第16話 だいぴんち

「じゃあどうする。」


成長が独り言のようにつぶやく。


今、俺らがいる一年A組の生徒は、謎のお色気お姉さんと、突如入ってきた幼児を鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見つめている。


「あ、じゃあ、成長?何もせずに帰るってのは……どうだ?」

「それは無理だ。あの方の命令は何より大切だからな。」

「えっ!?ボク!成長ってあの成長なの!?」


俺が成長と話していると、突如活発そうな女子生徒が黒色のセーラー服の腕を挙げて割り込んでくる。


「あ、そうだよ!」


俺が答えた時、本当にその瞬間、成長がいう。


「じゃあ、らちが開かないからとりあえず攻撃を開始することにする!」

「……えっ!」 


俺は六大妖にしか使えないといわれる呪語が何の攻撃性もない幼児化だったし、今までの行動といい、はっきりいって六大妖を━━成長を舐めきっていた。


……その時の俺を殴りたい。


「キャアアアア!!」


あの手を挙げた後輩が叫ぶ。


俺含め、成長をのぞくみんなが慌ててその子の方を見た。


「……!」


その子の右耳はなくなっていた。

そして、成長の手には血塗られた片耳が握られていた。


俺は心から叫ぶ。


「何やってんだ!!!」

「うるさいな。坊ちゃん。耳をちぎっただけじゃないか。大声を出さないでくれ。」


俺の心からの叫びなどはものともせず、成長はなんともない様子でそういう。


「坊ちゃん。あたしは妖だ。いたずらに人も殺す。それに、これはあの方の命令なんだ。」


しばらくして、成長は、さも面倒くさそうな、あくびでもしそうな勢いで俺を諭すようにいう。


俺が間違ったことをいっているかのように。


考えたわけではないが、唐突に理解した。


コイツは、ユトリセダイなんて生ぬるいものじゃなかった。


━━バケモノだ。


「成長。俺はお前を殺す。」

「できるものならな。」


このバケモノはあの時と同じように余裕ある、俺のことを舐めきっているようなそぶりでそういった。


        ◻︎▪︎◻︎


「ほらほら、坊ちゃん!!さっきの威勢はどうした!?」


今、俺は成長に黒板の真ん前で顔をぶたれ続けている。


顔が熱い。ぶたれるたびに黒板に当たる頭が痛くてしょうがない。


俺、死ぬのかな。ここで。


みんな逃げちゃったし。

逃げろっていわれたにしても、逃げる?普通。



「本当に情けないなァ!」


俺は生きていてこんな言葉は腐るほど聞いてきた。


でも、俺はふと思った。


なぜそんなことを思ったのかわからなかったけれど思わずにはいられなかったのだ。


生まれるずっと前にもこれ、聞いたことあるな、と。

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