53回戦 合宿-5

 ボクとりん、天賀選手と色葉選手がそれぞれスタンバイエリアに入ると、

ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 すかさず色葉選手が、ダッ!と飛び出した。


 りんは、すぐさまパン!パン!と

火球の魔法まほうをボクの前方へ2連射する。


 しかし色葉選手のほうは、右腕みぎうでりかぶりながら

タメを作るように身体をグッとしずませた。


 ボクは、ザザッ!と火球のほうへサイドステップしながら、


「(しまった……!フェイント……!?)」

とあせる。


 ところが、そのまま色葉選手が右腕みぎうでり始めたと思った次の瞬間しゅんかん

予想外のことが起こった。


 なんと、シュバババン!という音と共に、

衝撃しょうげきが火球とボクの左肩ひだりかたに次々と命中したのだ。


「なっ!?うぅっ!?」


 不意打ちを食らったボクは、

上半身を大きくねじったかのような体勢になってしまう。


 ボクの目にはほとんど見えなかったが、

3発の真空が飛んで来たのだ。


「オォッ……!?」

とウチの剣魔けんま部の面々もザワザワどよどよとした。


「(まさか今のは……、三振りの大鎌スリーサイズ……!?)」


 ボクは驚愕きょうがくしながらも、

何とかくずされた体勢をもどして色葉選手のほうに向き直る。




 『三振りの大鎌スリーサイズ』とは、

キュニョーというプロ魔法まほう使い選手が得意としている必殺技の名前だ。


 右利きの選手の場合であれば、

まず右足寄りに体重をかけてタメを作りながら右腕みぎうでりかぶり、

次に左脚ひだりあしり出しながらその反動を使い

右腕みぎうでを勢いよくって真空を発射しつつ右足でジャンプをし、

ジャンプの上昇中じょうしょうちゅうに今度は右脚みぎあしり出しながらその反動を使い

左腕ひだりうでを勢いよくって真空を発射し、

ジャンプの頂点から下降中に再度左脚ひだりあしり出しながらその反動を使い

右腕みぎうでを勢いよくって真空を発射するのである。


 これにより、パイルスパイク並みの速度を持たせた真空

間髪かんぱつを入れずに3連発できるわけだが、

言葉による説明でも分かる通りの複雑な身体の使い方をする上に、

プロテクターを着た状態だと並大抵なみたいていの筋力では動きが追いつかず、

真空ねらい通りの位置に発射することはおろか、

まともに3発目まで発射することすらできない。


 3連発される高速の真空

ガードしたり回避かいひしたりするのが非常に難しい反面、

その技としての難易度も桁違けたちがいな、

四点同時攻撃クアドラプルアタック双璧そうへきを成すとされる、

現代剣魔けんまちょう高等テクニックなのだ。




 だが、ピー!とホイッスルが鳴らされ、

「ワ、1-1ワンオール……」

動揺どうようした様子で審判しんぱんがスコアをコールしたのも、


 ボクとりん


「……!」

と無言で立ちくしたのも、

三振りの大鎌スリーサイズだけが理由ではなかった。


「ううぅ……!」

と色葉選手が、四つんいになってうめいているのだ。


 そしてそんな色葉選手を見て、


「(ジャンプの着地に失敗した……!?

