46回戦 県中総体-10

 ボクとりんはスタンバイエリアに入る。


 ボクは聖剣せいけんかず、

再びジリ……と足をみしめた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 ボクとりんななめに走り出した。


 ボクとりんがあと少しで合体ジョイントできるという位置で、

バチバチッ!と堤防ていぼうの向こうで電気属性の音が鳴る。


 ビュッ!とボクは聖剣せいけんいた。


 前立選手と鋤員すきいん選手の合体ジョイントからワンテンポおくれて、

ボクとりんが接近する。


 だが、ボクもりんもそのまま走りけることはせず、

たがいに減速して、並ぶように立った。


りん!お願い!」


 ボクがうと、


「はい!」


 りんがうなずいて、ボクの聖剣せいけんに両手をかざす。




 ゴ ゴ オ ォ !




 合体ジョイントできたことにおどろきながらも、ボクは


「やった……!

 りんは、ベースラインまで下がってて!」

さけび、

できる限りの速度で堤防ていぼうに向かって走り出した。




 バッ!と堤防ていぼうの上にある土壁つちかべの間から、

聖剣せいけん右脇腹みぎわきばらに引きつけた前立選手が現れる。


 だが、前立選手はその構えた姿勢のままボクを見て、


「……!?

 なんだそりゃぁ!?」

驚愕きょうがくの声を上げた。


「どうしたの?」


 鋤員すきいん選手もニュッと頭を出す。


 そして、


「なに……あれ……!?」

と目を見開いた。




 ボクの聖剣せいけんには、とぐろを巻いた大蛇だいじゃのような

巨大きょだいほのおまとわりついている。


 聖剣せいけんを持っているボクの両手のひらにも、

ゴム手袋てぶくろしにその熱が伝わって、

持っているのがやっとなほどだ。


 りんに、

通常なら3から4ブロック程度しか魔力まりょく挿入インサートしないところを、

10ブロックも挿入インサートしてもらったのである。


 その激しく燃え上がる聖剣せいけんかさのように、

あるいはたてのように構えた姿勢で、

ボクは堤防ていぼうに向かって走っているのだ。


 巨大きよだいほのおかさのせいで、

ボクからは向こう側がよく見えていないが、

向こう側からもボクのこしから上はよく見えていないはずである。


「(この魔力まりょくを一気に射聖ショットすれば、

  レベル12の火属性魔法まほう匹敵ひってきする大爆発だいばくはつが起こせるはず……!

  それだけの威力いりょくなら、きっとあの堤防ていぼうだって破壊はかいできる……!)」


 以前にも説明した通り、聖剣せいけん射聖ショットというものは、

込められた魔力まりょくよりさらに1、2レベル上の魔法まほうに相当する威力いりょく

ね上がるのだ。


 ボコン!ボコン!

土弾つちだんが飛んで来た。


だが、土弾つちだんはボクを飛びして後方にボコ!ボコ!と落下する。


「あ、あんた!

 早く射聖ショットしなさいよ!」


 土弾つちだんを外した鋤員すきいん選手があわてた様子で言った。


「わ、分かってるよぉ!

 急かすんじゃねぇ!」


 前立選手が怒鳴どなり、

ビュッ!と目にも止まらぬ速さできをり出す。


 バチン!

とスパーキングスナイプは、

ボクが構えている聖剣せいけんの右側面に命中した。


「くっそ!?

 外したぁ!?」


「バカ!

 あんた普段ふだんから考えなしにバカスカ射聖ショットし過ぎなのよ!」


「うるせぇ!

 げんぞぉ!」


バッ!

と前立選手と鋤員すきいん選手が堤防ていぼうの向こうに姿を消した。


 それとほぼ同時にボクが、堤防ていぼうの目の前に到達とうたつする。


 だが、


「うっ……!?」


 カクンと両足の力がけてしまって、ボクはバランスをくずした。


「(もう身体が……!?

