47回戦 お別れ会-1

『決勝戦の動画がチンクトゥンクに投稿とうこうされてますわね』


 寝入ねいる直前にりんからグループてのインランが送られてきた。


 『え?ボク達の?』


『はい

 ただコメントがれてますので観ないほうがよろしいかと』


 『そうなんだ』


 ボクはそう返信するが、そのままスマホを手に考えんだ。


「……」


 自分の動画が投稿とうこうされていると聞くと、

『観ないほうがよろしいかと』と言われても、

なんだか気になってしまう。


 ボクはベッドに横になりながらスマホでチンクトゥンクを開いて、

剣魔けんま』で検索けんさくをかけてみた。


 ボクが土の堤防ていぼう大爆発だいばくはつ破壊はかいした場面の動画がすぐにヒットする。


「(これか……)」


 燃え上がる聖剣せいけんを手に走るボク。


 そこに放たれるスパーキングスナイプ。


 その次の大爆発だいばくはつ


 そして最後にボクが前立選手の聖剣せいけんを折り、

顔面へと聖剣せいけんたたむところまで。


 観客席からスマホで撮影さつえいしたのであろう、やや遠目からの手ブレのある映像だ。


 ボバァン!という爆発音ばくはつおん以外は、ほとんど音声も聞き取れない。


 お世辞にもあまりクオリティが良い動画とは言えないが、

再生数はなんと10万を軽くえている。


「(かなり再生されてる……。

  でも、りんは『コメントがれてます』って言ってたな……)」


 ボクは少しなやんだが、おそおそるコメントらんを開いてみた。


『これ中学生の試合なの?』


『ひじりつばさかよ』


『あぶねー』


聖翼ひじりつばさ大爆発だいばくはつ


『なんかこの聖剣せいけん金色ぽくない?短いけど』


聖翼ひじりつばさ自爆じばく


審判しんぱんも止めろよな』


 などのコメントが書きまれている。


「(『ひじりつばさ』……?

  人の名前かな……?)」


 ボクはその中で目についた単語をマサグルで検索けんさくしてみた。


 ウィキペドアのページがヒットする。


聖翼ひじりつばさは、プロ剣士けんし。45歳。

 以前は剣魔けんまの公式戦にも頻繁ひんぱんに出場しており、

 プロレスでいうヒールのようなプレースタイルで一部から人気を博したが、

 ぞく聖翼ひじりつばさ大爆発だいばくはつと呼ばれる事故で大ケガを負って以降は出場しておらず、

 モンスターの討伐とうばつにおいても現在は第一線から退いている』

と書かれていた。


「(この人だ……。

  プロ剣士……。

  『聖翼ひじりつばさ大爆発だいばくはつ』って……?)」


 ボクがリンクになっている『聖翼ひじりつばさ大爆発だいばくはつ』の文字をタップすると、

 同じページの下の部分に詳細しょうさいが書かれていたらしく、画面がスライドする。


聖翼ひじりつばさ大爆発だいばくはつ(または聖翼ひじりつばさ自爆じばく

 第45回蕪等ぶらオープンのミックスダブルス4回戦において、

 ひじり射聖ショットしたレベル6相当の火属性の爆発ばくはつが、

 対戦相手の眞久まくり出した土壁つちかべはばまれた。

 この際、自身の射聖ショットに巻きまれる形になったひじりは、

 右腕みぎうでのヒジから先を失う大ケガを負った。

 当時、同様の技で対戦相手にケガを負わせて棄権きけんさせて勝ち進む

 というヒールのようなプレースタイルを特徴とくちょうとしていたひじりは、

 この一件でさらに批判を浴び、眞久まくからの謝罪を受けた際の記者会見にて

 『今後永久に剣魔けんまの試合には出場しない』

 と明言し、現在までその言葉通り公式戦に出場していない。

 この事故を機に、火属性の強力な爆発ばくはつり出す行為こういを、

 聖翼ひじりつばさ大爆発だいばくはつあるいは聖翼ひじりつばさ自爆じばく揶揄やゆすることが

 インターネットを中心に定着した』







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 翌日。


 たてる、絶、りんと共に部活に向かう道すがら、ボクは


「あの爆発ばくはつ技は今後封印ふういんしようかと思うんだ……」

と切り出した。


「ああ、兄貴も動画観たのか?