  いや、というよりあれは……!)」

とボクが思い、

天賀選手があわてたようにけ寄ろうとした、その時である。


「 や め ! 」


 かみなりが真横に落ちたのかというような大声がした。


 びっくりしてり向くと、いつの間にか

志摩枝しまえさんがボク達のいるアースに入って来ている。


 その右腕みぎうでには2リットルサイズの

スポーツドリンクのペットボトルが2本もかかえられ、

左手には青いプラスチック製のバケツがぶら下がっていた。


 ダダダッ!と志摩枝しまえさんが色葉選手に走り寄ると、

チャプン!チャプン!という水音と共に

ガラガラ……とたくさんの何かがぶつかる音がバケツからひびく。


 どうやら氷水が入っているようだ。


 志摩枝しまえさんは手早く色葉選手の頭のプロテクターを外し、

座ったような姿勢にさせると、

半ば無理矢理その頭をつかむようにして

ペットボトルのスポーツドリンクをガバガバ飲ませ、

バケツから出したれタオルを色葉選手の首周りにし当てる。


「冷たっ……!」


我慢がまんしな。

 身体を動かしてたからダルさは有るだろうが、

 めまいとかき気とかは有るかい?」


「無い……です……。

 あしが……ちょっと……」


「ちょっとじゃないよ。

 大会の前だってのに無茶しやがる」


「だって……」


 だんだん涙声なみだごえのようになる色葉選手と志摩枝しまえさんが

そうやり取りをすると、

志摩枝しまえさんが今度は歩み寄っていたボクとりんのほうにり返り、


「そっちの魔法まほう使いも相当キツイだろ?

 ほら」

と言い、もう1つのペットボトルをりんに放り投げた。


「!

 ……ありがとうございます」


 受け取ったりんも、

そう言うと頭のプロテクターをぎ、

ペットボトルを開けてゴックンゴックン飲む。


 と、


「まだ……やれます……」

と言いながら、色葉選手がヨロヨロと立ち上がった。


 だが、志摩枝しまえさんはハァー……と大きくため息をつき、


「その残りカスの体力は、食堂まで歩くのに使っとくれ。

 あそこは冷房れいぼうが効いてるからね。

 そこで昼まで休むんだ。

 そっちの魔法まほう使いもだよ」

と言って、

色葉選手とりんの首根っこをつかむようにして引き寄せると、


「まあ、実力は分かったからもういいよ。

 特に魔法まほう使い2人はな。

 試合はタイブレイクの1-1ワンオールで両者棄権きけんの引き分けだ。

 次に対戦するはずの相手がいたら大喜びだったね」

と続け、

3人で連れ立ってアースを後にした。


 残されたボクと天賀選手は、しばし立ちくし、

たがいに顔を見合わせて軽く苦笑いをかべると、


「ありがとうございました」

握手あくしゅを交わす。




 団体戦の試合内容をかいつまんで書くと、

剣士けんしシングルス1の絶と奪智だつち選手の試合は、

絶の貫禄かんろくあるいはプレッシャーに気圧されたらしい奪智だつち選手がるわず、

3-0、3-0で絶が勝利した。


剣士けんしシングルス2の申清と千國ちくに選手の試合は、

申清のパワーでし切るプレイスタイルが見事にハマり、

3-1、3-1で申清が勝利した。


魔法まほうシングルス1の頂さんと張片選手の試合は、

火属性と水属性という相反する属性の対戦ながら、

りんに教わったという頂さんの加速する火球が猛威もういるい、

3-0で頂さんが勝利した。


魔法まほうシングルス2の相武さんと蝋田ろうた選手の試合は、

同じ火属性同士の対戦だったこともあってややもつれ、

最後は押し切られる形で2-3と相武さんが敗北した。


ミックスダブルス2の馬薗まぞの茶渡さどさんのペアとゆか選手と角選手のペアの試合は、

最初こそ茶渡さどさんがりんよろしくパイルスパイクを

見よう見まねでり出すという波乱があったものの、

結果として見ればあまりるわず、

2-3、1-3で馬薗まぞの茶渡さどさんのペアが敗北した。


ミックスダブルス3のたてる音呼ねこくんのペアと柄根えね選手と真鞍まぐら選手のペアの試合は、

序盤じょばんこそたてる音呼ねこくんがイケイケムードで

調子良く次々にポイントをうばっていたものの、

中盤ちゅうばん以降になると2人共かなりバテてしまったらしく、

3-1、1-3、1-4で立と音呼くんのペアが敗北した。


 団体戦の結果としては、

3勝3敗1分の引き分けという形となった。

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