第26話 白と黒とグレー 後編

昨日の雨なんて忘れさせるほどどっかんぴっかん晴れていた。

晴れているというのは晴れ舞台や大事な日というもの彷彿とさせると思う。


しかしながらそんなことを思わせないほど、クラスの雰囲気は天気と対照的にとてつもなく重い。誰だよ。重力は感じないんじゃなかったのかよ。誰だよ。こんな馬鹿なことをした人。


ちらっと事件現場である俺の机に視線をやる。俺の机には、マッキーで模様が書かれていた。いや、前言撤回だ。模様ではない文字であった。しかも、「薫大好き♡」ならまだいいし、なんなら「薫養ってあげる♡」でも可。ただし、俺の机に書かれていたのは、子供でも書かなそうな幼稚な暴言。数多なそれらには並々ならぬ明確な悪意が込められていた。


あっっれれれれっれ。おっかしいいな?














回想


俺はいつも登校時刻が遅めな方だ。


今日もクラスの仲良しの証であるからかいを受けるのだと若干憂鬱な気持ちを抱きながら廊下を歩いていたある朝。教室の前に人集りができていたので怪訝な顔をし、すっと覗いてみたら、、、、。なんと原因及び事件現場は俺の机だった。



これから一体どうなっちゃうの~~~~~~~!?



びっくりでどっきりなのか疑う状況をざっくり経緯を説明したが、未だに状況を肯定できない。というか、現実逃避しすぎて韻ふんじゃったよ。


メガネの小僧も解決出来るのか心配になりそうなほど、結末が気になるこの事件。




あのおっちゃんの覚醒状態でも、謎を解き明かせないこの事件の難解さ。







しかし、俺だけはその事件の犯人をすぐ言い当てられることができる。


何故なら、俺が犯人だからだ。


俺は前述した通り、引掛けやトリックなんてしない。至極簡単だ。


あの子供も解けない、この謎は俺が犯人だったら一瞬で解決できる。


ミステリーにおいては推理をするための役割を与えられた探偵がいるのは必然だが、

犯人がいないと事件が始まらないというのもまた、真理だ。


で、あれば唯一無二の存在だとも言えるのだろう。


したがって、俺=犯人=唯一無二=孤高の存在と言えることができる。


完璧な方程式。Q.E.D証明完了。


後は、犯人の定めとして最初はバレず、行動し、終盤にバレることを徹底しなければならない。


では、これからの薫キュンの演技をどうぞご堪能あれ。


「はっ?まじで。」

俺は、口をポカーンと開けながら、硬直していた。どうしようもない、アホっ面で。

さあ反応を見よう。



「ちょっと。これ。どういうこと。」


「薫くんの机に暴言書かれてるんだけどー。」



集団になることで人間は真価を発揮する。よって、人間というのは集団の空気によって自分の行動の指標を決める。これからの空気をどう活かすか。



「薫。お前、大丈夫か。」


「えっ。ああ。おう。」

クラスメート誰かはしらんけど多分いつも俺のことをいじめてきたあいつが俺に急に優しくなる。さしもの俺でも起承転結の転転転すぎて、生返事になってしまう。


「そうだよ。薫。流石にこれは酷いねえ。」

流石にここまでを想像していなかったらしくわかりやすい焦燥を表している。

彼らの基準ではこれはレッドカードみたいである。


十分お前らがしてきた行為、レッドカードだよ。何人退場すればいいんだよ。


わかりますって。調子に乗りました。俺のしている行為も十分レッドっすよね。すいません。善処します。


「ほんとに、。これはやばいよ。ねえ。この中にいるんだったら謝ったほうがいいんじゃない。」


「犯人。早く名乗り出ろよ。犯人の方も流石に先生沙汰にはなりたくないだろうからさ。」


「そうだよ。早く謝れよ。」


「いい加減さ。子供じみたことやめろよ。本当にもう。こんな方法。今全然聞かねえよ。」


さあ、さあ、ギャラリーが盛り上がってきましたねえ。で、犯人が名乗り出て謝ったとします。ですがそれが先生にバレたら彼らはどのような行為をするのでしょうね。それは、俺の二の舞いでしょうか。


