第23話 彼の言葉は彼女には届かない
俺達は問題解決するべく、小さな一室でホワイトボート片手に話を進めていた。
彼女から言葉をもらった俺は、どこか様子がおかしくとてもポワポワしていて、何も考えられない状態になっている。さっきから彼女の言っていることが分からず、初っ端からつまずいている。
彼女は、ホワイトボートに絵、言葉、図を書き自分の中に落とし込んでいるみたいなのだが、特段字が汚く、それはもう古代の象形文字を書いているように見えた。これで、テスト採点している先生すごいわ。こんなん見たらもう仕事辞めるどころか、こんな字を書いた生徒の前で答案用紙ビリビリに破くレベル。
は た ら き た く ね え !
そんな益体もないことを考えていると、さっきからちょこまか動いていた彼女が、こっちに視線を向けていた。彼女の視線は刺々しく、見たら萎縮してしまうほど鋭かった。
彼女の視線を耐え俺もその視線に対抗するべく、睨み返すと彼女は怪訝そうな顔をし、
でっかいため息をつき、俺に話しかけてきた。
そのため息いらないんじゃありませんか?
「薫、主犯格はこいつだよ」
っと、彼女は自分で書いたなにかに指を指し、自信アリ気な表情で言う。
「どれ?」
前記した通り、彼女の字は汚く読めない。仕方ないので聞いてみたらこの有り様よ。
なんであなたはそんなゴミを見るような目で俺を見るんだ。なに俺のこと嫌いなの。
それとも自分の欠点を指摘されたから腹が立っているの?
「彼だよ。花木斗真」
花木斗真。斗真ってあれか。モテる名前ランキング万年1位の斗真か。(俺調べ。)
いや、いたんだよ。斗真っていう小学校で一緒だった足が速かったやつ。
実際なんで小学生は足が速いやつが好きなのだろうか。なに、足が速いから就職活動で内定が決まるのも早いから、将来安定ってか。今の子供は夢ねえな。
「誰?」
「なんで一緒のクラスじゃない私が名前を知っていて、一緒のクラスである薫が、知らないの?」
「ってかなんで、その、は、葉木 、とうやか?そいつが主犯格ってわかるんだ?」
「花木斗真ね。私、前そのたく、たくみだっけ。その人が虐められているって言ったじゃん。なんでそれを知ったかっていうとこの花木くんが、その事を友達と話しているのを聞いちゃったから、知ってるんだ。だから、グループの中心にいたこの人が主犯格なのかなあって思って。」
拓哉な。人の名前はしっかり覚えろ。失礼だぞ‼
「じゃ、なんでこいつは俺をいじめたの?」
俺をいじめるなんてよっぽどの理由がありそうだな。一応前までクラスの中心にいたから、
その俺をいじめるなんてかなり根に持ってないとありえない話だからな。彼らで言う俺をいじめることはあの時まで空気を読めない奴呼ばわりされるはずだから。相当の理由がないと決断には至らないと思うんだが。
「薫が、すごかったからじゃない。嫉妬してたんじゃない。」
そんな理由で?俺が凄い?いやそれは否定しないけど・・。
でも俺はそんなにオールラウンダーでもねえぞ。実際音楽的センスは皆無だし。
なんなら、去年の合唱発表会で、女子や男子の音楽ができるやつに謝りながらその人達の時間もらって音程調節してもらったレベル。なんで、あれ自由参加にしねえんだろうな。
俺みたいに音楽できないやつは確実にのけものにされるよな。ぼっちにはきついお。
「実際、そんな俺すごくねえぞ。全部がまあまあできるだけだ」
「そんなもんじゃない。いじめる理由って。そんな些細なことでいじめって起きるもんだよ」
「・・・・・・彼らで言うできるやつは=調子乗ってる。だからね。」
と彼女は悲しく呟く。その一室は妙に静かになり、呼吸をしている音や、まだ梅雨なのか外からびゅーんびゅーんと風が吹いてる音だけが耳に残る。
彼女にもそういう経験はあったんだろう。でも実際そうだ。彼らは表ではできるやつのことは凄いや尊敬するなど浅い言葉を使い上に見てるが、そんなことを素直に思ってるやつなんて殆どいないだろう。
裏では彼らのことをお高く止まってる。や調子乗ってるなど馬鹿にすることが多い。
彼らの複雑なんて言ってる心なんて
覗いてみたら、うっすぺらいなんてことは可能性としたら全然ある。
中学生の心情なんてそんなもんだ。
「まあそうなのかもな」
と苦笑いをする。
彼女は誰かに合わせるなんてことはせず無表情を突き通していた。
そういうところはポイント高いな。
