48回戦 お別れ会-2

「あっ……!?

 撞丁どうてい学園……!?」


 絶もボクのとなり馬薗まぞののスマホをのぞんで、

サクランボカラーのプロテクターの選手を見ると、

目を見開いてそう言った。




 『撞丁どうてい学園』は、スポーツに非常に力を入れている中高一貫いっかん学校だ。


 特に中等部のスポーツが強く、

その中でも剣魔けんまと野球は全国大会の常連校である。


 去年の剣魔けんまの全中では、

なんとミックスダブルスを除く、

剣士けんしシングルス、魔法まほうシングルス、団体戦

の3部門で優勝を果たしていて、

他校はかれらを畏敬いけいの念をめて

『チェリーガーディアンズ』の2つ名で呼ぶ。


 剣士けんしシングルスで全国優勝した選手、

つまり絶が全中の決勝戦で敗北した相手は、

当時撞丁どうてい学園の3年生だった『古館男ふるたちだん』という選手である。


 同じく弟で、剣士けんしシングルス全国3位だった当時2年生の

『古館こん』と共に『古館兄弟』と呼ばれていて、

絶とりんの『本能兄妹』と同じく全国的に有名だ。


 テレビやネットでも、

たびたび撞丁どうてい学園や古館兄弟の特集が組まれている。


 いや、有名さだけで言えば古館兄弟のほうが、ずっと上かもしれない。


 なぜなら、

だんこん自身や所属する撞丁どうてい学園の強さもさることながら、

かれらの父親が、

国内のプロ剣士けんしの中でも四股利しこり選手と並んでトップを争っている

『古館ぎん』というベテラン選手だからだ。


 このため、特に古館ぎん選手と同世代にあたる

ボク達の父親ぐらいの年代では、

『本能兄妹のことは知らないが、

 古館ぎん選手とその子供である古館兄弟のことなら知っている』

という人が多いのである。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







「……というわけで~、全中を前に~、

 この古館こんクンの対策を一緒いっしょに考えてもらおうと思って~、

 一旦いったん集まってもらったわ~」


 先ほどボク達が馬薗まぞのに観せてもらったのと同じ動画を

大きめのタブレット端末たんまつで再生させながら、下井先生が言った。


 部活の最初にやるランニングと基本動作の前に、

3年生もふくめた部員全員が集合をかけられて、

部室の前辺りに座らされたのだ。


 サクランボカラーのプロテクターに身を包んだこん選手の、


「……ァイッ!ハッ!」

という気合いのこもったけ声と共に、

かれの黒い聖剣せいけんが次々とポイントをうばう様子が、

画面にはハッキリと映し出されている。




 ボク達は小一時間ほど、

あーでもないこーでもないと意見を出し合ったが、

残念ながら有効そうな対策は見つからなかった。




「う~ん……。

 このままじゃマズいわよね~……。

 全中までまだ2週間以上あるとはいえ~……」


 下井先生は、しばらく考えむようにしぶい表情をしていたが、


「まあ~、ひとまず今日のところは~、

 お別れ会を始めましょ~?

 まずはランニングからね~!」

とパンパンと両手をたたいてみんなに声をける。




「(……。

  一体どうやって戦えば……?)」


 ランニングと基本動作をこなしながら、

ボクはまだ考えをめぐらせていた。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 ガキィン!ボッキン!


 鬼頭きとう先輩せんぱいり出したするどきをボクがガードした瞬間しゅんかん

鬼頭きとう先輩せんぱい聖剣せいけんがちょうど真ん中辺りから折れ飛んでしまった。


 折れた聖剣せいけんの先っちょの部分は、

鬼頭きとう先輩せんぱいの背後にビュン!と飛んで、

ザクッ!と地面にさった後に、

フワッとけむりのように消え去る。


「うわっ!?

 す……、すみません……!」


「いやー、気にすんなって」


 ピー!