  でも……、あと少しなんだ……!)」


 ボクは、転びそうになった状態から、

何とか片ヒザを立てたような体勢になりつつ、

できるだけ堤防ていぼうの中心に向けて聖剣せいけんき出す。


そして大爆発だいばくはつをイメージして思いっ切り射聖ショットした。


き飛べえええ……!」




 ボ バ ァ ン ッ !




 ボクの聖剣せいけんを中心に、

堤防ていぼう爆発ばくはつごと一瞬いっしゅん広がるように持ち上がったかと思うと、

ザラザラザラーッ!とくずれ落ちる。


 くずれた場所からはブワッ!と土煙つちけむりい上がった。


 両サイドの部分はわずかに残ったが、堤防ていぼう破壊はかいに成功したのである。


「やった……!」


 ボクは堤防ていぼうを丸ごとき飛ばすようなイメージでいたが、

実際は土が重すぎて衝撃しょうげきくずれるだけになったらしい。


 それでも破壊はかいしたことに変わりはない。


 しゃがんだ体勢だったからか、

ななめ上方向に射聖ショットした形になったからか、

ものすごい爆発ばくはつの反動で身体全体が後ろに

ズリズリー!と下がりはしたものの、ボクの身体のほうも無傷だ。


 しかし、ボクがそのしゃがんだ体勢から立ち上がろうとした、

まさにその時である。


 バチバチッ!

土煙つちけむりの向こうで、

爆発ばくはつ音の強烈きょうれつ余韻よいんが残る耳にも

はっきりと聞こえる音がした。


 次の瞬間しゅんかん、バッ!と土煙つちけむりから人影ひとかげがこちらにんで来る。


 聖剣せいけん右脇腹みぎわきばらに引きつけるようにして構えた、前立選手だ。


 その聖剣せいけんには、バチバチとすでに電気属性が合体ジョイントされている。


「(しまった……!

  堤防ていぼうこわした後の反撃はんげきまでは考えてなかった……!)」


 だが、けようにも、

ボクの両足はふくらはぎまでくずれた堤防ていぼうの土にまった状態だ。


「トドメしてやんぜぇっ!」


 手をばせば届きそうな距離きょりから、

前立選手がシュバッ!と聖剣せいけんをボクの顔面に向けてき出す。


「ああああっ!」


 同時にボクもさけびながら、

その場で立ち上がるようにして、

聖剣せいけんを全力でき上げた。


 ガキィン!ボッキン!


「アッー……!?」




 メ キ ィ ッ !




 ボクの聖剣せいけんとぶつかった前立選手の聖剣せいけん

真ん中から真っ二つに折れ飛んだ。


 そしてボクの聖剣せいけんは、そのまま激しく命中した。


 前立選手の顔面に。


 その勢いでグルン!と前立選手の身体が、

まるで大きくバク転するかのようにき飛ぶ。


 ドサッ!