「おい。まじで誰だよ。」

そう。このような集団は一度落ち着いたら、犯人探しが始まります。本当に醜いっすね。


自分たちが信じてきた正義の剣が今、原型を損なおうとしているのだから。

そりゃ、何が何でも壊したくないよな。


でも、ぶっちゃけ。今の子供は、一定の大人と一緒だろう。犯人として吊し上げた人が犯人じゃなくてもいいんだ。そういうことをしましたという形式が欲しいんだよ。


誰かに罪をなすりつければ安心する。安らぎになる。自分の罪が薄まるようになる。


そういう、甘い思考が俺は一番キライだった。なのに、俺はそれを逆に使う。







それが一番醜い方法だとしても。










それをしなければ彼らはわからない。







さあ、役者が足りない。出てこい。冤罪をかけられる俺のターゲットを。


「ーーーーガラガラガラガラガラ」

教室の扉を、勢いよく開く。彼は嫌な笑みを浮かべ、出てくる。


そう。このいじめの主犯。花木斗真の登場である。




みんなの視線が彼に向く。いつものような仲間意識まんまんのやさしい視線ではなく、俺にも向けた射殺すような鋭い視線だ。



「は?なんだよ。」

彼は少し、困惑しているような顔でみんなを見る。


「これを見ろ。花木。」

クラスの誰だ、もう知らん。説明するのがめんどくさいわ。そこまで重要じゃあねえよ。そいつが花木を急かすように俺の机を指差す。


「はっははははは。バカじゃねえの。良かったなあ薫。お前の席が華やかになったじゃねえか。」


彼だけは面白そうに笑う。自分の心の中に蟠りもすべて発散しているようだ。

良かった。こいつだけはちゃんと根っからの悪者だった。


静寂の教室に彼だけの嘲笑はやけに響く。


「あんた。本気で笑ってるの!バカじゃないの。」


「笑ってるとかありえねえだろ。」


「いや、流石に、、。」


「こいつじゃね。お前がやったんだろ。花木。」


「俺じゃねえよ。薫。次は俺がやってやるよ。」

こいつだけはまだ、自分の置かれた状況に気づいていない。なんなら、この状況さえ、面白がってる、バカだな。


「いや。笑い事じゃねえよ。お前。まじでやばいぞ。」


「だから、やってねえって。」


「はあ?おまえしかやるやついねえだろ。」


「その根拠に笑ってるしな。」


「お前らだって薫に対して同じような行為してだろ。人のこと言えねえじゃなねえか。」


「あんたと一緒にしないで!」

彼女は泣きそうな声で全力で否定する。これに関しちゃ、花木が正しいな。


「お前さ、いい加減しろよ!何やってんだよ。クソ野郎。」


「いや、まじありえん。なにこいつ。キモチワル。」


「はあ、なんだよ。お前らだって。意味がわからない。」


「意味はわかるだろ。お前が行き過ぎた行為ばっかしてるからだよ。」


「いや、お前ほんとにバカじゃねえの。」


中学生にはこの集団による攻撃は早すぎたか。花木は泣きそうなかおをする。


「何?お前らさ。俺を裏切るのか。」

せめての思いでさっきより、優しく言う。

「裏切るってなんだよ。てかごちゃごちゃうるせえよ。お前。早く謝れよ。」


「謝ることもできないんですか?花木きゅん。」


「ほんとに俺じゃないんだって。信じろよ。」

彼の行為は全くの真実だ。だけども彼の昔の行動がそれを枠にはめてくれない。


真実というものはその人の事実であり、信頼によってその人の事実である真実を認め合っていく。彼の行動を見れば信頼なんてもう、どこにもないのだろう。



そして、いざこざがずっと続き、先生が教室に入る。


ずっと、みんなが懸念していた事が起きてしまった。



「この状況は一体どういうことですか。」

先生はこの状況を見て戦慄を覚える。どこかに恐怖を感じているようだ。ただ、先生この状況にしたのはあんたの責任でもあるんだよ。俺の責任でもある。ただ、このずっとあった出来事は誰か一人に背負わせるのは荷が重すぎる。だからこそ、分散しなきゃいけないのだ。


「ちょっと、学級会議を始めます。」

先生のその一言で全てが終わった。何もかもが。







「最後になにか、このことについて知っていることがあったら、教えてください。」

少し時間が経った後、この会議は幕を下ろした。


会議が終わってすぐ、一人の女子が先生に何かを話していた。その女子という人は昨日、どこかであった気もするが、どうでもよかった。今はそんなものを考える必要はない。俺の作戦がきれいに行き過ぎたことを悔やむしかない。