審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ウォークオーバー!ウォンバイ木石!」

と試合結果がコールされる。


 鬼頭きとう先輩せんぱいとボクがシングルスの試合をしていたのだ。


「ありがとうございました」


「ありがとうございました……」


頭のプロテクターを外した鬼頭きとう先輩せんぱいとボクは、

そう言いながらアースの真ん中の

『*』マークの辺りで握手あくしゅを交わした。


「(なんか変聖期へんせいきで金色になってから、

  ボクの聖剣せいけんて、前よりかたくなった気がするな……?)」


 ボクが自分の聖剣せいけんに視線を落としていると、


「オレに勝ったのに、まだ部長やれるかどうか不安なのか?」

鬼頭きとう先輩せんぱいが言いながら、ボクの右肩みぎかたにポンと左手を置いた。


「それは……」


 ボクは一瞬いっしゅん言葉をまらせ、


「不安ですよ……。

 それに今のもたまたま聖剣せいけんが折れただけですし……」

と自信が持てないことを素直に打ち明ける。


 そう。


 県中総体で団体戦が敗退して

3年生の引退試合になってしまったあの日、

なんとボクは鬼頭きとう先輩せんぱいの指名で、

剣魔けんま部の次の部長になることが決まったのだ。


 レギュラーの絶か申清が部長になると思いんでいたボクには、

寝耳ねみみに水というやつだった。




「ルールはルールで勝ちは勝ちだろ?

 それに、そういう謙虚けんきょなところもふくめてさ」


 鬼頭きとう先輩せんぱいはボクの右肩みぎかたをパンパンと軽くたたくと、


「それに、ここだけの話、

 絶ってかなり真面目だろ?

 何事にも全力投球って言うのかな?

 部長の仕事って雑用なんかもけっこう多いからさ。

 そういうのにも全力だとつかれちまう。

 ムロなら、適度に周りにたよるってこともできそうだ。

 それこそ絶とか、申清とかにな」

と少し声色を落とし、冗談じょうだんめかして言った。


「そういうものですかね……?

 でも、こんな聖剣せいけんのボクに

 みんなが着いてきてくれるかどうか……」


 ボクは首をかしげてみせる。


「それだけどな……」


 鬼頭きとう先輩せんぱいは軽くうなずくとアースの外を見回して、


「おーい、申清ー!

 ちょっとこっち来てくれー!」

と申清のほうを向いてさけんだ。




 呼ばれた申清は、

ボクと鬼頭きとう先輩せんぱいのところまで小走りでやって来ると、


「どうかしましたか?」

鬼頭きとう先輩せんぱいたずねた。


「今日は3年生のお別れ会だけどさ、

 ムロと申清で試合というか、

 ムロの全力の打ちみを申清の聖剣せいけん

 受けてみてくれないか?」


 鬼頭きとう先輩せんぱいが言い放つ。


「えっ……?」


 ボクは少しおどろくが、申清は


「ああ……。

 はい、分かりました」

とあっさり了承りょうしょうした。


「じゃあオレは少しはなれてるから……。

 ムロ。全力で、だぞ?」


 鬼頭きとう先輩せんぱいが2メートルぐらい後ろに下がり、

両手でにぎこぶしを顔の前に作って

『全力で』の部分を強調して言う。


 申清は頭のプロテクターをかぶると、

ビュッと肩越かたごしに引き抜くように聖剣せいけんき、


「縦りで来るよな?」

と言いながら、聖剣せいけんを頭よりやや高い位置で横に構えて、

両ヒザをやや曲げた中腰ちゅうごしのような姿勢になった。


「あっ……、うん……。その構えでいいよ……」


 ボクは少しあわてて答えながら、


「(『全力で』……?

  『聖剣せいけんを折るつもりで』ってこと……?

  でも申清の聖剣せいけんは……)」

と考える。


 そう。


 申清の聖剣せいけんは、極太の木刀のような感じなので、

ボクは過去にかれ聖剣せいけんを折ったことも、

ましてやシングルスでは勝ったことすらもないのだ。


 もっとも、変聖期へんせいき聖剣せいけんが金色になってからは、

まだ数日しか経っていないのもあって、

試合をしたことはなかったが。


「(『今の聖剣せいけんで試してみろ』ってことか……)」


 ボクはそう考えながら、

聖剣せいけんを縦に大きくりかぶると、

全力で申清の聖剣せいけんに向かってビュッ!とり下ろす。


 ガキィン!ボッキン!


