婚約破棄っ、国母様は蜘蛛の神獣。

touhu・kinugosi

婚約破棄っ、国母様は蜘蛛の神獣。

「アラクネー侯爵令嬢、あなたとの婚約を破棄する」

 アプレイザル王太子は、大声で言った。

 貴族学園の卒業式である。


「家同士の政略結婚ですわ」

「王陛下の許可がなくては、勝手に破棄はできないはずです」

 アラクネー侯爵令嬢が、口元を扇子で隠しながら言った。


「真実に目覚めたんだ」

 アプレイザル王太子の隣には、ピンクブロンドで、胸部装甲の厳つい、サキュバス男爵令嬢が……


 寄り添っていない?!


 サキュバス男爵令嬢は、少し離れたところで、キラキラと王太子の顔を、期待のこもった目で見ていた。


「グッ」

 男爵令嬢を見つめる王太子の顔色が、青を通り越して白く変化した。


「この国は、卒業とともに18歳で成人する」

「成人の儀式で、神様より“スキル”を授かる」

 アプレイザル王太子が目をつぶった。


「まさかっ」

 サキュバス男爵令嬢だ。


「もしかして…」

 アラクネー侯爵令嬢がうつむく。


「僕の授かったスキルは“鑑定”だ」


「キシャアアア、コロシテヤルウウウ」

 サキュバス男爵令嬢が、正体を表した。

 醜い老婆の姿だ。

 赤錆びた包丁を片手に、王太子に飛びかかってくる。


「させませんわっ」

 アラクネー侯爵令嬢が王太子の前に出る。

 下半身は、銀色の蜘蛛に変わっていた。

 腰までの銀髪が、ふわりと揺れた。

 手首から出した蜘蛛の糸を、飛びかかってきた老婆に投げる。

 老婆は、空中二段ジャンプで避けた。

「アプレイザル様っ、お下がりくださいっ」

 両手を広げてかばう。


「…アラクネー…」


「コンドハ、コッチノバンダアア」

 老婆の周りに黒いモヤが出る。

 七体に増えた。

 

「これは」

 幻術を使った分身の術っ。


「ウキャキャキャキャア」

 七体に一斉に襲われる。

 幻覚でも、切られたと思えば傷になる。

 アラクネーは、傷だらけになった。


「アラクネー、もういい」

 王太子が前に出ようとする。


「まだですっ」

 アラクネーは、どこからともなく、取り出したクナイを、自分の膝に刺した。


「シマッタアアア」


「そこです」

 幻術をやぶったアラクネーは、老婆の本体を糸でぐるぐる巻にする。

 動きは、ハエトリ○モのそれであった。


「…アラクネー…」


「…アプレイザル様…」

「…お慕いしておりました…」


 アラクネーが、三角飛びや二段ジャンプ、蜘蛛特有の三次元立体機動を駆使して、会場から姿を消した。


 アプレイザルは、突然思い出す。

 6歳で婚約する直前に、小さな白い蜘蛛を助けたことを。

 

 アプレイザルは、アラクネーを探して旅に出る。


 五年後、聖域化した魔の森の奥地で彼女を見つけ国に連れ帰った。

 その後結婚。

 二人は、王と王妃になる。

 十人の子宝に恵まれ一生幸せに暮らした。

 

 王家は、蜘蛛の神獣の末裔として末長く国を栄えさせたのである。

 

 了

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