第22話 言葉と思い

扉が開いた。

俺が生き返る伏線はただその一文だけで済んだ。空間によって圧縮されていた感情も今にでもその外に吐き出してしまいそうだ。そっとその少女が俺のこころを優しく撫でていてくれているようで、とてもむず痒く恥ずかしい気持ちになる。



瞳から出る優しい雨もいつの間にか豪雨になり、なにかを流れ出した。


どうやら、少女は、赤塚灯は、弱くてどうしようもない俺を救ってくれるみたいだ。


「なにか、あったら報告しろっていったでしょ」

顔を紅色に染めて彼女は自分の思いを告げた。


「この時間なら、授業はもう始まっているんじゃないのか」

しかし、俺は彼女の思いには答えられずどこか冷たい声で呟く。


「・・・・・いいのか。学年一位の秀才さんが無闇に学校をサボって」

彼女を馬鹿にしたからかうような言葉で彼女を嘲笑する。


「いいわけないでしょ。」

まだ彼女は俺を見捨てないでいてくれるみたいだ。


「・・・・・そう思ってるはずなんだけどね。私にもなんで薫のために、ここまで来たのかわからないんだ。」

と彼女は朝日に照らされ、笑っていた。

俺もなんだかおかしくつられて笑ってしまう。

「でも、やることは一つ。」


「私は、薫といっしょに学校へ行くためにここに来た」


「でも残念だな。学校へ行くも何も欠席の報告はもう済ました。それと行ったとしてもどうなるかは大体検討は付いてるのだろ。行っても無駄だな」


「だから、その検討がついたのだから私はここにいるの」

彼女は自信ありげの表情を浮かべ俺の返答を待っている。


「どういう意味だ」

もう彼女とは長い付き合いだ。大体彼女の思考は読める。何を考えてどうやって今何を目的としてここの空間にいるのか。もうわかってる。だからこそ聞くのだ。それにこそ価値がある。


「そんなの薫だったらわかるでしょ。伊達に学年二位やってるわけではないでしょ」

お互いに顔を見合わせる。この一瞬だけは共存しているように感じられた。

お互いに口元をニアニアさせ、俺はあんな暗い感情もどこかに吹き飛ばされた。

やはり、なにも考えられない人間には考えられない人間の良さがあるのだなあと、多種多様という言葉を実感した。


「ああ、わかってるからお前に聞いた」


「じゃ、説明させないでよ。蛇足だよ」

でも彼女は言うのだろう。その言葉を。誰よりも希望を持って。













「じゃ、問題解決するよ。誰も信じられないあなたの悩みを救ってみせてやる‼」

やっぱ彼女、主人公だわwwww
















☆☆☆☆☆☆☆☆☆

俺達は自室にあるホワイトボードで問題解決のための案を考えていた。

で、なんで俺の部屋によくドラマやアニメで出るホワイトボードあるの?

両親は何のために買って来たのだろう。


「薫の部屋ってさ、なんでホワイトボードあるの?」

訝しい目線で俺を見つめてくる。



「俺もよく分からん。ただ、俺は買ってないから、親が買ったんだよ。知らんけど」


「ふーん。じゃ薫はドラマやアニメに憧れて買ったわけじゃないんだね」



「俺ってそんなことをする人に見えるのか?」


「見える」

は?なにこいつ。そろそろ縁切るよ。

そんなことよりも進めないと行けない問題がある。


「で、どうやって解決するの?」

彼女のことだから、しっかり見通しをもって計画を練ってここまできたのだろう。

彼女に熱い視線を送り、期待して次の言葉を待っていた。


「いや、それがさ薫」

痛いところを突かれたのか居心地悪そうな顔をしている。

「なんだ」


「今日の朝急いで学校を抜け出してここに来たから。どうやって解決するかなんて決めてないんだよね」


は?