 申清の聖剣せいけんは、真っ二つに折れてしまった。


 折れた聖剣せいけんの先っちょの部分は、

ゴツッ!と申清のプロテクターの顔の辺りに当たって、

ガラン!と地面に落下した直後にフワッと消え去る。


「うわっ!?ごめんっ!」


 ボクは、すかさず謝った。


「(『折れるかも』とは思ってたけど、

  本当に折れるとは……!)」


 だが申清は、


「いや、大丈夫だいじょうぶ大丈夫だいじょうぶ

 と言うか予想通り。ハハハ……」

と軽く笑っている。


 アースの周りで見ていたみんなからも、


「オオッ!?」


 とか


「ハハハ……」


 とか


「すげー!」


 とか声が上がった。


 パチパチと拍手はくしゅしている者までいる。


「なっ?」


 鬼頭きとう先輩せんぱいがボクに近寄り、右肩みぎかたを軽くたたいた。


「えっ……?」


 ボクは鬼頭きとう先輩せんぱいのほうを振り返る。


「ウチの部で一番かたそうな申清の聖剣せいけんを逆に軽々と折っておいて、

 『自信が無い』とは言わせないぜ?」


 鬼頭きとう先輩せんぱいがニコリとした。


「!」


 ボクは目を見開く。


「そうそう。

 そんだけかたいなんてかなりヤバいって。

 ある意味無敵じゃん」


 申清も同調した。


「すっごくかたいってのも立派な武器ってことさ」


 鬼頭きとう先輩せんぱいが、またボクの右肩みぎかたをパンパンとたたく。


「はい!」


 ボクは力強くうなずいた。


「まあ、まともに当たればだけどな」


 申清がかたをすくめる。


「それな。ハハハ……」


 鬼頭きとう先輩せんぱいが笑った。


「そうだね……。ハハハ……」


 ボクも笑いながら、大げさにかたを落として見せる。


「ハハハ……。

 ところで1つ気になってるんだが……」


 笑っていた鬼頭きとう先輩せんぱいが、

少し真面目な表情になってボクのほうを見た。


「はい?」


 ボクも鬼頭きとう先輩せんぱいのほうを見る。


「ムロの聖剣せいけんも変形なんて……、さすがにしないか……?」


 鬼頭きとう先輩せんぱいが、ボクの聖剣せいけんを見ながら言った。


「えっ……!?」


 ボクと申清が同時に口に出す。


「(言われてみれば……)」




 変形するこん選手の聖剣せいけんは、黒い色をしていた。


 ボクの知っている限り、

去年までのこん選手の聖剣せいけんは、

一般的な聖剣せいけんと同じく、鉄や銀を思わせる色だったはずである。


 変聖期へんせいきで黒色になったことで変形するようになったのだとしたら、

金色になったボクの聖剣せいけんも、

同じように変形するという可能性は確かにありそうだ。




「ちょっと試してみます……」


 ボクは半球状の自分の聖剣せいけんを両手で目の前に構えると、


「(びろ……!)」

と、刀のような形状に変化するイメージで強く念じてみる。




 しかし何も起こらなかった。




 が現れたりする様子も、

刀身がびたりする様子もない。


「うーん……、ダメみたいですね……」


 ボクは首をかしげて言う。


「そうか……。

 可能性はありそうだと思ったんだが……」


 鬼頭きとう先輩せんぱいもアゴに手をあてて首をかしげた。


 と、


「は~い!

 そろそろ最後のあいさつするわよ~!

 みんなこっちに集まってちょうだ~い!」

と下井先生の声がかった。




 ボク達は小走りで下井先生と美安先生の前に集合し、

3年生達は下井先生と美安先生の横に並んで立つ。


 下井先生の指名で3年生が順番に最後のあいさつを済ませると、


 今度は新しい部長であるボクと

新しい副部長である頂さんのあいさつの番だ。


 ボクは、


「3年生は、これから高校受験という

 大きなかべがあって大変だと思いますが、

 剣魔けんま部でつちかった精神力や体力で、

 ぜひそのかべをぶち破ってください!

 そして、これから先も

 ボク達と過ごした日々を忘れないでください!

 短い間でしたが、ありがとうございました!」

緊張きんちょうしながらも何とかあいさつをして、

深々と頭を下げた。


 頂さんもあいさつを済ませると、最後に

1、2年生が寄せ書きをした色紙、

全員の集合写真の入ったフォトフレーム、

そして今年は頂さんの発案で花束を

3年生へのプレゼントとして贈呈ぞうていする。


 脇名わきな先輩せんぱいをはじめ、3年生の何人かは泣いていた。


 頂さんからプレゼントを受け取った脇名わきな先輩せんぱいは、


「頂ちゃーん……!ありがとー……!

 他のみんな頑張がんばってねー……!」

と最後に1、2年生の全員と握手あくしゅを交わしていた。

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