50回戦 合宿-2

「スマホ、ガラケー、携帯けいたいゲーム機の類は没収ぼっしゅうさせてもらうよ。

 お前達は強くなるために来たんだ。

 遊びに来たんじゃあない」


 玉木会館の現館長、キング玉木の姉で

見た目も髪が長い以外は本当にそっくりな

『玉木志摩枝しまえ』さんは会館のエントランスでそう言うと、

ボク達の持ち物の中身を順番に確認していく。


「なん……だと……」


「ウソ……だろ……」


 機器を取り上げられた馬薗まぞのたてるが、

この世の終わりとでも言いたげな声をしぼり出した。


「心配しなくても、夜22時の消灯前には一時的に返してやる。

 両親なんかとの連絡れんらくはその時にしな」


 取り上げた機器類をカギ付きのボックスにしまうと、

志摩枝しまえさんはそのカギをポケットのキーケースに入れ、


「ようこそ玉木会館という名の地獄じごくへ。

 今は会員も50人ぐらいでりょうの部屋自体は空いちゃいるが、

 ここはだれでもウェルカムなんてぬるい環境かんきょうじゃあない。

 お前達が今は手足すら生えてないオタマジャクシだとしても、

 ここに入会を認める程度にはきたえてやるつもりだから、覚悟かくごしときな」

腕組うでぐみしながら言う。


「はい!

 ご迷惑めいわくをおけしますが、よろしくお願いいたします!」


 美安先生が深々と一礼すると、


「……ほら、お前らもあいさつ!」

と言いながらこちらをり返った。


「よ、よしみんな、……せーの!」


 部長のボクが言い、


「オナシャース!」

とボク達は大声で言いながら、同じように頭を下げる。


「ふん……。

 まあ声の大きさは合格だ。

 じゃあ早速だがお前達の実力を見せてもらうよ?

 これが部屋のカギ。

 部屋に荷物を置いたら、10時までに外のアースに集合だ。

 同じく今日から合宿に来てる、

 となりの県の『丙景へいけい中』ってオタマジャクシ達がいるから、

 そいつらと団体戦形式で戦ってもらう」


 志摩枝しまえさんはそういうと、下井先生と美安先生にカギをいくつか手渡し、


「……こっちのお前と、そっちのお前の顔はなんか見覚えがあるな。

 ウチのキッズ剣魔けんま教室にでも来てたかい?」

とボクとたてるを指差した。


「!」


 ボクとたてるは、かなりおどろく。


「は、はい!

 キッズ剣魔けんま教室に参加したことがあります!

 覚えててくださったんですね!

 キングは、こちらに今いらっしゃるんでしょうか!?」


 ボクは再び頭を下げつつ、志摩枝しまえさんにたずねる。


「名前までは覚えちゃいないが顔ぐらいはな……。

 ろうとチギールは、もうとっくに海外に飛び立ったよ」


 志摩枝しまえさんはそう言いながら軽くかたをすくめ、

スタスタと会館のエントランスから外に出ていった。




 『キッズ剣魔けんま教室』というのは、

毎年7月の夏休みの頭頃あたまごろに、ここ玉木会館で行われるイベントだ。


 まだ聖通せいつう初恵しょけいが来ていない、

小学1年生前後の子供達を対象にして、

剣魔けんまのルールを教えたり、

剣道けんどうの竹刀を聖剣せいけん水鉄砲みずでっぽう魔法まほうに見立てて

実際に剣魔けんまをプレイさせたりする教室である。


 剣魔けんまを引退したキング玉木は、

今ではおくさんで元ペアのチギールさんと共に、

主に剣魔けんまのあまり普及ふきゅうしていない発展途上とじょう国で

剣魔けんま普及ふきゅうさせるための奉仕ほうし活動をしているそうだが、

毎年7月には佐雄さお市に帰省して、

そのキッズ剣魔けんま教室を志摩枝しまえさんと共に取り仕切っているのだ。


 そしてボクとたてるは、あの夢の当時、

つまりボクが小学1年生だったころに、

そのキッズ剣魔けんま教室に参加したことがあるというわけである。


「ボ、ボクもキングみたいなカッコイイ剣士けんしになれますか!?」

といきなり質問した当時のボクに、


「キミを助けたオレみたいにかい?

