」と、もう一つ。

 「面倒処理者」が、決まっているからだ。


 俗に言う「しわ寄せ」というヤツである。


 誰も気づかない「誰か」が。

 理不尽な理由で消化し。

 しわ寄せが、闇に消えているから、最悪が訪れないだけだ。


 名前のない厄介ごと。

 問題と思われない出来事。


 気づかないだけで。

 いつでも、ソコに存在している。


 誰かになる。


 何者かになる。


 簡単すぎる事実にさえ、気づけば。


 本物の正論は。

 嫌いなヤツも一緒に、みんなで解決することだと、理解できてさえしまえば。


 肝心な事実を、忘れなくて良いのかも、しれない。


 「責任」を、一番、初めに求めるのは、何もしない言い訳と。


 「責任」は、後で少しずつ清算されるものであり。

 断じて、先に求められるものではなく。

 「自由」を、与えられたモノへの戒めなら。


 コレを理解していたから。

 琴誇の姉は、スペックが高かったのだろう。


 お互いの親の連れ子だった。


 年端も、いかない年齢で出会った。

 血が、つながっていない姉弟に。

 わずかな育ちの違いが、わずかな考えの違いを与えた。


 誰もが、「誰か」に、なりたがらない。

 

 「誰か」は、大概の場合、嫌なことなのに。


 「特別」になりたがる。


 おかしな話だ。


 どちらも、変わりはしないのに。


 起こった何かが。

 自分にとって、都合が良いか、どうかの違いでしかない。


 ギャンブル、パチンコと、ナニが違うのだろう。


 同じ一万円を放り込んで。

 どうなるかと、何が違うのか。


 機械ではなく。

 人同士が、パチンコの機械のように、なっているなら。

 これ以上ない、タチの悪さだ。


 ソレを、理解していていたからコソ。


 心が愛に満たされていたから、姉は。


 柊 まりもは、琴誇が誇り、憧れ、ほれあげた人物になったのだ。


 だが、琴誇は、まだ、そんなことにすら、気づいていない。


 血がつながっていない姉に、告白させたいと言う。

 後ろ向きのくせに、前向きな。

 良くわからない情熱を燃やし、青春全てをかけた、三年間。


「えっと、どうなったんだ?」


 自宅の前に新車が納品され。

 早速、ガソリンを入れようと車に乗り込み。

 これから乗せる姉の顔を見ながら、有頂天になっていたせいか。

 視界は前ではなく、後ろに進み、一瞬で闇に落ちた。


 恐らくギアがDではなく、Rに入っていたせいだと。

 今、思ってみても、周りに広がる景色が、変わることはない。


 焦って、足が、アクセルを、さらに踏み込んだ感覚すら残っている今。

 放り込まれた、暗い空間を、見渡すことしかできなかった。


 暗い空間に、どこからか光がさし。

 踏みしめている地面は、わかるが。

 その先の闇が、床なのか、壁なのか、判断がつかない。


 文字道理、途方にくれるしかった。

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