第4話 古代の遺物は立ち上がる
ガシャンッ、そんな音と共に操縦レバーが現れる。
それだけでは止まらず、胸部の装甲が閉鎖され、暗闇の空間を生み出していた。
《マスター登録完了》
《現搭乗者をマスターリストに追加しました》
《ドライビング・アナライズ、開始》
《機体チェック:左腕部不明 ライトエンジン停止中》
《戦闘継続:可能》
「うぉ、結構早く動く。流石は古代の産物。計算処理能力も優秀だな」
《カメラ起動》
《視界良好》
「マジか。外の映像、凄い綺麗に映ってる。ハハッ!」
閉じた胸部の内側と両端の黒い板は、【ハーモニィクス】のカメラで読み取った光景を映すためのモニターであった。
こういうシステムは、ほとんど今のMAGと相違なかった。
「お、おいレイド! 【ハーモニィクス】のカメラ起動してるぞ!」
ルインは呼びかけるが、その声はレイドに届いていない。
通信機も置いていなかったため、今の【ハーモニィクス】は人の声を聴きとれるだけの能力を持っていなかったのだ。
ルインの焦りを知らず、レイドはそのまま操作を続ける。
操縦レバーもペダルも、登録する前にあった重みがなく、もう自由に動かせる段階になっていた。
そうなれば、彼がとりあえず取る行動は一つだった。
「よし、立つぞ、【ハーモニィクス】」
「は……おいおいおい、嘘だろ!?」
まさかすぐに動かすとは思わず、ルインは驚きながらも距離を取る。
「やっぱり、マニュアル操作の方がしっくり来るな。前の俺も得意だった感じだし」
MAGには二つの操縦方法がある。
一つは魔力操作型。
主流のやり方であり、レバーに魔力を流すことで考えたことをそのまま反映させる操作方法である。
直感的に動かせる半面、集中しなければいけないことが弱点だったりする。
もう一つは、マニュアル型である。
ある程度はオートで制御してくれるが、基本的な動作は全てレバーとペダルを用いて行う、いわゆる玄人向けの仕様となっている。
魔力操作型と違って魔力を使うことはないが、複雑な操作が必要になってしまうのが弱点であった。
【ハーモニィクス】の操縦はマニュアル型と似ており、レイドにとってはやりやすい操縦法であったのだ。
集中する。
操縦法が似ているとはいえ、まだ感度を変えていないのだ。
冷静に、レイドは【ハーモニィクス】を立たせようと操作する。
左ペダルを前に出すと、連動して機体の左膝が地から離れだす。
左右のレバーをゆっくりと後ろに引けば、機体の重心もまたゆっくりと後ろに動いていく。
左腕がないので、重心に変化があるのも忘れない。
「……できた……ほぉ」
その瞬間、【ハーモニィクス】は立ち上がっていた。
思わず、感嘆とした声を零す。
【ハーモニィクス】の乗り心地の良さに感動していると、画面の端でルインの姿が映っていた。
目を細めて見ると、怒っているようにも見える。
「レイド! 動かすなら動かすって言えよ! てか、これ聞こえてんのか!?」
「ん、ルインさん、なんか怒ってる? まずいなぁ。これ、マイクの魔道具とか入れてないのか?」
《マスター、外部へのコンタクトを要求》
《外部スピーカー:起動不可》
《敵対意志:なし》
「これ、外の声とか聞こえてないよな? これ、どうやって前開け――」
《ハッチオープン》
「え、開いた? どっかスイッチとかでもあったのか?」
【ハーモニィクス】の中にいた存在など気にもせず、レイドは外に出た。
「おーい、レイド! 聞いてるなら返事しろって!」
「すみません、ルインさん。立てそうだったので、立ってみました!」
「あー、そっかなら仕方ないなとでも言うと思ったかッ! 心臓が口から出てくるかと思ったわ! たっく……で、通信機とかないのか、そのMAG?」
「そうみたいですね。あっ、もう少しだけ――」
『乗っても良いですか?』。
そう聞こうとした瞬間であった。
「――へぇ、これがここの最高のMAGかい?」
女性の声だった。
部屋の扉の方へと視線を向けると、バーンと同じような軍服を着た女性が立っていた。
レイドは『知ってる人ですか?』とルインに視線を送るが、『いや、知らん』と首を横に振る。
「なーんでこんなちんけな店に来たのかと思えば、なるほどな。こいつをアタシにくれるためだったか」
おそらくバーンの部下なのだろうが、レイドは信じがたい気持ちだった。
どうにもガサツな雰囲気で、彼の思う軍人像とはえらくかけ離れているように見えていた。
加えて、店のことを馬鹿にされたのもあって、彼女への印象は最悪であった。
それだけならまだ良かった。
レイドとて、店の従業員の一人だ。
面倒だろうが、嫌な客だろうが、店の評判を落とさないために取り繕った態度を取ることくらい慣れたものである。
「ちょっと、ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
無論、先輩であり大人であるルインもそれは同じだった。
レイドは自分の先輩に任せることにした。
子どもが言った所で意味がない、そう思ったからだ。
だが次の瞬間、レイドはそれが浅はかだったと痛感することになる。
「あぁ? それがどうした。んなことより、こいつを貰っても良いよな。なにせアタシは優秀なんだからな」
「親方からそんな話は聞いてませんよ。これは親方のコレクションなんです」
「たっく、うっせぇな。アタシは軍人だぞ? どの権利があってそんなこと言えるんだ?」
「だったらその証拠を――」
――バシンッ!!
「グッ!?」
ルインが、女性に殴られていた。
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