52回戦 合宿-4

 そこからの試合は、りんと色葉選手のパイルスパイクのち合いになった。


 どちらもホイッスルが鳴るとほぼ同時に飛び出してジャンプし、

パイルスパイクをつ。


 弾速だんそくは、色葉選手がやや上。


 精度は、ほぼ互角ごかくだろうか。


 ボクはパイルスパイクをたれる瞬間しゅんかんに動き回って回避かいひしようとし、

天賀選手は聖剣せいけんの腹を構えてガードしようとする。


 1ゲーム目は、

ボクが前転で回避かいひしようとしたものの、

すぐさまポイントを取り返されてしまい、

1ワン-3スリーで天賀選手と色葉選手が取った。


 2ゲーム目も、最初の1ポイント目は、

天賀選手がガードに成功したため取られてしまったものの、

2ポイント目はボクが回避かいひに成功して1-1ワンオール


 そこでボクは、あることに気づいた。


 色葉選手はどうやら、つ直前に

色葉選手から見て左側にターゲットが移動すると、

あまりうまく合わせられないらしい。


「もしかして、

 前に左手をり上げるとやや半身になるから、

 左側のほうがねらいにくいのかな……?」

とボクがりんたずねると、


「言われてみれば……、そうかもしれませんわ……」

りんは答えた。


 そこからボクは、色葉選手がジャンプするまでは

普通ふつうにアースの中央へ向かって走り、

色葉選手がジャンプして頂点に達すると、

色葉選手から見て左側に向かって

ズザッ!と素早く移動してみたりゴロッ!と横転してみたりした。


 結果は、どちらも回避かいひに成功。


 3ポイント目と4ポイント目もりんが連取した形になり、

3スリー-1ワンで2ゲーム目をボクとりんのペアが取った。


 試合はタイブレイクに突入とつにゅうである。




 だがここで、2つ問題が起こった。




「無理するな。

 最後までは、とてももたないだろう?」

と天賀選手が心配そうに言うと、


「勝手に……、決めつけ……、ないでよ……。

 いいところ……、なんだから……」

と色葉選手はゼエゼエしながら答える。


りん大丈夫だいじょうぶ……、じゃないよね……?」

とボクがりんに声を掛けると、


「正直……、かなり……、キツイ……、ですわね……」

りんもゼエゼエしながら答えた。


 そう。


 パイルスパイクをり出すために

毎ポイントジャンプしている2人の体力が限界に近いのだ。


「(そして、この気温……)」


 ボクはサンサンと降り注ぐ太陽をチラリと見上げて、顔をしかめる。


 季節は8月。


 さらにボク達は、それなりに重量のあるプロテクターを全身に装着している。


 ただ回避かいひしているだけのボクでさえ、たきのようにあせをかいていた。


 そしてもう1つの問題。


りん……、真空魔力まりょく回復してるの……?」


 ボクがたずねると、


「次はまだ……、てますが……、

 その次は……、間に合うかどうか……」

りんは、まだゼエゼエしながら答える。


 そう。


 真空残弾数ざんだんすうが足りないのだ。


 ボクと合体ジョイントするためだけに

真空5発と強風3発を覚えた状態にしていたりんは、

こんな風に真空ち合うことを想定していない。


「(以前にりんから聞いた魔力まりょくの回復速度は、

  1分間に3ブロック程度という話だった……)」


 ボクは考えをめぐらせた。




 魔力まりょくの回復というものは、

消費したブロックから順に回復していくものなのだ。


 つまり、最初に加速する火球で妨害ぼうがいを試みたりんは、

まず火球の魔法まほうの2ブロックぶんが回復し、

次に爆発ばくはつ魔法まほうの2ブロックぶんが回復した。


 真空の回復は、その後から始まる形になったわけだ。


 そしてホイッスルと同時にパイルスパイクをつ今の展開では、

ポイント間のスタンバイエリアへの移動をふくめても、

1ポイントあたり20秒程度しか経過していない。


 つまり、魔力まりょくの消費に対して、回復が追いついていないのである。


 たまたまボクが連続で回避かいひに成功したとはいえ、

色葉選手はボクの動きに合わせて修正してくるはずだ。


 タイブレイクの4ポイントをそのままスムーズに取れるかというと、

そう上手くは行かないだろうと思われた。


 ポイント間に相談しているフリをして時間をかせぐこともできなくはないが、

審判しんぱん遅延ちえん行為と見なされれば警告や失点の対象になることも有り得る。


 あるいは公式戦ではないので、