あ、そうだった。こいつ人のためにだったら無鉄砲に突っ切るタイプだった。うんうん。こいつ頭いいのに馬鹿なことすっかり忘れていた。






じゃ、頭つかいますか。


「薫、今回なんでこんな事が起こったのかその根幹って知っている?」

根幹ねえ。


「ちょっと長くなるけど、それでもいいか」


「いいよ。問題は解決するものにあるんだからね」


今回の根幹を語る上で必須なのはまず俺が告白されたら風邪で寝込んでしまう体質のせいである。実際、あの集団の中に女子は多かったしどれもこれも俺に告白してくれた女性の方々ばっかである。だからこそ、あの時俺が口火を切ったことでいままで温存していた熱が、火が、発散されて大火事になってしまった。しかしながら、俺があそこであの言葉を発しなかったら、智哉はどうなっていたか考えると恐ろしくなる。彼らの最初のターゲットは、智樹であったのだろう。しかし、俺がちょうどよく、都合よく空気に喧嘩を売るような発言をしたから、そこでターゲット切り替わったのだろう。あの状況になった以上、クラスの連中が俺に協力なんて今更してはくれないだろう。解決なんて馬鹿げている。どんな策を弄しても、こんな問題は解決できないと思う。大体、こんなのは俺の目で見た感想だ。薄っぺらいような思考で考えたものだ。だから、薄っぺらいものになる。合ってるかなんてどこにも保証はない。だから、結論はできないが一番正しい。


うまく言葉にできたがわからない。ただ自分の思ってることを感情の赴くままに吐いた。


「そうだね。難しいね。いろんな物が複雑に絡み合って、どれが根っこの部分なのかはよくわからないね」

険しい顔をして、彼女は言う。


「薫ってさ。頭いいんだね」


「いきなりなんだよ。照れくさいなもう」

しかし、そんなんじゃないだろう。ただ自分だったらどう思うか。考えたまでだ。


「うんうん。違うよ。褒めてるわけじゃないんだ」




空間がひらく。まるでなにか自分の心理みたいなところを臨かれている気がした






「薫はね。頭が良すぎて人って物が理解できてないんだよ」



「・・・・・・・・・・・・・・」

俺は初めて自分という物が知ったような気がする。



「薫ってさ、いつも人のこと考えてね。いつも人のこと見て。いつも他人が自分の目線になっちゃってるんだよ」


「だからさ、いつも基本他人の考えがベースになっててさ自分ってものがどんどん薄れていっちゃってるんだ。多分、自己は薫にも在るんだと思う。でもね」



「でも、他人が中心になってるから、一番の自分の理解者である、自分が自分のことを理解してないんだよ。わからないんだよね。なんでこんなことをしたのか」


「その根本にあるのはいつも誰かを助けたいだと思うけど、なんでそう思ってるのか。それがわからないんだ」


「普通の人だったらこうしたいからこうする。ってのがもう決まってて、でも薫にはそれがないんだよ。でもこの世界には利益を考えてない人なんていない」


「だから、ないんじゃなくて正しくはわからないか」


「そんなことを考えずにさ、誰かに頼らずさ、ひとりで抱え込むと助けられる人も助けられなくなっちゃうよ。もっと自分をみようよ」



「薫の課題はなんで助けたいか、なんで自分が動いたか考えてみること」



「それで答えを導いてね。期待しているよ」


言葉選びはとても彼女らしくなんなら感情をただぶつけただけだ。

ただの言葉のはずなのに俺の心はすっと軽くなった。


これが、あるべき言葉の姿なのだろう。


「・・・・お、お前はなんで俺を助けてくれるんだ」


「そんなの秘密。教えてあげない。だって薫、教えたらまた自分の中に蓄えて変な方向に行ってしまうんだもん」



「いつか教えられる時が来たらちゃんと必ずいうから。待ってて」


「その時は薫の答えもちゃんと伝えてね」


「わかった。ちゃんと伝える。」


その一室のなかで起こる出来事にしちゃとってももったいなくとても柄に合わなかった。

ただ、その空間が一室だからこそ、ちゃんと俺に、俺のことを思って彼女が言ってくれてるのがわかって、体が熱くなる。




いつか自分が動く理由、それを見つけられたらいいなあと思い、俺は問題解決会議に取り組んだ。










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