 気にすることないって」


 たてるすでに動画を観ていたらしく、擁護ようごしてくれる。


 だがりんは、


「いえ、ワタクシも封印ふういんするほうに賛成ですわ」

とボクに同意し、


「あの爆発ばくはつは危険過ぎます」

と続けた。


 ボクもそれにうなずき、


「あの時は何と言うか……、前立選手に対してボクもかなりおこってたんだ……。

 正直に言うと、顔面に聖剣せいけんが当たった時は少し……、

 いや……、かなりスカッとしたしね……。

 でも、あの爆発ばくはつにもし巻きまれていたら、

 ケガするだけじゃなくて最悪死んでしまっても

 おかしくなかったと思うんだ……」


 ボクは歩きながら少しうつむいて地面をながめる。


 あの巨大きょだいほのお合体ジョイントされた聖剣せいけんを見た時、

ボクの中にはそのほのおと同じ、

メラメラと燃えるいかりの気持ちが強くき立っていた。


 絶のかたきを討つという大義名分をかかげて、

堤防ていぼうばかりか、

あわよくば前立選手にもダメージがあればいいと考えていたのだ。


「やられたらやり返すのは簡単かもしれない……。

 けれど、絶のケガは治癒ちゆで無事に治ってたわけだし……。

 剣魔けんまは、あくまでスポーツだからね……。

 殺し合いじゃないんだ……」


 ボクは地面のほうを見つめたまま続ける。


「まあ……、障害が残ったり死んだりしたら、

 剣魔けんまのせいとはいえ警察が出てきたりとか

 裁判起こされたりとかするのかもな……。

 よく分かんないけど……」


 たてるも考えむように声のトーンと視線を下げた。


「うん……。

 だから、あの爆発ばくはつ技は封印ふういんするよ……」


 ボクは言いながら絶とりんのほうを向く。


「はい、それがよろしいかと」


 りんがうなずいた。


「ボクもムロくんの考えを尊重するよ。

 でも……」


 絶がボクの目をジッと見つめる。


「でも?」


 ボクも絶を見つめ返した。


「でも、ムロくんとりんが勝った時、

 ボクもスカッとしたんだ。

 だからこれだけは言わせて」


 絶がニッと笑った。


かたきを討ってくれて、ありがとう」







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 ボク、たてる、絶が男子部室に入り、


「おはようございます!」

と大声であいさつをする。


 実は今日は、引退することになった3年生が参加する最後の部活なのだ。


 正甲せいこう中の剣魔けんま部では『お別れ会』としょうして、

3年生が参加する最後の部活の日に、

引退する3年生と今後部活を引っ張っていくことになる2年生が試合をしたり、

1、2年生が寄せ書きした色紙と

最後の大会の日に撮影さつえいした集合写真をセットしたフォトフレームを

3年生にプレゼントしたりするのが習わしとなっている。


「おう……、おはよう……」


「おはようございます……」


 だが、ボク達のあいさつに反応してくれたのは、

部室のおくのほうでイスに座っていた鬼頭きとう先輩せんぱいと一部の1年生ぐらいだった。


 他の部員達も鬼頭きとう先輩せんぱいみんな着替きがえもせずに

各々の持つスマホの画面を食い入るように見つめている。


「どうかしたの?」


 ボクはそんな様子が気になって、

入り口の近くに立っていた馬薗まぞのに声をかけた。


「お前ら……、もしかしてこの動画まだ観てないのか……?」


 馬薗まぞのはボク、たてる、絶のほうをり返ると、

黒い金属製フレームのメガネの真ん中を人差し指でクイッと上げて、

持っているスマホを軽く持ち上げた。


「ああ……、それってボクとりんの決勝戦の動画のこと……?」


 ボクは、


「(参ったな……、

  確かにすごい再生数だったけど……)」

と思い、頭をかいた。


 しかし、馬薗まぞの


「いや、そっちはオレら観戦してたからな……。

 それじゃなくてこれだよ、これ。ヤベーぞ」

と言い、

自分のスマホをくるりと回して画面をこちらに見せてくる。


 チンクトゥンクに投稿とうこうされた剣魔けんまの試合の動画ではあるようだが、

そこに映し出されているのはボクでもりんでもない。


 あざやかなサクランボを思わせるカラーのプロテクターに

身を包んだ選手である。


 そしてボクの目は、その選手が手に持っているものに釘付くぎづけになった。


「黒い……聖剣せいけん……?」

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