『試合中に飲むことをルールで禁止されている

 魔力まりょくポーションを飲んでしまうのは?』

とも考えた。


 しかし、『実力を見せてもらう』と志摩枝しまえさんが言った以上、

本番の試合を想定するべきな気がする。




「あまり良い案じゃないかもしれないけど、

 次のポイントからはパイルスパイクをすぐにたずに、

 時間をかせぐっていうのはどうかな……?」


 ボクはりんに提案する。


「そうですわね……。

 1ポイント毎に1分程度かけることができれば……。

 ですが、何か手がございますか……?」


 ようやく少し息を整えたりんたずねた。


 ボクはそれにうなずきながら、


「うん……。

 考えたんだけど、

 色葉選手をねらうんじゃなくて、

 ボクの前方に火球をつのはどうかなって……」

と答える。


「なるほど……。

 障害物として火球を使うイメージですわね……?」


 りんは考えむようにアゴに手を当てた。


 そう。


 火球と真空は打ち消し合う関係ではないが、

ぶつかればおたがいにはじかれるように軌道きどうが変わる。


 色葉選手のパイルスパイクに合わせてボクの前方に火球をてば、

真空軌道きどう妨害ぼうがいしたり、

軌道きどうが変わることをきらった色葉選手がねらいを外したり

するかもしれない。


「最初のパイルスパイクを外させさえすれば、

 その後は加速する火球で色葉選手を妨害ぼうがいしてもいいし、

 天賀選手をねらってもいい。

 りんに負担をかけることには変わりないんだけどね……」


 ボクは回避かいひすることしかできないのが歯がゆくて、

少し顔をせる。


「いいえ……。ありがとうございます……。

 今できる最善手だと思いますわ……。

 それで行きましょう……」


 りんがボクにうなずくと、ボクもりんにうなずいた。




 ボクとりん、天賀選手と色葉選手が

それぞれスタンバイエリアに入ると、

ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 すかさず色葉選手はダッ!ダァン!とジャンプするが、

同時にりんがパン!パン!と両手から火球をボクの前方へ発射した。


「!」


 色葉選手の顔が、わずかにゆがむ。


 ボクはりんの火球を利用すべく、ザザッ!とサイドステップする。


 シュバ!


「!」


 色葉選手がパイルスパイクをり出した。


 だが、ボクの身体は無傷だ。


「(外した……!)」


 火球を警戒けいかいし過ぎたのか、

単純に疲労ひろうのせいなのかは分からないが、

色葉選手のねらいがれたらしい。


 パボン!


 今度はりんが、加速する火球を色葉選手に発射する。


「この……!」


 ビュオ!


 色葉選手が、強風で火球の軌道きどうらした。


 すかさずりんが、ダッ!ダァン!とジャンプする。


 シュバン!


「くうっ……!」


 りんのパイルスパイクは、天賀選手の左脚ひだりあしに命中した。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされる。 


「ナイスショットー!」


「ありがとうございます!」


 ボクとりんは、言いながらパァン!と左手でハイタッチを交わした。


「いいぞ!いいぞ!りん

 行け!行け!木石!

 もう1本!」

とウチの剣魔けんま部の面々の手拍子てびょうし声援せいえんも飛んでくる。


「いい感じだね。

 これで行けそう?」


 ボクがりんたずねると、


「はい……。

 次も……、これで……、行きましょう……」


 りんはゼエゼエしながらも、大きくうなずく。


「すまん……」

と天賀選手が色葉選手に謝ると、


「平気……。

 ハナから……、期待してない……。

 それに……」

と色葉選手がゼエゼエしながら言い、

続けて


「次は……、あれ……、やるから……」

と天賀選手に言った。


 天賀選手は、


「!

 ……止めはしないが、大丈夫だいじょうぶなのか?」

と少しおどろいた様子で色葉選手にたずねる。


「仕方ない……、でしょ……?

 強敵……、なんだもの……」


 色葉選手は答えた。


「何か仕掛しかけてくるつもりみたい……」


 ボクは色葉選手のほうを見つめる。


「そのようですわね……」


 りんも色葉選手のほうを見つめた。

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