56回戦 合宿-8

「ムロさん!」


「ラジャー!」


 パボン!


 シュババ!


 りんとボクが声をけ合いながら

加速する火球とショットガンで同時に攻撃こうげきしてポイントをうばうと、

ピー!と審判しんぱんたてるがホイッスルを鳴らす。


「お前達もなかなかサマになってきたな!

 だが、まだようやく後ろ足が生えてきたって程度だよ!

 もっと今みたいにペア同士で声をけ合うんだ!」


 練習の様子を見守ってくれている志摩枝しまえさんが、

パンパンと拍手はくしゅのように手をたたいてから大声を出した。




 『キングしばりプレイ』。


 いわゆる将棋しょうぎのように、

片方のグループは合体ジョイント済みだったり

アースのセンターより侵攻しんこうしたりしたという有利な状況じょうきょう

もう片方のグループは合体ジョイントできていなかったり

アースのはしに追いまれたりしたという不利な状況じょうきょうえて作り、

そこから有利なグループは確実にポイントをうばう、

不利なグループは対等な状況じょうきょうにリカバリするか逆にポイントをうば

というのを目標にプレイする練習メニューである。


 対等な状況じょうきょうから試合を始めると、

上手な選手達にとっては不利な状況じょうきょうというのがなかなか起きなかったり、

逆に下手な選手達にとっては一方的にやられてしまうばかりだったり

ということが往々にして起こりやすいので、

こういった練習方法はかなり有効だと言えそうだ。




 ボクとりんが、審判しんぱんをやっていたたてる音呼ねこくんと

入れわるようにしてアースから出て、

代わりに絶と頂さんが審判しんぱんに入ると、


「さあラスト1組だ!

 終わったらお待ちかねの筋トレだよ!」

と再び志摩枝しまえさんが大声を出しつつ、

なぜかボクとりんのところに歩み寄って来る。


「?」


 ボクとりんり返った。


「部長のお前のほう。

 ムロ……、いや夢路ゆめみちだったかい?

 筋トレの後、食堂に行く前に館長室まで来な。

 2階にあるおくの部屋だ」


 志摩枝しまえさんが、声を落として耳打ちするように言う。


「ボクですか?

 はい、分かりました」


 ボクは軽く首をかしげながら答えた。


「(なんだろう……?)」







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







「昨日の筋トレで筋肉痛のとこにさらに筋トレって、

 かなり痛いけどなんか効いてる感じするね!」


「オレはそろそろ限界……。

 早くメシ食って風呂ふろ入ってたい……」


 筋トレしながら絶と申清が話している。


 ウェイトトレーニングの器具が並んだ部屋で

各自が好きな器具を選んで自主的に行う形式ではあるのだが、

専門のコーチらしき遼東りょうとうさんという、

体操選手を思わせるようなハツラツとした見た目で

ハキハキしたしゃべり方の男性が巡回じゅんかいしていて、


「はい、もうあと5回やってみましょうね!」


 とか、


「少しウェイト増やしてみましょうね!」


 とかトレーニング中に声をけて来るのだ。


 意外とよく見ているらしくて、

何とかこなせる程度の負荷を提案してくるので、

ボクは内心でかなりおどろいていた。


 遼東りょうとうさんと下井先生は気が合ったのか、

途中とちゅうからは2人でペアになって楽しそうに指導をして回っている。


 部屋のかべには、たくさんのゴム製のチューブのようなものもぶら下がっていて、

男子の何名かは、それを聖剣せいけんに引っけた状態での素振すぶりをやっていた。


 負荷をけた状態で素振すぶりすることで、

より力の入れやすいフォームが自然と身につくんだそうだ。


「じゃあそろそろ晩ご飯の時間だから、

 各自キリのいいところで切り上げて食堂に移動しましょうね!」


みんな、おつかれ様~!」


 遼東りょうとうさんと下井先生がトレーニングしていたボク達に声をけてきたところで、

ボクは絶と申清に、


「ちょっとボク、館長室に呼び出されてるから、

 みんなと先に行っててくれる?」

と伝える。


「えっ……?