「薫さん。ちょっと。」

先生は俺を呼びながら一人で勝手に廊下に出てしまった。

犯人らしく自首しますか。俺と先生が行くところと言ったらあそこしかない。

そう、生徒指導室である。しかし、生徒指導室という場所はもとより、こういうことを叱る場所だったんだな。



生徒指導室にて



「薫さん。あなたが今日のあれをやったんですね。」

彼女はなにか諭すように優しく話しかけてきた。


「そうっすよ。」

俺はこの人と会話したくなかった。できれば、一人にしてほしかった。


「私はそのことについては、もう怒りません。ただ。」


彼女は真剣な顔をしてそういった。

「あなたのするべき行為はこんなんじゃなかったはずです。もっとなにか方法があったはずです。例えば、先生に頼るとか。親に頼るとか。」


そんなの、あなたに言われなくてもわかってた。


「その選択肢は当たり前のようにありましたよ。ただ、。」

そう。俺の基本は人間を信じていない。だからこそ、誰かに助けを求められない。それこそ人間以下の存在なのだろう。


「信じられなかったですか、今から信じてというのも無理そうですね。だけど。」


「少しでも、私が気付くのが早かったのであれば、助けを求めましたか?」

彼女は、まっすぐそう言う。


「先生は、生徒を助けるのが仕事でしょう。助けを求めずともあなたは助けるんじゃないのでしょうか?」


「ですね。本当に・・・・・・・・・。本当にあなたにはびっくりです。だから、あなたには申し訳ないことをしました。あなたの将来をこれで潰してしまったのかもしれない。」


「そんなんで潰れしてしまう将来は全然グラグラなのでは?」


「はあ。私が言えた立場ではありませんが、言わしてもらいます。教師なので。」

最後にと彼女は付け足していった。


「あなたはわざと自分を傷つけてできるだけ平和的にこの問題を一時的に解消しました。だけど、あなたは優しくはありません。優しさの意味を履き違えてます。優しさというのはいろいろですが、自分が優しく解決することで、自分の周囲を傷つけてしまうのは本当の優しさではありません。それは、自己満足です。それを理解してください。あなたはその程度の人間ではないはず。あえて私は答えを言いませんが、いつか自分のほんとうの優しさを見つけてください。それが永遠の宿題です。時間をかけてゆっくり解いてください。お願いします。」


「そしたら、あなたの知るべきものが見えてくるでしょう。」

では、といって彼女は生徒指導室から出ていった。俺も、静かにトコトコと教室に戻った。




俺は先生のことは知らない。学校という関わりを取っ払ったらただの他人だ。

だけど、先生はいい人なのだろう。


ひねくれた俺でもそれはわかる。








さっきの温かい言葉が気になって、ふと後ろを見る。


だけど、何もない景色で、窓からの斜陽が見えるばかりだ。


でも、どうにも絵になっていた。


















教室に戻ると、さっきまでのみんなの反応と違いいつもどおりの景色に戻っていた。

どうやら、あの女子がみんなにバラしたみたいだ。



こんなにスラーっと言ってるけど、すっげえ俺ピンチだな。というかまた強烈ないじめが始まるんだな。殺される前に卒業して頭の良い学校に入ろう。



だけども、決定的にその空気には違いがあった。

そう。花木とその周囲に圧倒的な断裂があった。そういうことだ。



流石にあんなに疑って、それが違ったてなると居心地が悪いのだろう。



俺がしたかったのはこういうことだった。別にバレなくても、良かったが、バレてしまっても良かったこの方法。俺の目的はこの問題を解決したかっただけだ。だから、俺はなるべくみんなが平等に不幸になるような方法を選んだ。周囲の人は、このあとにくる罪悪感を。

花木には、周囲の関係を壊すことを。先生には、このいじめを気付けなかった責任感を。

そして、俺にはこれをしてしまった罪悪感と嫌悪感と、悪感情といろんなものを。

そうして、誰も傷がつかない方法を選んだ。これが一番平和的だと思って。

実際、俺は助けてくださいと、大人に頼ればよかったし、周囲の人のせいにすればよかった。だけど、その方法が思いつかなかった。信じていなかったから、その選択肢を排していたのだろう。






当面は、このズキズキ感を楽しむとするか。


口を曲げて自虐的に笑う。













この答えは、間違っていたのでしょうか?





































BADEnd     閑話に続く























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