第15話 えすおーえす

 砂利の敷き詰めてあるだだっ広い校庭を上履きで踏みしめる俺の元に二月の中盤らしい無駄に冷える空っ風が吹く。


 この間の抜けたしばしばの沈黙の末、俺は変な声をもらしてしまった。


「え?」


 え?嘘だろ。


 なにも考えていない……だと?


 いや、これも奴の作戦の内なんだ!きっと!


「お前!本当はなにか考えてんのが見え見えだぞ!」

「ホントになんも考えてなかったんだ!」

「嘘つけ!」

「うっうっ」

「……え?」


 その数秒後、俺の耳には「うぇぇぇぇん」とでもいおうか、なんとも間抜けな音が入ってきた。


 俺は立ちすくんだ。


 そう。奴、成長は子供の如く泣き叫んでいたのだ。


 俺、末っ子だからどうしたらいいかわからない!

 ヤバい。敵だけど、女の子泣かせちゃったよ。俺。

 ヤバいヤバい。女の子って何が好きなんだ?とりあえずそれで落ち着かせて……って、コイツ敵だぞ!倒さないと!


「えっーと?成長?俺はお前を祓おうと思っている。」

「できるものならな。」


 成長があんなに恥ずかしかろうところを見られたにも関わらず、例の気取ったような話し方に戻っていう。


 俺は呆れながらも続きを話す。


「だけど、成長、お前はさっきから何もしてない。何がしたいんだ?」

「だから。あの方の命のとおり、この学校を消し炭にするんだ。」

「でも、今は特に危害を加えてないじゃないか。」

「だってどうやって壊せっていわれてないから、やり方がわからないんだ。」


 純粋そうな……というか恐らく純粋なまなこで成長はそういう。


 俺は中学時代、一度だけ耳にして意味を知った「ユトリセダイ」という言葉を思い出す。


 そしてその後唐突に思いつく。


 このユトリセダイ相手じゃバレずに生田目さんに連絡できるんじゃないかと。


 俺は、生田目さんから携帯の番号を教えてもらっている。


 でも、仲良くおしゃべりしましょうという意図ではもちろんない。第一に俺携帯持ってないからそんなことはできないんだけど。


「おい。成長。校舎内にもう一度行ったらどうだ?」

「何故だ?」

「えっ!えーっと……学校を破壊するにはまず人間を滅ぼ……幼児化させるのが最優先かなーって。」

「なるほど。坊ちゃんやるな。」


 俺はあからさまな時間稼ぎを用意する。でまかせで「人間を滅ぼす」とかいわなくて本当によかった。


「じゃ、坊ちゃん!」


 ……あの子大丈夫か?


 そんなことを思いながら俺は小さくなっていく成長を確認し、学校のすぐとなりにある公衆電話へと走る。



 じゃあ、この電話番号はなんのために渡されたか、それは━━


 緑色の受話器を必死に持ち、ボタンをこれ以上ないほど高速に押す。


「生田目さん!助けてください!」


 緊急時のためのSOS

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