第5話 無理だって!
◻︎▪︎◻︎
「頑張って。実くん。」
「ミノルンならできるよ!」
安定の平坦ボイスと小さな女の子の声を聞きながら、突如つけられた謎の愛称に俺は首をかしげる……余裕はなかった。
だって━━
「ムリムリムリムリ!!ちょっと!!生田目さァ〜〜ん!!」
俺の前にはさっきの何倍も強力な霊がいるのだから。
◻︎▪︎◻︎
俺たちは、今、住宅街を歩いている。さっきいた生田目さんの家から近い所だから、生田目さんはサクサク歩いて行けてるけど、俺は見知らぬ土地なので、迷子にならないよう気をつけなければならない。
「弁才天様ー。任務とかどうでもいいから二人で遊びに行きませんかぁ?」
「それもいいかもね。こんな時間に呼び出すなんてカイくんも人が悪いし。鬼だよ。鬼。行っちゃおうじゃないか。」
「はい〜。」
え?カイってもしかして……
「でもどこに行くんだい?」
「弁才天様とならどこへでも〜。」
ってオイ!!
俺が考えごとをしている間に、二人の距離感がおかしい女の子たちは、結構遠くまで歩いて行ってしまっていたので、あわてて引き止める。
「ちょっ。生田目さん!弁才天様ー!俺を迷子にしないでくださーい!」
「実くんこそ、私と弁才天様の時間を邪魔しないでください。」
そう叫ぶ俺を生田目さんは、いつもの無表情顔からは一転、すごく怒りがあらわになった顔で俺を、にらめつける。
えっ?ど、どうしよ……
腕組みをしながらその表情を続ける生田目さんと立ちすくむ俺に弁才天様は言う。
「まぁまぁ。そういうのめんどくさいからいいだろう?さっさと終わらそうよ。」
そういった弁才天様が人さし指でさしている方向をみると、そこそこ大きい古ぼけた白色の建物があった。横にある同じく古ぼけた看板を見ると、「宮廻病院」と書かれている。読み方は……分からない。
病院にしては小さいなどと考えている俺と、いつのまにかいつもの表情に戻っている生田目さんに、弁才天様は宮𢌞病院の前で手招きしたので、俺らはされるがまま中へと入る。
「ここが任務の場所で合ってるよね?愛ちゃん」
「はい〜。」
って、こんな近くにあったんかい!!
そんなことを思いながら俺は宮𢌞病院の中を見て、あぜんとした。
━━そこは、廃墟だったのだ。
中は普通の病院だったのだけど、人一人いなくて、もちろん電気もついていなくて、すごく出そうな雰囲気をかもし出していた。
少し怖いけれど、別に霊や妖そのものが出てきて命の危険を感じることがなければ、俺はそこまで動じない。なので、二人に続いて中に入っていく。
「愛ちゃーん。出ないねぇ。」
「はい。出ませんねぇ。……早く終わらせたいのにィ。」
「じゃあ、召喚すればいいんだよ。」
「キャー!弁才天様、てんさーい!」
生田目さんは、甘ったるいキーキー声で叫んだあと、祓語らしきものを唱え始めた。
「わびぬれば、今はた同じ、難波なる、身を尽くしても、逢わんとぞ思う」
祓語は、結構遠距離でも使える技だけど、姿が見えないんじゃいくら使っても、意味がない。
なぜ使ったのかと小首をかしげる俺に、生田目さんは、唐突に告げる。
「実くん、やってみれば?」
「えっ?」
俺は、目の前を見たらすぐに理解できた。……いや、でも、理解できなかったことにしたい。
俺はとっさに二人の方を見る。
「頑張って。実くん。」
「ミノルンならできるよ!」
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