いきなり始まる賃走 6


「なんか、神話みたいな話ですね」


「そうね。でも、誰かの作り話じゃなくて、本当に起きたことよ」


 龍は、絶対に死なず、誰にも殺せない。


 丘ぐらいなら。

 その息一つで、消滅させてしまうほどの、圧倒的な力を持ち。


 人が、いままで培った物、政治・経済・文化、常識すら。

 その大きな翼と、存在で吹き飛ばした。


 抗おうとするのが、バカバカしく思わせた、絶対なる存在は。

 東西南北に散り、四大陸に、各ルールとあり方を、浸透させ。

 歴史の表舞台から姿を消した。


 そのあとも。

 各大陸には、四龍が作った体制、信仰が、根深く残っている


「大戦から、数百年。各大陸は、各大陸なりの国を作ったわ」


「大陸間で、戦争が起こったり、しないんですか?」


「四龍の子が海にいるから、海路が、そもそも使えないのよ」


「海路が使えない?」


「ええ。大陸間に広がる海、海流そのものが、船を転覆させてしまうの。

 奇跡的に、抜けてきた人はいたけど。

 船で、たどりついたというより。

 一人だけ、運良く、隣の大陸に流れ着いただけね。

 各大陸のまわりは、大丈夫なんだけど。

 ちょうど境に向かっていくと、もう通過不能な状態なのよ」


「どうしたら、そんなこと、できるんですか!?」


「水龍が、海にいるから、誰も手が出せないだけよ」


「龍の力業、ヤバすぎないですか?」 


「でも、そうしないと、ほとんどの種族は、滅んでいたでしょうね。

 記録に残されているモノによれば。

 当時は、かなりヒドかったようだから。

 それこそ、奪ってでも、生き残ろうとするぐらい」


「はぁ…。でもそれが、どうやってアリサさんに、つながるんですか?」


 アリサは、乗り出していた体を、座席に投げ出し、ため息を吐き出した。


「アリサ様と呼びなさい」


 学がない子供を、叱りつけるようなセリフが、琴誇の背中に突き刺さる。


(この人、めんどくさいな…)

「すいません、アリサ様」


 アリサは、琴誇の言葉に、満足そうに頷き、話を続けた。


 いくら偉大すぎる龍とはいえ。

 4匹だけでは、ここまで、できはしない。


 単純に手が足りないからだ。

 そこで、龍は、人に約束という龍紋をもって、代行させた。


「この北大陸では、四人の守護人と、呼ばれているわ」


 北の大陸は、名の通り。

 ひし型に、北に長くのびる大陸だ。


 大陸北部は、人を寄せ付けない、絶対零度の世界が広がり。

 南は、緑が広がっているが。


 住居がある場所によって、生活が大きく変わるほど。

 南と北の生活状況は、全く違う。


 冬場は例外なく、白く染まる大陸なのだから。

 この大陸において、雪を見て、喜ぶ子供は少ないだろう。


 この大陸を、一つで管理するには無理があると。

 大陸内を、四つに区分した。


 区分した各地域を管理し続けたのが、守護人達と言うわけだ。


「つまり、デリエッタ=シモンは、南を管理する家って、ことですか?」

 話を聞く限り、緑が最も多く。

 生活しやすい地域の管理者様だ。


「そう言ったのよ、さっき」


 つまり、アリサの言葉を、鵜呑みにするなら。

 背後で、ふんぞり返る人物は。

 北大陸の偉い人リスト、トップ5に、ランクインしていることになる。


「へぇ、スゴいですねぇ…」


 そんなことを言われても。

 実感なんてわかず。

 琴誇は、相手に見えてもいない、愛想笑いを浮かべ。

 なんとも軽い言葉をかえした。


「え、ちょっとまって。

 なに、その反応? 話は、理解できたわよね?」

「はい、理解は、できました」


 アリサは、再度、身をのりだし。

 真横から、琴誇を、のぞき見ると。

 運転手の愛想笑いが、目の前に広がった。


「信じていないでしょ? 絶対、信じていないでしょ!?」


「信じていないというか。

 話が大きすぎて、実感が、わかないと言うか…」


「それを信じていないって言うのよ!

 証の龍紋、見せましょうか!?」


「それって、入れ墨みたいなヤツですか?」


「入れ墨って…」


 琴誇に、横を振り向くだけの余裕もなく。

 アリサの顔色を、うかがうことはできないが。

 アリサが、ショックを受けているのは、声色だけで、感じることができる。


「分かった。もう、見せてあげるわ!

 入れ墨なんかと一緒にされて、たまるもんですか!」


「ちなみに、体のドコにあるんです?」


「約束の龍紋は、心臓に真上よ!」


「イイですよ。別に、見ても、良く分からないですし」


「キィイイ。今すぐ、たくしぃを止めなさい!」

 

「いや、本当にイイですって」


「恥ずかしいけど、胸元を開いて、見せてあげるわ!」


「いえ、そういうのやってないです」


「じゃあ、どうすれば、私が言ってることを、証明できるのよ!」


「いえ、証明しても、僕の業務には、あまり関係ないので、別に証明しなくても」


「私の気が、おさまらないじゃないの!」


 琴誇は、めんどくさい客に対する対処法を求め。

 ナビィを見るが、二度うなずいて、黙ったままだ。


 こうなれば、自分で答えを見つけ出すしかないと。

 金を貯めるために。

 アルバイト漬けだった、寂しすぎる青春の一ページから。

 的確なモノを見つけだす。


「では、長い道のりですから、少しずつ、教えていただくということで」


「次の町は、グリーンランドね。

 絶対、そこで休憩しながら、私の話を聞きなさいよ!」


「速く目的地に着かなくて、良いのですか?」


「もう、十分速いから、少しぐらい、ドォって事ないわ!」


 琴誇は、静かにため息を吐き出し。

 これから続く長い道のりに、小さく呟く。


「タクシー、甘くないわ…」

 ナビィは、静かに頷きを返した。

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