 もちろんなれるさ。

 聖剣せいけんは才能と同じだ。

 自分自身が信じていればいつか開花し、

 だれにも負けない真の強みを発揮する」

とニコリとしながら答えてくれたキング玉木のその言葉が、

プロ剣士けんしを夢見るボクのルーツなのだ。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 さて、外に8面あるアースの1つに集合して

準備運動とランニングを済ませたボク達は、

同じく合宿に来ているという丙景へいけい中と向かいあった。


「よろしくお願いしま〜す!」

と下井先生が言うと、

ボク達も


「オナシャース!」

と大声であいさつする。


 丙景へいけい中の面々もすぐさま、


「オナシャース!」

と大声であいさつを返してきた。


 我が正甲中せいこうちゅうのオーダーは、

剣士けんしシングルス1が絶、

剣士けんしシングルス2が申清、

魔法まほうシングルス1が頂さん、

魔法まほうシングルス2が相武さん、

ミックスダブルス1がボクとりんのペア、

ミックスダブルス2が馬薗まぞの茶渡さどさんのペア、

ミックスダブルス3がたてる音呼ねこくんのペア、

である。


 馬薗まぞのは竹刀ぐらいのサイズの真っ直ぐな聖剣せいけんの使い手で、

ペアの茶渡さどさんは風属性が得意な魔法まほう使いだ。


 対戦相手の丙景へいけい中のオーダーは、

剣士けんしシングルス1が奪智だつち選手、

剣士けんしシングルス2が千國ちくに選手、

魔法まほうシングルス1が張片選手、

魔法まほうシングルス2が蝋田ろうた選手、

ミックスダブルス1が天賀選手と色葉選手のペア、

ミックスダブルス2がゆか選手と角選手のペア、

ミックスダブルス3が柄根えね選手と真鞍まぐら選手のペア、

である。


 ちなみに顧問こもんは、

まだ30代ぐらいに見えるのに頭をスキンヘッドにした、

かなり強面な見た目の朱印しゅいんという男の先生だ。


 かれも玉木会館の出身で、美安先生の先輩せんぱいにあたるらしく、

『今年は魔法まほうシングルスで色葉選手、

 ミックスダブルスで天賀選手と色葉選手のペアが、全中に出場する』

と親しそうに話していた。


 試合は、8面あるアースの内、

会員が練習に使っていない2面を使うそうだ。


 まずは剣士けんしシングルス1の絶と奪智だつち選手、

そしてミックスダブルス1のボクとりんのペアと

天賀選手と色葉選手のペアがそれぞれアースに入る。


 アースの中央にある『*』マークの辺りで

ボクとりん、天賀選手と色葉選手が向かい合うと、


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いいたしますわ」

握手あくしゅを交わした。


 天賀選手は、黒髪くろかみをやや長めにばしており、

絶ほどではないが、女子にモテそうなにこやかなイケメン男子。


 カッターナイフのをそのまま大きくして持ち手を付けたような、

平行四辺形であまり厚みのない聖剣せいけんを右手で持ってかたに担いでいる。


 色葉選手は、黒髪くろかみをツンツンしたショートカットにしていて、

かなり日焼けしており、

凛々りりしい目つきをした、運動が得意そうな女子だ。


「キミは……、何と言うか……、面白い聖剣せいけんだね……」


 ボクの聖剣せいけんを見た天賀選手は言葉をにごすが、


「でも、そっちの本能兄妹の妹のほうとペアってことは、

 相当やるんだろう?

 お手柔てやわらかにたのむよ」

と今度はりんを見つめてニコリとする。


「えっ、マジ?

 アタシも名前は聞いたことあるけど、こんな美人なんだ?」


 それを聞いた色葉選手が、りんの顔をジロジロと見て、


「なんか大したことなさそう」

かたをすくめた。


「おいおい……、失礼な……。

 キミは思ったことをすぐ口に出し過ぎだぞ……」


 天賀選手はまゆを寄せて、色葉選手を非難するように言う。


「フッ……。

 見た目が良いやつは大したことないって相場が決まってんのよ。

 アンタがアタシのオマケであるみたいに。

 まあ、丸い聖剣せいけんのソイツが強いとも思わないけどね」


 色葉選手は鼻を鳴らしてそう言うと、

くるりとボク達に背を向けて頭のプロテクターをかぶり、

スタスタとスタンバイエリアに歩き出した。


「ハア……。すまない……。

 気を悪くしないでくれ……」


 天賀選手は、ため息をついてから左手で頭をおさえると、

こちらに軽く頭を下げる。


「ハハハ……。慣れてるので大丈夫だいじょうぶです……」


 ボクが頭をかきながら言うと、


「ワタクシも大丈夫だいじょうぶですから、お気になさらず」

りんも答え、少しニコリとした。


 だが、普段ふだんから一緒いっしょにいるボクには分かる。


 あまり目が笑っていない感じだ。


 ボク、りん、天賀選手も頭のプロテクターをかぶり、

スタンバイエリアに向かった。


 歩きながら、ボクがふとアースの外を見ると、

志摩枝しまえさんがボクを、

いや、ボクの聖剣をジッと見つめているようだ。


 だが志摩枝しまえさんは、ボクが見ていることに気づくと、

プイとその視線をらしてしまう。


「(志摩枝しまえさんにも

  『あんな聖剣せいけんで全中に……?』

  なんて思われちゃったかな……?

  それなら試合で頑張がんばっておどろかさないと……)」


 ボクはそう思うと、いつものように

スゥー……!ハァー……!と深呼吸をして気持ちを落ち着けた。


 ボクとりん、天賀選手と色葉選手が

それぞれスタンバイエリアに入って向かい合うと、

ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 試合スタートだ。

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