酒盛りの後で After Drinking

ライルが声を落として、ティナにこっそり問いかけてくる。


「あのよ、ティナ。『まんてぃこあ』って、どんな奴なんだ?」


「あのね! ライル、何も知らないで引き受けたの!? はあっ、これなんだから、全くもう……」


 ティナは片手を額に当てて天をあおぐ。毎度の事とはいえ、この男は……。


「なあ、教えてくれよ」


「マンティコアってのはね、醜い老人の顔したライオンみたいな身体した魔獣よ。でも、コウモリのような翼があって、飛ぶこともできる。しっぽはサソリのような棘があって、猛毒を持ってる。それに刺されたら、まず命は無いと考えて。それに、知能が高くて、魔法を使う奴もいるって話にきいたことがある。古代の魔術師達が、色んな動物を混ぜ合わせて作った魔物で、よく、財宝の番人として配置されたという事よ」


「へえ、そうだったのか。なんだか強そうだな」


のんびりと納得しているライルに、たまらずにティナが叫んだ。


「強いわよっ! 一人じゃ、絶対無理。でも、私達とギリアムがいれば、尾の毒にさえ気をつければなんとかなると思う。飛ばれると厄介だから、まずは飛べないように工夫して攻撃を考えないとね」

「ふんふん……」


博識なティナに、ライルがしきりに感心している。これくらいは、この世界で生活する者にとっては、特別な知識という訳でもないのであるが。子供の頃から人間相手の戦場ばかり生き抜いてきた男は、案外こうした知識に疎いのだ。


「なるほどな。いや、凄いな、ティナ。だてに歳をとってない」


ライルのそんな不用意な賞賛の言葉に、ティナの顔がみるみる険しくなってくる。


「あんたが無駄に歳喰ってるだけでしょうがっ! それに、あんたなんかに言われるほどまだ歳じゃないっ!! こんなにかわいくて綺麗な女を捕まえて、まったく信じられないっ!」


 たちまちティナが不機嫌になってしまった。こういう時の対処法も、ライルは最近やっとわきまえてきた。その場でなんとかしておかないと、後でかなり面倒な事になるのを、身を持って味わってきているライルだった。


「へいへい、ティナは充分若くて綺麗で、かわいさもある、俺の側にいてくれるには、もったいないくらいの美人でいい女ですよ」


 ティナがちょっと戸惑っている。

「な、何よ。そんなホントの事ばっかり言って……。ダメなんだからね、調子のいい事言ったって、私は騙されないんだから」


 と、口では言いつつ、ティナはかなり嬉しげだ。相変わらず、喜怒哀楽のはっきりした性格ではある。くるくると変わる彼女の機嫌に振り回される事もあるライルだが、段々とそれに慣れてきている様子である。


 ライル、ティナに、遊歴の騎士ギリアム、盗賊ホークスを加えて新たな旅立ちが始まる。ホークスに連れられて行ったその遺跡で、更にもう一人の男が一行に加わることになる。



~~~~第二話【御前試合】終幕~~~~


頑固オヤジのギリアム、おどけた盗賊ホークスの登場です。

次回は、さらに一人の男が加わります!

生真面目で、すました顔ばかりした冷静な男です。

んでも、酒を飲むと……

まあ、酒盛りの様子は、第六話にて。

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