第6話 なんかいけるかも

 俺はそのあと横向きにしていた顔をもう一度正面に戻してみた。


 ━━やっぱりいる。

 怖い顔した血だらけの女が。そしてもちろん透けている……。

 俺は深呼吸をする。そして、叫ぶ!


「ムリムリムリムリ!!ちょっと!!生田目さァ〜ん!!」


 我ながら情け無い。本当に。でも仕方がない。見た感じさっきの霊よりも何倍もの気を感じるし、俺に倒せるはずがないからだ。


「情け無いですね。じゃあ仕方ない。私が行きます。」


 生田目さんが俺の自己批評をそのまま口にしたあと、そう提案してくれる。だが、弁才天様が「いやいや」と生田目さんを止める。


「ここは、実くんに行かせようじゃないか。だってこの子、まことくんの弟だろう?いけるよ。多分。」

「あっ。」


 俺はつい口から変な音をもらしてしまった。

 気づかれてたんだ……。

 俺は実兄の名前に息をつまらす。いや、実兄の名前というか、この本当に勝手な定評にと言ったほうが正しいだろうか。


 だが、俺はこんな思いは腐るほどしてきた。すぐさまこわばる口角を無理矢理上げていう。


「よしてくださいよ。弁才天さまー。それはそれ。これはこれです。俺は全然雑魚ですよー」


 苦しい。逃げ出したい。泣き出したい。


 でも俺はせいぜいこうやって平気な風をとりつくろうことしかできない。


 理由は一つ。弱いから。


 悔しい。ただただ悔しい。


 こんなんだからどこへ行っても━━


「実くん!もう呼ぶの三回目ですよ。」


 浸っていた俺は生田目さんから呼びかけられていることに気づいた。

 生田目さんが俺に大きめの声を出すのは多分初めてなので、少し面食いながら、それに応じる。


「す、すみません!どうしました?」

「あの、実くん。私と二人で協力してあれを倒すのはどうですかね?」


 そういって、生田目さんはその座った目で霊の方を見る。


「あれなら……私のサポートがあればいくら弱くてもいけるかと。」

「えっ!?いいんですか?」

「愛ちゃんが、妾以外に親切にするなんて珍しいねェ。」

「まぁ、一応弟子ですしぃ。あとー。なんか可哀想だからかちょっと愛着がわいてきちゃいましたぁ。」


「でもぉ、一番親切にするのは弁才天様だけですよぉ。」と相変わらずの甘ったるい声でいう生田目さんをよそに、俺はつい嬉しくなってしまう。ひどいいいようではあるが、弟子だと認めてもらえたことが嬉しい。


 でも、可哀想ってなんだろう。俺の「気にしてないフリ」がバレてたのか?それかただ落ちこぼれ弟だというのが可哀想だということなのか。まぁどっちでもいいや。


「じゃあ、行こう。実くんは祓語は使えますか?」

「まぁ……一応。でも全然頼りになる強さじゃありませんよ!?」

「まぁ、今の慌てようから大体。で、なんの属性ですか?」

「あっ!水です!」

「分かりました。じゃあ行きましょう。」

「えっ!?」

「早く。」


 ええい!もうヤケクソだ!

 俺は自分で聞いてもデカいと思う声で、生田目さんは相変わらずの平坦声で、祓語を唱える。


「人言を!繁み言痛こちたみおのが世に!今だ渡らぬ、朝日川渡る!」

「みかの原、わきて流るるいづみ川、いつみきとてか、恋しかるらむ」

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