第4話 修行開始
「私は、生田目愛です」
「妾はベンザイテンだよ。よろしく。あ、そう言えば、セイリョーくんは姓と名、両方だとなんていうんだい?」
「あっ、誠陵実って言います!誠実のせいに山陵のりょうに、果実の実でみのるって読みます!」
俺たちは、今、ベンザイテン様の提案を受けて、それぞれ自己紹介をしている。
生田目さんは姓と名を名乗ってくれたけど、ベンザイテン様は、苗字しか名乗ってくれなかった。
「誠陵実くんか。よろしく。じゃあ実くんって呼んでもいいかい?」
「はい!好きなように呼んでください!」
「愛ちゃんはなんて呼ぶのかな?」
「じゃあ、私も、実くんで。……これが、一番しっくりきたんですけど、いいですか?」
生田目さんが、平坦イントネーションを奏でる声を俺の方へと発する。
「あ、勿論です!」
と言いつつ、俺は少し不思議な気持ちになった。
……なんか意外だ。
「仲良くできそうでよかったねェ」
そういって笑うベンザイテン様を見て、俺はずっとこの子に聞きたかったことを思い出す。
「そういえば、ベンザイテン様はどういう漢字書くんですか?あの七福神の弁才天と同じですかね?」
「うん。そうしたよ。でも七福神とは全く関係ないけどね。」
「あ、へ〜。弁才天様、ですね」
俺は言葉に出して確認しながら、こんな小さな女の子に様付けをするのも変な話だと今更ながら思ったけど、まぁ生田目さんがそう呼ぶし、今のところ変える気はない。
「キャーー!ベンザイテン様ぁ!好きです。愛しい。愛してますぅ!」
そんなことを考える俺と弁才天様が話してるところに、どういう脈絡かわからないけど、なぜか生田目さんが弁才天さまに突進して、ハグをしてきた。
弁才天様は、笑いながら、「苦しいよ。愛ちゃん」などといっている。
俺は、この光景に流石にすぐには慣れることはできず、無言で立ちすくむ他にない。……多分顔は引きつっている。
ここに弟子入りしたの失敗だったかも。というか、母さん、生田目さんは三耽溺花の一員だから生田目さんがいいみたいな話し方してたけど、三耽溺花他にも二人いるし。
そんな心境の俺と、距離感のおかしな女の子たちがいる部屋に音が響く。それは、音楽に詳しくない俺でも耳にしたことがあるようなメジャーなJポップだった。
なんの音かと、さっきの霊のこともあり、俺は警戒したけど、ポケットから生田目さんがその音の鳴るカバーも何もつけていないスマホを取り出したことで杞憂だったとわかった。
「はい。もしもし。ええ。ええ。えっ。今からですか?」
生田目さんは相変わらずの平坦ボイスかつ無表情で着信に対応する。「えっ。」と言った時、一瞬、座っている目が少し開かれて桃色の瞳があらわになったが、例のイントネーションは保っていたので、流石としか言いようがない。
「はい。それでは。」
テロンという少し腑抜けた音とともに電話は切れたらしい。生田目さんは話すのをやめた。
「愛ちゃんどうしたの?」
「こんな夕方に任務が来ちゃいましたぁ。弁才天様と早くイチャイチャしたいのにィ!」
「ふーん。大変だね。どんなの倒すの?」
「どうせ、さっきのに毛が生えたようなのなのですよぉ。弁才天様と遊びたいからとっとと片しますぅ。」
え!一日にあれかあれより少し上のレベルを二体も!?
俺はただただ驚くことしかできない。
そんな驚愕状態の俺の方を唐突に生田目さんが見て、信じられない言葉を吐く。
「よし。じゃあ実くんも連れてこ。」
「早く終わらして妾と遊びたいって魂胆だね。」
「えへへ〜。」
女の子たちがキャッキャと話すのを聞きながら、俺はただ呆然とするしかなかった。
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