「俺って大人になりたくないってずっと思ってたんだよ」
「なんで?」
いきなりそんなこといったら不思議に思うのは必然だ。
「だって税金払わなきゃいけないだろ。年金もあるし、祝い金も色々あるだろ」
「・・・世知辛い。お金のことしか考えられないって。さすがだね」
彼女は俺を認識するのがとても心に来るのか半歩下がって下を向いていた。
「うるせえよ。まあそう思ってたんだけどな。今の話聞いたらそれもまた違うかもしれないって思ったんだよ」
「うん」
「だって、大人ってもう自分の実力を飽きらめている人のほうが多いだろ。だからもう他人に関心がないっていうか。今、俺らはバカの一つ覚えみたいに青春って言いながら面倒くさい人間関係を毎日しているけど」
「大人になったらそんな面倒くさいものから離れるのかなあって」
「・・・・・・・・。」
何秒かの沈黙が俺と彼女の間を引きちぎってまた無理やりくっつける。
「そうだね。ってか薫どんだけ人間関係嫌いなの!!」
「いや、俺。人間関係もともと面倒くさいなあって思ってたから今ひとりなって神様に感謝してるレベル」
「異常だよ⁉ 薫。もうそれは病気」
「いや、もう俺の存在自体病気みたいなもんだから気にしてねえ」
彼女と俺の間にあった異物感を埋めるため、俺らは矢継ぎ早に馬鹿な会話をしていた。
「まあ、結局話逸れたけど、どうやって解決するかねえ」
「そうだね〜。この嫉妬心をなくす。それか、し・か・え・し❤」
いやだ。この子怖い。笑顔でとんでもないこと言ってる。
「ま、まあそれは最終手段としてとって置くか。今のクラスなら空気が不安定に
なってるから協力はしてくれるんじゃない」
「協力ね。いいこと言うね」
彼女は俺の皮肉に付き合ってくれるみたいだ。
「そう。いいこと言うだろ」
「薫にしてはね」
「はいはい。じゃ嫉妬心をなくす方法ね」
「そのことだけど、薫今回のあらゆるテストを手抜きしてくれない」
「・・・その方法は有効なのか。気持ちを逆なですることはないか」
「それが今回のポイントなんだよ」
厭味ったらしい笑みを浮かべ、彼女は言う。
「気持ちを逆なですることで、それで・・」
ちょっとまってくれ。俺は、何俺勘違いしてたんだよ。
俺は正主人公になりたかったんじゃないのかよ。
「ちょっとまってくれ」
口から出てしまった言葉は宙に回って彼女に伝わる。
「どうしたの?薫」
彼女には、何を考えてるのか伝わらないのだろう。
それが俺達の関係の薄さを裏付けているのかもな。
「ここから先は俺がやる。ちょっといい案を思いついてな」
ありったけの嘘を彼女にいい、俺は逃げる。
「そうなの?へえ」
「ま、薫だからね。どんな案?」
「いや、解決してから報告してもいいか。時間がないんだ」
「う、うん。まあ。わかった。頑張ってね」
彼女は目を丸くして何も理解していない顔をしている。いきなり豹変した俺にビビったのかわからないが。彼女は何も気付くはできない。
「じゃあ。私これから学校行くけど薫も行く?なんなら今日の目的それだったし、、」
「先行っといてくれ。いろいろ準備したいから。後で必ず追いつく」
そっかと彼女は言い、パタパタと音を鳴らし玄関の扉を開け、外に出た。
俺は彼女がいなくなったあとのホワイトボートをみてため息を付く。
彼女の書いたホワイトボートのペンにはまだ微かなぬくもりが残っている。
俺は妙な喪失感や疲労感に襲われて壁により掛かる。
彼女がついちょっと前にいなくなったばっかなのに、彼女とは長くもうあっていない気がする。もう彼女が遠いところに行ってしまったような気がする。
「・・・・本当に俺は馬鹿だな。」
っとニヤと口元をあげて自分を馬鹿にしたように嗤う。
そんなセンチメンタルな気持ちも束の間、もう学校の準備をしなきゃならない。
俺は彼女がなにかに触れたような気がしたから、それを停止させた。
自分よりも先に触れられるのが怖くて恐ろしくて嫌だった。
「だから俺はいつまで経っても、偽主人公なんだな」
っとお土産程度にセリフを残し、自分の玄関の扉を開けた。
彼女と俺は全く同じ行動をしているのにまるでやっていること違うみたいに
俺がガラクタみたいでとても怖かった。
今は外の冷たい風に思考を吹き飛ばされ、何もかもが停止し、
その停止世界を破壊するように俺は学校へ歩を進めた。
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