 それはいいけど……」

と絶がまゆを寄せると、


「呼び出しって何やったんだお前……」

と申清もまゆを寄せた。


 そのリアクションを見たボクも


「えっ……。

 いや、何もやってないよ……?」

と若干不安になってしまう。


「(そうか……。

  さっきは何とも思わなかったけど、おこられるって可能性もあるのか……)」







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







「失礼しまーす……」


 館長室のドアをボクがおずおずと開ける。


 事務所と応接室が一緒いっしょになったような手狭てぜまな部屋だ。


「よく来たね。待ってたよ」


事務机のほうでA4サイズの書類に目を通していた志摩枝しまえさんが顔を上げて言った。


「腹が減ってるだろうに呼び出して悪かったね。

 まあ、すぐ済む話だからそこに座っておくれ」

志摩枝しまえさんは続け、

アゴで応接セットのほうにあるソファみたいな革張りのイスを示す。


「はい……」


 ボクはおこられるのかと不安なので、

ギクシャクした感じでゆっくりとイスまで移動して座る。


「それで、お話って何でしょうか……?」


 イスに座わったボクがおそおそたずねると、


「ちょっと待っておくれ……。

 これでよし」


 志摩枝しまえさんは言いながら書類に押印おういんしたかと思うと、

事務机から立ち上がって移動し、ボクの向かいにあるほうのイスに座った。


 そして志摩枝しまえさんは、少し難しそうな表情をして

応接テーブルに視線を落とした後、


「単刀直入に聞こう。

 好きな方向に同時に射聖ショットできるってのが金色の聖剣せいけんの能力なんだね?」

とボクのほうをするどく見つめながらたずねた。


「えっ……?」


 ふいに言われた質問に、ボクが思わず口に出すと、


「とぼけなくていいよ。

 練習中に何度かやってただろう?」

志摩枝しまえさんは続ける。


 ボクはどう答えるべきか少し迷ったが、正直に


「そうですね……。

 ボクの聖剣せいけんは、好きな方向に同時に射聖ショットができます」

と答えた。


「やっぱりそうか……」


 志摩枝しまえさんは再びテーブルに視線を落とし、


「てことは、ろうの言ってたこともあながち……」

つぶやくように言う。


「キング……?

 キングが何か……?」


 ボクは話がよく見えずにたずねた。


「これを……、見てくれるかい……?」


 志摩枝しまえさんはそう言いながらポケットから自分のスマホを取り出すと、

何度かタップしてからボクのほうに差し出してきた。


「……これは!?」


 スマホを受け取って画面を見たボクはおどろく。


 そこには、真っ青な聖剣せいけんを持って笑みをかべる黒人の青年が映っていた。


「去年、ろうが『すごい子を見つけた』って送ってきたのさ」


 志摩枝しまえさんは言いながら左手で頭をさえ、


「それで先月ここに帰ってきた時に詳細しょうさいたずねたら、

 『あの青い聖剣せいけんは、彼の意思で自在に曲げることができるんだ』、

 『変聖期へんせいきが来たら急に青い色に変わって、それからできるようになったらしい』

 ってさ」

と言うと両目をつぶり、


「『養子にしたいってかれのご両親に相談してみたけど断られた』

 とも言ってたね。

 ハハハ……」

と少しかわいたような笑いをあげる。


「自在に……、曲がる……」


 ボクはつぶやくように言った。


 志摩枝しまえさんはそれに再び両目を開けてうなずくと、


「そこに金色の聖剣せいけんなんて持ったお前さんが来たからね。

 『こいつも何か普通ふつう聖剣せいけんとはちがうんじゃないか?』

 って思ってたら案の定……。

 フゥー……」

め息をつき、もう暗くなりつつある窓の外のほうに視線をやる。


「(色つきの聖剣せいけん……。

  そして変形する能力……。

  これはまるで……)」


 ボクの脳裏には、動画で観た古館こん選手の黒い聖剣せいけんが浮かんでいた。


「私も色つきの聖剣せいけんなんて今まで見たことなんか無かったから……。

 だが、これも1つの才能ってやつだろう。

 分かってるかとは思うが、その才能を生かすも殺すもお前次第というわけだ。

 だから、心しておくことだよ?」


 再び志摩枝しまえさんがボクのほうを見て言う。


 その視線も声も、真剣しんけんそのものだ。


 ボクに。


 ボクの聖剣せいけんに何かを。


 剣士けんしとしての素質のようなものを見出したのかもしれない。


 だがボクは、そこから視線を外してテーブルの上を見ながら言う。


「はい……。

 ただ……、その……、1つだけ引っかかることが……」


「……なんだい?」


 志摩枝しまえさんが、ボクを見つめたままわずかに身を乗り出した。


 ボクはそんな志摩枝しまえさんの視線に何とか再び視線を合わせると、

意を決して


「ボクの聖剣せいけんが好きな方向に同時に射聖ショットできたのは、はじめからなんです……。

 変聖期へんせいきで金色に変わってからじゃないんです……」

と告げる。


「!」


 それを聞いた志摩枝しまえさんは目を見開き、

呆然ぼうぜんとしたように天井のほうに視線を移して、


「それは……、つまり……」

とだけつぶやいた。


 ボクも、何も言葉が続かない。


聖剣せいけんは才能と同じだ。

 自分自身が信じていればいつか開花し、

 だれにも負けない真の強みを発揮する』


 ボクの頭の中には、キング玉木のあの言葉がよぎっていた。

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