那々木悠志郎の怪異譚蒐集〈異聞〉 嗤う銅像

阿泉来堂

 深夜に立ち入ると二度と出られなくなる公園。というのがあるらしい。

 友人の里子がそんなことを言いだしたのは、サークルの飲み会の席だった。

「その公園に肝試しに出かけたゼミの先輩が、数人の友人と一緒にいなくなっちゃったらしいのよ」

 この春から通っている大学の最寄り駅前の繁華街にある居酒屋。サークルメンバー二十数名でほとんど貸し切り状態になった店内の一角で、御陵波瑠乃(みささぎはるの)は梅酒サワーをちびりちびりやりながら、中浜里子の話に聞き入っていた。

「公園に閉じ込められて、出られなくなった。ということ?」

 里子の向かいに座る内藤淳史が真剣な面持ちで尋ねる。その隣では曽根諒太が「おい、信じるのかよ」などと笑い飛ばしている。

「どんな怖い話かと思えば、公園から出られなくなるだけだろ。怪談だか都市伝説だか知らないけど、もっと鬼気迫るっていうか、震え上がるような怖さがないとつまんねえよ」

「あら、怖さならちゃんとあるわよ」

 したり顔で笑い、里子はテーブルに身を乗り出す。

「公園の中央には噴水広場があって、そこに女の人の銅像が建ってるらしいんだけど、閉じ込められた人はその銅像に追いかけられちゃうんだって」

「公園に閉じ込められて銅像に追いかけられる。なるほどね。それで、捕まったらどうなるわけ? 自分も銅像にされちゃうとか?」

冗談めかした曽根がけらけらと笑い、淳史もつられて笑い出す。話半分といった様子の二人に対し、里子はひどく不満げに頬を膨らませる。

「へえ、信じないんだ。だったら今からその公園に行って確かめてみようよ」

 その一言をきっかけに、波瑠乃を含む四人はサークルの二次会をすっぽかし、淳史の運転する車に乗り合って隣町のはずれにある件の公園へと向かうことになった。

 昔から波瑠乃はこういった怪談や都市伝説の類が大の苦手だった。にもかかわらずなぜかこういう状況に陥ることが多い。小学生の頃、強引に誘われたこっくりさんに参加したら友人の一人が奇声を発して窓から飛び降りてしまったり、トイレの花子さんを呼び出そうとした友人グループが二週間ほど高熱を出して寝込んだりと、とにかくろくなことがない。唯一の救いと言えば、そうした状況に関わっていても、何故か自分だけは毎回、ほぼ無傷で済んでしまうということくらいか。花子さんの一件にしても、七人もの女子生徒が一週間ほど高熱を出し、一人は入院までしたというのに、波瑠乃は三日間ほどお腹の調子を壊した程度だった。

 そういうわけなので、今のこの状況は波瑠乃にとって非常に好ましくない事態であるわけだが、何しろ淳史が運転する車である。乗りたくないわけはないし、こんな形でもないと、彼とまともに話したりする機会などそうそうやってこない。さほど興味もないサークルに入ったのだって、入学式の日に一目惚れして以来、ずっと仲良くなるタイミングを計っていた淳史が先輩に勧誘されているのを目撃したからだ。彼との関係を深めることが出来るなら、少しくらい深夜の公園に閉じ込められてもどうってことはない。

 いや、むしろ大歓迎である。

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