第3話 イェス・オア・ノー?
レイドは早速、先輩のルインと共に作業を始めた。
「うっし、俺が
「……了解」
「悪いな、先輩の特権って奴だ。後で乗らせてやるから、我慢しろって」
レイドは渋々了承する。
仕事だから仕方ないが、先に【ハーモニィクス】を触ってみたい気持ちが強くあった。
例えるなら、絶品の牛肉を使ったステーキが目の前にあるのに、先に食べられないのと同じ気持ちである。
操縦室は、MAGの胸部に内蔵された、文字通りMAGを操縦する場所のこと。
知識と適性、加えてある程度訓練を行えば、レイドの年でも操縦することができるのだ。
要するに
そう、現代のMAGは。
「……ルインさん、まだ起動しないんですか?」
ルインが操縦室に入って数分が経った。
普通ならとっくに動いてもおかしくないのだが、【ハーモニィクス】の二つ目は一向に光を灯さない。
胸部まで向かうと、操縦席でルインが焦ったように色々といじっている姿が目に入った。
「大丈夫ですか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。おっかしいな。見た目は普通のMAGと同じ筈なのに、ピクリとも動かない。この資料通りにやってるのになぁー」
「俺も見ますよ、ルインさん」
「うぅん、悔しいが一旦お前に見てもらうか」
操縦室に乗り込み、今度はレイドが操縦席に座る。
見た目は現代のMAGとほとんど違いがない。
唯一違うのは、操縦席の前に一台のパネルがあったことだ。
他にめぼしいものはなく、間違いなくこれが起動の為の必要なキーである予感していた。
「これ、操作パネル?」
「ああ、けど俺が触っても全然――」
――ピコンッ!
「えっ、嘘だろ?」
「起動、した。あっいや、起動しましたよ?」
「みたい、だな。どうしてだ?」
ルインは驚きを隠すことができなかった。
レイド程の能力はなくても、彼とてMAGの知識を持つ職人だ。
彼もレイドと同じようにパネルが怪しいと思って触っていたのだが、一向に反応することはなかった。
「手袋が邪魔だったのか? いやでも、お前もしてるよな? 汚れてたのか?」
「誤作動、もしくは……【ハーモニィクス】がルインさんを拒んだとか?」
「ぶっ飛ばすぞ。て言っても、古代の遺物だからな。聞いた話じゃ、指先だけで人の区別ができたらしいし、不思議な話じゃないのか」
現代のMAGは、エンシェント・MAGを元に作られている。
エンシェント・MAGは古代の遺物であり、先祖達が生まれる前から人々が存在していた証でもあった。
だが、その詳しい技術の解明はできていない。
分かっているのは、今の技術よりも高度に発達しているということ。
そして今のレイド達のように、どんな文字を使われていたのか、どんな風に操っていたのかぐらいである。
そんな古代技術の勉強をしていたルインだからこそ、諦めは早かった。
なぜ【ハーモニィクス】がルインに反応せず、レイドが触って動いたのかなど、今の技術では解明できないのだから。
「で、どうだ。動きそうか?」
「多分。古代語は、少しだけ勉強してたみたいですね、俺。クラウドさんの資料もあるので、何とかやってみます」
「そうか。ならしゃあーね、たまには後輩に手柄を譲ってやるか。俺が外で補助すっから、お前は思う存分やってくれ」
「はい、任せて下さい!」
ルインが操縦室から離れ、レイドはパネルと向き合う。
クラウドから貰った資料の中には、【ハーモニィクス】に関する様々な検証結果が記されていた。
彼もルインと同じように起動こそ至らなかったが、それでも各種パーツに関する調べは全て行っていたらしい。
ちなみに片腕については、見つかった最初の時から紛失していたようだ。
資料を読みながら、レイドは自分が思いつく限りの操作を実行に移す。
思い出のような記憶はないが、レイドは過去に勉強したことや身体で覚えていたものは、記憶喪失であっても当たり前のように使えていた。
特にMAGに関する知識は専門並に熟知しており、リシュルクル工具店の中ではクラウド以上にできるくらいに優秀であったのだ。
とはいえ、流石は高度な文明が作った技術。
古代の知識は持っていたが、そんなレイドでも少し手こずっていた。
(うーん、多分、このパネルが【ハーモニィクス】の制御を担う端末だと思うけど、ほとんどの項目がロックされてる。片腕がないからか? いや流石にそんな訳ないよな。とにかく、何か特別なことでもしないといけないみたいだな。でも、外からは操作できないようになってるし――)
やれることを全て試した後、レイドはとある項目に注目した。
「やっぱり、操作できるのはこれだけか。まっ、ある程度は予想していたけどさ」
登録。
そう書かれた項目が何を意味しているのか。
それが分からないレイドではない。
不安はあったが、とりあえず押すことにした。
その瞬間、パネルは真っ白なへ画面と切り替わる。
そのまま白い画面から、三つの文が浮かび上がっていた。
《マスター登録しますか?》
《はい》
《いいえ》
『はい』か『いいえ』か。
そんな二つの選択肢が、パネルに表示されていた。
思わずレイドは手を止める。
どうしてこんなことを聞いてくるのか、と。
「まぁ、別に気にすることでもなかったか……失うものもないし」
そう言って、レイドは『はい』という場所を押していた。
その瞬間、レイドの運命が、動き始めた。
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