よろずや
ノーラと赤ん坊の様子を見守りつつ店の方にも意識を向けますけど、お客は少ないのでそれほど忙しくはありません。
<よろずや>というのは、<コンビニエンスストアの元祖>のような営業形態を持つ店舗です。
もっとも、<商売>としてはまったく成立していませんね。なにしろ<貨幣制度>がそもそも存在してないんですから。
と、
「コン~」
また店の方で気配がしたので、私は、
「いらっしゃいませ」
と営業スマイルを浮かべながら迎えました。
するとそこにいたのは、また<ウサギのコスプレのような姿をした女の子>でした。でも、先程のメイミィとは別人ですが。メイミィよりはずっと幼い印象。
それでもやっぱりもふもふで柔らかそうな姿に、私も頬が緩んでしまいました。
「ラレアト、久しぶりだね。元気してた?」
私が笑顔で話し掛けると、その女の子<ラレアト>も、
「ゲンキ~♡」
嬉しそうに返してくれました。
「ナヌヘ!」
片言ですけど、指差しながら言ってくれるので、すぐ分かります。
「ナヌヘだね、はい!」
私は彼女が指差した器を手に取ります。そこには、黒っぽい粒々がたくさん入っていました。
ナヌヘという植物の実です。甘酸っぱくて彼女達の大好物の一つでした。
<擬人化した兎>そのもののラレアトが、小さな両手をお皿のようにして掲げます。
私はそこに器の中のナヌヘを、木の枝を加工して作った計量カップで掬ってあけました。これが一回分ということで。
するとラレアトは、その場で手の平を口に寄せて、ナヌヘを食べ始めます。
先にも言った通り、ここには、今はまだ<貨幣>というものが存在しないどころか物々交換の概念もないので、これが当然です。私達が<よろずや>を営んでいるのも商売としてではないんです。いずれはそれも視野に入れつつ、今はあくまで彼女達に、<獣人>達に受け入れてもらうことを目的に行っていることです。
「ンマ~♡」
幸せそうにナヌヘを食べるラレアトを見てると、私も幸せな気分に。
けれど、残念ながら一回に付き計量カップ一杯だけ。
要するに<おやつ>ということ。ナヌヘは甘味は強いものの栄養価自体はあまり高くないようなので、食事には向かないんです。
「バイバイ♡」
ナヌヘを食べ終わったラレアトが、本当に可愛らしい笑顔で 手を振りながら帰っていきます。もっとずっと見ていたいけれど、家族も心配するでしょうからね。
彼女の姿が完全に森の中に消えてしまうと、私は店の奥を覗き込んで、ノーラと赤ん坊が寝ているの確認したのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます