獣人のよろずやさん(Ver.03)
京衛武百十
第一部
いらっしゃいませ~
「いらっしゃいませ~」
お店の方に気配を感じて私が笑顔で声をかけるとそこにいたのは、薄茶色の体毛に服を着てない全身が覆われ、長い耳と赤い瞳を持った<女の子>でした。
シルエットは人間にも見えるのに、完全に人間とは違ってる姿。ちょうど、<うさぎのコスプレ>してるみたいな。
「メイミィ、いらっしゃい」
改めてそう声をかけるとその子は、
「ホコの実……」
遠慮がちに、でもちゃんと聞き取れる発音でそう言ってくれました。
「ホコの実だね、待ってて」
私はそう応えて<ホコの実>が入った木の器を取り出して、差し出します。
すると女の子は代わりに、マグカップくらいの大きさの木の器を差し出してくれました。いかにも手作りなのが分かる素朴な感じの器でした。
その器とホコの実を交換します。代金代りです。<物々交換>というアレですね。
「ありがとうございます」
受け取ったホコの実を大事そうに抱きしめるようにして小走りで去っていく女の子を見送ってから、私は受け取った器を商品棚の空いたところに置きました。
ここは森の中の<よろずや>。そして唯一の<お店>です。
すると今度は店の奥から、
「みあああ~っ!」
と声が上がって私は、
「はいはい。待っててね、ノーラ」
言いながら店の奥にある住居スペースへと駆け込みます。扉を開けると、赤ん坊を抱いて困ったような目で私を見る、白い体毛でやっぱり全身を覆われた若い女性の姿。だけどの頭にはヤギのそれによく似た小さな角が生えていて、さっきの女の子とは明らかに違う種族なのが分かりますね。
おろおろした感じの彼女から赤ん坊を受け取り、床に寝かせておむつの交換を始めます。もう慣れているので別に困りません。
ささっと交換するとノーラに赤ん坊を渡しました。そうすると赤ん坊は自分から彼女の胸に吸い付いて乳を飲み始めて。
一見しただけなら新生児にも見えるけど、人間の赤ん坊と違って、それくらいは自分でできるんです。それだけまだ野生に近いということでしょうね。
だけど、母親であるノーラはやっぱり戸惑った様子で、自分の胸に吸い付いている我が子を怪訝そうに見ていました。
そんな様子を見守りながら、私もホッと一息を吐きます。
ああ、自己紹介が遅れましたね。私の名前は<ビアンカ・ラッセ>。この<よろずや>の経営者の一人で、かつ、従業員の一人でもあります。年齢はまあ二十代半ば相当と申し上げておきましょうか。今の私達にとっては<年齢>はそれほど重要な情報ではありませんから。
そしてかつては、イオ方面軍第六十六空間騎兵隊から、第三百十八惑星探査チーム<コーネリアス>の防衛担当として出向していた軍人です。
もっとも、
『本来の私は』
という注釈付きではありますが。
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