51回戦 合宿-3

 ボクとりん、天賀選手が、ダダダ……!とななめに走り出す。


 だが、色葉選手はそうではない。


 前方、

というよりボクに向かって、ダッ!と大きく1歩助走をつけるように走ると、

ダァン!と大きくジャンプした。


「(えっ……!?)」


 ボクは色葉選手のほうに顔を向ける。


 色葉選手は、空中で左腕ひだりうでを前方にり上げつつ、

右腕みぎうでを大きく後方にりかぶりながら、

身体を背中側に反らしたポーズ。


 いわゆるバレーのアタックのようなポーズをしていた。


「(これは……!)」


 気づいたボクが聖剣せいけんを持ち上げようとするのと同時に、

ビュッ!と色葉選手が弓なりに反った身体を勢いよくもどしながら右腕みぎうでる。


 シュバン!とボクの頭部のプロテクターに衝撃しょうげきが走った。


「うっぐ!?」


 不意打ちを受けたボクは、首をのけぞらせてしまう。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされた。


「ナイスショットー!」


「当然」


 天賀選手と色葉選手は、

言いながらパァン!と左手でハイタッチを交わす。


「オォ……!」

とウチの剣魔けんま部の面々はざわつくが、

すぐさま


「ドンマイ!ドンマイ!木石!

 行け!行け!りん!」

手拍子てびょうし声援せいえんが飛んできた。


「ムロさん!?大丈夫ですか!?」


 りんがボクにけ寄って来る。


「うん……、大丈夫だいじょうぶ……。

 パイルスパイクだね……。

 びっくりした……」


 ボクは首をブンブンってから答えた。




 『パイルスパイク』とは、

剣魔けんまにおける魔法まほう使いのテクニックの1つである。


 先ほどの色葉選手のように、

バレーのアタックをする要領で全身を大きく使って素早くうでき、

そのスピードを上乗せしながら魔法まほうり出すのだ。


 このテクニックを世界で初めて剣魔けんまに取り入れた、

杭内くいうち』というプロ魔法まほう使い選手の名前をもじって、

杭撃くいうち』とも呼ばれる。


 だが、バレーのアタックと同じく、

り出した魔法まほうねらい通りの位置に、

しかも動いている相手に命中させるとなれば、

かなりの練習を積む必要があるはずだ。


 これもまた、必殺技と呼ぶべき高等テクニックなのである。




 だが、ボクが色葉選手の攻撃こうげきを食らってしまった原因は、

もう1つあった。


「風属性使いですわね……」


 りんが色葉選手のほうを見て言う。


「そうみたいだね……」


 ボクも色葉選手のほうを見てうなずいた。


 そう。


 飛んで来たのが風属性の真空だったためだ。




 真空は『』とは言うものの、あくまで空気のかたまりに過ぎない。


 半透明はんとうめいや白くかすんだ物体が飛んでいるかのように見えるソレは、

弾速だんそくがそれなりにおそいからこそ目でとらえられる空気の屈折くっせつ率のちがいなのだ。




「(パイルスパイクでたれた高速の真空……!

  とはいえ、あのスパーキングスナイプよりは弾速だんそくおそいはず……!

  おそいはずなのに、見えなかった……!)」


 ボクが思っていると、

りんがくるりとボクのほうにり返り、


「ワタクシが、パイルスパイクをてないよう、

 火球で妨害ぼうがいしてみますわ」

とボクに耳打ちする。


「そうだね……。

 ボクは何とかガードや回避かいひができないか、頑張がんばってみるよ……」


 ボクはりんを見つめながら、再びうなずいた。




 ボクとりん、天賀選手と色葉選手が

先ほどとは左右を入れえたスタンバイエリアに入ると、

ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 すかさずりんが、

パボン!と加速する火球を色葉選手に向けて発射した。


 だが、火球を見た色葉選手は、


「はいはい」

とダルそうな声で言いながらそれに左手をかざす。


 ビュオ!と風がいた。


「(強風で……!)」


 りんの発射した火球は、アースの左手側にあっさりと流されていく。


 すぐさま色葉選手は、ダッ!ダァン!とジャンプして、

右腕みぎうでを大きくりかぶる。


「くっ……!」


 ボクは聖剣せいけんを顔の前に構えた。


 だが、

ビュッ!シュバン!


「うぅっ!」


 ボクは左脚ひだりあしのスネの辺りのプロテクターにパイルスパイクを受ける。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


2ツー-0ゼロ!」

とスコアがコールされた。


「ナイスショットー!」


「はいどうも」


 天賀選手と色葉選手が、

言いながら左手でパァン!とハイタッチを交わす。


「ドンマイ!ドンマイ!木石!

 行け!行け!りん!」

とウチの剣魔けんま部の面々の手拍子てびょうし声援せいえんが飛んできた。


りん、どうしよう……?

 りんも強風で妨害ぼうがいするのがいいのかな……?」


 歩み寄って来たりんにボクはたずねる。


「このままだとショットガンをつ以前に、

 合体ジョイントするのすらも……」


 ボクはさらに言いかけるが、りんはそれをさえぎるように


「いえ、おそらくですが、何とかなります」

と言うと、右肩みぎかたをぐるりと回すように動かした。


「えっ……!?

 りん、まさか……!?」


 ボクがおどろいて言うと、りん


「はい。

 申し訳ありませんがムロさんは、

 聖剣せいけんかずに回避かいひに専念してもらえますか?」

と答える。


 自信満々といった表情だ。


 ボクは大きくうなずいた。




 ボクとりん、天賀選手と色葉選手が

最初にいたスタンバイエリアに再び入る。


 ボクはシュン!と聖剣せいけんをなえた。


「……何のつもり?」


 それを見た色葉選手がつぶやくように言う。


 だが、ボクは構わずに足をジリ……とみしめた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 すかさずりんが、ダッ!ダァン!とジャンプして、

右腕みぎうでを大きくりかぶった。


「!」


 ボクに気を取られていたのか、

ワンテンポおくれた色葉選手もダッ!ダァン!とジャンプするが、

ビュッ!とりんが先に右腕みぎうでり下ろす。


 シュバン!


「うおっ!?」


 右脚みぎあしの辺りのプロテクターに真空を受けた天賀選手が、おどろいたように言った。


 そう。


 なんと、りんがパイルスパイクをり出したのだ。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ワ、1ワン-2ツー!」

とスコアがコールされた。


「すごい!ナイスショット!」


「ありがとうございます!」


 ボクとりんは、左手でパァン!とハイタッチを交わす。


「オォ……!」

と今度はウチの剣魔けんま部の面々も、

丙景へいけい中の面々もざわつくが、


「いいぞ!いいぞ!りん

 行け!行け!木石!

 もう1本!」

とすぐにウチの面々の手拍子てびょうし声援せいえんが飛んできた。


「ハハ……、アンタも使えたの……?

 しかも聞いてた火属性じゃなくて、風属性……。

 出ししみしてたってわけ……?」


 色葉選手が、なぜか少しうれしそうな表情でりんに言う。


「いえ。

 たまたま練習していた技の実演を、

 間近でしていただいたものですから……」


 りんはそう言うと、ニヤリと不敵な笑みをかべた。


「アタシのを見て覚えたってこと……?

 それであのスピードと精度……。

 前言撤回ぜんげんてっかいだね……」


 色葉選手もニヤリとする。

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