結局ここに戻るんだ
第1話 ベンザイテン
家の中に入ると、俺が今お邪魔している家には何もなかった。
比喩とかじゃなくて、ホントに。
茶色い床の上には雑貨はおろか、生活必需の家具━━テーブルやテレビなども、本当に何も置いていなかったし、白い壁にも何も貼られていなかったのだ。
「何もないけど、ゆっくりして行ってください」
平坦なイントネーションかつ無表情で俺を招き入れてくれた女子中学生、
本当にドンピシャで思ってたことを言われた俺は、アハハと笑うしかない。
だが、俺はこの人は、天才だから、こんなマニアックな家に住んでいるのかななどと考えた。
そして同時に、俺は勝手に期待する。
この変な部屋と同様、この人は変かつ、エキセントリックなことをするんじゃないか。そんな期待をしながら俺は生田目さんの様子を事細かく伺う。
一時間後
何もなかった!!本当に、何もない!!
入念に観察してた生田目さんは、床に寝っ転がったきり、俺にお茶出しすら━━本当に何もしなかったのだ。
数百年に一人の逸材と聞いて来たのに……!
俺は肩を落とした。これじゃあ俺は困るのだ。
聞いてた話と違う現状に動揺する俺に、生田目さんは、唐突に、さっきのように平坦なイントネーションで、だけどさっきとは打って変わった低い声でいう。
「来るよ」
「へっ?」
俺はマヌケな返事をしてしまったが、しばらくして、わかった。
痩せ細っていて、恨めしそうな顔をしている、それでいて避けている男の人がそこには立っていた。
来たのだ。霊が。それもめっちゃ強力なやつ。俺は確実に祓えない。
というか、生田目さんは祓えるのか?
確かに聞いてた話だと余裕だろうけど。
でも、この調子じゃあヤバい。
だが、だとしたらだいぶマズイ。祓えなかったら二人とも呪われるかもだし、最悪死ぬから。
「生田目さん!コイツ、倒せますよね!?」
俺は命の危機についつい大声で圧のある言い方をしていまう。
だが、こんなに必死の人間を前にしても、生田目さんは相変わらず平坦なイントネーションで、衝撃の言葉を吐く。
「うん。でも、気が向いたらね。」
俺は命の危機に直面してるというのに、その言葉に、驚いて固まってしまう。口も、開けようとすら思っていないにも関わらず、塞がらない始末だ。
だけど、こんなはたから見たら絵に描いたような驚愕の表情であろう俺を見ても、相変わらずの「平坦イントネーション」と無表情で生田目さんはいう。
「まぁ、私の気というかあの方の気ですけど。それが向かないと私はどうにも……。」
「えぇ!俺ら死ぬかもしれないんですよ!これ倒せないと!」
「そうですね。」
「だから祓いましょうよ!誰の許可か知らないけど!」
「それは、絶対駄目。」
つい、夢中になってキツイ言い方をしてしまった俺を生田目さんが、さっきからは想像もできないような、低い、ドスの効いた声で一喝する。
怖くてチラッと、表情も確認してみたけど、顔は、さっきまでの無表情は消え、大胆に怒りが露わになっていて、俺はどうしていいかわからなくなる。
そんななんとも言えない状況の中、この家具一つないこの家の中に、小さな女の子のような声が響く。
「
「ベンザイテン様!!」
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