57回戦 合宿-9

「順を追って話してくれるかい……?」


 ようやく我に返った感じで、志摩枝しまえさんがボクに言う。


「はい……」


 ボクはうなずき、ボクの聖剣せいけんについて話し始めた。




 変聖期へんせいきより前からボクの聖剣せいけんが半球状だったこと。


 そのころから好きな方向に射聖ショットできたこと。


 練習試合で見た2連射聖ショットにヒントを得て、

好きな方向に同時に射聖ショットできるようになったこと。


 それから変聖期へんせいきが来て、色が金色に変化し、

重さとかたさが増したこと。


 県大会の決勝戦で、10ブロックの挿入インサートえられたことも話した。




「こんなところですかね……。何か分かりますか……?」


 ボクは話し終える。


 志摩枝しまえさんは、途中とちゅうからアゴに手を当てて考えんでいる風だったが、


「正直に言って……、見当もつかないね……」

と言うと、

再び天井に視線を移し、


「ただ……、ろうならもしかすれば何か分かるかもしれない……。

 今の話をろうに伝えてもいいかい……?」

と続け、ボクに視線をもどした。


「!

 キングにですか!?

 は、はい!ぜひお願いします!」


 あこがれのキングの名前が出たので、ボクは思わず大声を出した。


「後でメールしてみることにするよ。

 まあ、時差があるから、すぐには反応がないかもしれないが……」


 志摩枝しまえさんはそう言ってボクにうなずくと、イスから立ち上がりながら


「どっこいしょ……。

 いやあ、長居させて悪かったね。

 一旦いったん、話は終わりで大丈夫だいじょうぶだから食堂に行ってきな」

とボクを館長室のドアのほうへうながした。


 ボクも立ち上がり、


「はい。何か分かったら教えてください」

と言って志摩枝しまえさんに軽く礼をし、ドアのほうに向かう。


 だが、ボクがドアノブに手をかけたところで、

ふいに志摩枝しまえさんは、


「ああ、そうだ」

と声を上げた。


「えっ?」


 ボクは志摩枝しまえさんをり返る。


朱印しゅいんと美安には伝えてたけど、全員水着は持ってきてるかい?」


 志摩枝しまえさんが言った。


「水着ですか……?

 美安先生に言われていたので、確かに持ってきてますけど……」


 ボクは答える。


「それじゃあ、

 明日は8時に水着で外に集合するように全員に伝えておくれ」


 志摩枝しまえさんがニヤリとした。


「最後の仕上げだ。

 みんなで海に行くよ」







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~








だまされた……」


 馬薗まぞのが悲痛な声を上げる。


 言いたいことは分からなくはない。


 水着で外に集合したボク達は、

その上からプロテクターを装着した状態で、

海までの道のりをランニングさせられたのだ。


 これでは、昨日までと何も変わらないではないか。


「まあ、関係ないけどね?

 どうせみんな、お子ちゃまだし。

 栗取くりとりさんクラスとまでは言わないけど、

 せめて色葉さんクラスのナイスバディの持ち主がウチにもいたら……」


 言いながら馬薗まぞのが、ウチの女性じん見渡みわたす。




『世の中には、

 女性の胸は大きければ大きいほどいいと考える男性もいる』

というのは知っているが、

ボクはまだその域には達していない。


 だが、どうやら馬薗まぞのはそのタイプということなのだろう。


 りんと相武さん、

次いで茶渡さどさん、

最後に頂さん。


 正甲せいこう中レギュラーの女性じんをサイズが大きい順に並べるとしたらこんな感じだ。


 それでもりんと相武さんは中学生女子としては平均レベルと言っていい。


 丙景へいけい中もふくめると、一番サイズが大きいのは、

意外にも(?)色葉選手だったのだ。




 そんな馬薗まぞの右腕みぎうでを背後からつかみ、ひねり上げた人物がいる。


 馬薗まぞののペアの茶渡さどさんだ。


「痛たたた!痛い!痛いって!」


 悲鳴を上げる馬薗まぞのを冷ややかな視線で見つめながら、


「美安先生ー?

 後でムチ貸してもらってもいいですかー?」

おそろしいセリフを口走る。


「おう。

 好きなだけ使っていいぞ」


 美安先生もノリノリだ。


「その前に折れる!折れちゃううう!」


 馬薗まぞのの声がほとんど絶叫ぜっきょうになったところで、ようやく茶渡さどさんはうではなした。


「テメー、全国のスレンダーなみなさんに謝れよ」


 茶渡さどさんが馬薗まぞのすごんで見せると、馬薗まぞの右腕みぎうでおさえながら


「すみませんでした……」

と素直に謝る。


 さすがの馬薗まぞのもムチ打ちのけいはイヤらしい。


「……茶番は済んだかい?」


 一連の様子をながめていた志摩枝しまえさんがかたをすくめ、


「こっちに来な。

 最後の練習の先生達を紹介しょうかいするよ」

とボク達を海岸のはしっこのほうにうながした。




「何スかここ?ぼり?」


 たてるが思わずという感じで志摩枝しまえさんにたずねる。


 確かに、

消波ブロックで大きな波が来ないように仕切られた海岸のはしっこ、

桟橋さんばしを思わせる何枚もの木の板で四角く区切られたエリアがいくつかあるここは、

ぼりと言われればそう見えなくもない。


ぼりだよ」


 ぼりだった。


 管理人であろう、おじさんがやってきて志摩枝しまえさんに軽くおじぎする。


 志摩枝しまえさんは、それに右手を上げて応えた。


「(……ということは、最後の練習は魚り?)」


 ボクは、ぼりの海面を見つめながら首をかしげる。


「2時間しか貸し切ってないから急ぐよ」


 志摩枝しまえさんは、そう言いながらマヨネーズの容器のようなものを取り出した。


 中には灰色をしたペースト状の何かが入っている。


 ニュー、ベチャリ。


 おもむろに志摩枝しまえさんが、そのペーストを手のひらに出してからくっつけた。


 ボクの背中の辺りのプロテクターに。


「えっ!?なっ!?」


 やられたボクは、思わず背中に手を回そうとする。


 が、その前に志摩枝しまえさんがゲシッ!とボクをり落とした。


 ぼりの中へ。


 ドボーン!

とボクは飛びんでしまう。


「ちょっ!?助け……!」


 ボクは何とか海面から顔を出しながらもがいた。


 泳げないわけではないが、さすがにプロテクター姿で泳ぐのは無理がある。


「落ち着きな。足、届くだろう?」


 志摩枝しまえさんが冷静に言った。


「えっ!?あっ……、ホントだ……」


 言われたボクは、身体を縦にして海底に立つ。


 こしより上まで海面が来ているが、おぼれる深さではなかった。


「くっさ!何スかこれ!?」


 たてる志摩枝しまえさんのほうを見ながら顔の辺りをおさえている。


 確かに、ボクの背中からも

いそを思わせるエグみをふくんだ香りがしてきていた。


「細かくくだいた煮干にぼしだよ」


 志摩枝しまえさんが、どこか得意気に答える。


 その背後には、大きな虫取りあみのような物を持つ、ぼりの管理人さん。


 あみの中では、活きのいい何かがビッチビッチとねている。


紹介しょうかいするよ。

 剣士けんしシングルスのお相手はズッコン先生。

 魔法まほうシングルスのお相手はバッコン先生だ」


 志摩枝しまえさんが言った。


「モンスターさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る