「ぐぇっ……!」


 そのまま前立選手は、後頭部から地面にたおんだ。


 前立選手の頭のプロテクターの顔面部分も、見事にへこんでしまった。


 折れた前立選手の聖剣せいけんの先っちょは、

くずれた堤防ていぼうの向こうまでビュン!と飛んでいき、

カラン!カララン!と落下した直後にフワッとけむりのように消え去る。


 前立選手の手ににぎられていた残りの聖剣せいけんもシュン!となえてしまった。


 ピ、ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ウォ、ウォークオーバー!ウォンバイ木石、本能!」

と試合結果がコールされる。


聖剣せいけんが折れたことで前立選手と鋤員すきいん選手のペアは棄権きけんとなり、

ボクとりんのペアの勝利だ。


「す、すみません!大丈夫だいじょうぶですか!?」


「ちょっと!?大丈夫だいじょうぶ!?」


 ボクと鋤員すきいん選手が言いながら、前立選手にけ寄った。


 ジョロ……ジョロロロ……。


「あっ……」


 ボクと鋤員すきいん選手が同時に口に出す。


 ピクピクと痙攣けいれんして気を失ったらしい前立選手の下半身を中心に、

アースには徐々じょじょに、水たまりが広がっていった。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







「どういうことなの~?もう~」


 スマホの向こうから下井先生が、

プリプリとおこった様子で口に出す。


「すみません……。

 昨日張り切りすぎちゃったみたいで朝起きたらこうなってて……、

 痛たたた……」


 ボクは言いながら無意識に頭を下げようとして、

全身の痛みにビクンビクンと痙攣けいれんし、顔をゆがめた。


 そう。


 変聖期へんせいきで重くなった聖剣せいけんを丸一日り続けたからか、

あるいは決勝戦でスパーキングスナイプを受け過ぎたからか、

ボクの全身は激しい筋肉痛に見舞みまわれてしまったのだ。


 そして、そんな全く動けないボクを朝から発見した両親は、

すっかり気が動転してしまい、

ボクはパジャマ姿のまま家族総出で救急車に乗せられて、

病院まで運ばれてきたところなのである。


 ボクは

『ただの筋肉痛だから少し治癒ちゆしてもらえば治る』と主張しているのだが、

両親は脳もふくめた精密検査を受けさせると言って聞かないので、

その前にたてるのスマホを借りて、下井先生に連絡れんらくをしたというわけだ。


 昨日、


「全国大会に出場できる」

という話をした時は、


夢路ゆめみちが!?

 たてるじゃなく!?」


おどろいていた両親が、


「電気属性使いと決勝で戦って、そのダメージのせいか鼻血が出た」


という話をした時には、

何だか深刻そうに顔を見合わせていた時点で

気づくべきだった。


「まあでも~、いくらあなた達が棄権きけんいやがったとはいえ~、

 私が試合を止めなかったことが一番の問題だからね~……。

 実は~、さっき絶クンのご両親にも謝ったところなのよ~……」


 下井先生が少し声のトーンを落とす。


「絶……?

 退院したんじゃなかったんですか……?」


 ボクはたずねた。


 ボクとりんが決勝戦を終えたとき、

絶は両手の火傷の治療ちりょうも終えてすでに試合会場にもどってきていて、

頂さんと共に表彰式ひょうしょうしきを見てくれていたのである。


「それがね~、

 昨日は救急だったから近くの病院だったでしょう~?

 絶クンのご両親が~、

 『大きい病院で念のため精密検査を受けさせたい』って~。

 だから今日は多分試合に来れないって連絡れんらくがあったの~。

 電気属性はやっぱりダメージが大きいって言われてるからね~。

 かみなりだって当たったら亡くなる人もいるわけだし~。

 親としては心配するのは当然よ~」


 下井先生が答える。


「あー……、なるほど……。

 りんのほうは会場に来てるんですか……?」


 ボクは、絶がいないことで団体戦のほうが心配になってたずねた。


りんちゃんは来てくれてるわよ~。

 だから倫ちゃんと夢路ゆめみちクンと組ませて~、

 代わりに鬼頭きとうクンと脇名わきなちゃんにシングルス出てもらおうかな~。

 なんて考えてたんだけど~……」


 下井先生が言う。


「(ボクとりんのペアが昨日優勝したから、

  りんのシングルスか、ボクとりんのダブルスならほぼ確実に1勝できる。

  それならシングルスの絶の穴を補欠のだれかでめるより、

  ダブルスにボクとりんが出て、

  レギュラーの鬼頭きとう先輩せんぱい脇名わきな先輩せんぱいをシングルスに回したほうが

  勝率が高そうというわけか……)」


 ボクは下井先生の話を聞いてそんな考えをめぐらすが、


「まあ~、それも考え直しね~。フフフ~……。

 あなた達は気にせずに休んじゃってもいいからね~?」


 下井先生が少し笑う。


「そんな!?

 病院が終わったらけつけますよ!」


 ボクは語気を強めて言う。


 3年生を差し置いて優勝してしまった自分が言うのもなんだが、

一昨日のシングルスでも昨日のミックスダブルスでも、

全国大会の出場権を得られた3年生は残念ながらいなかった。


 団体戦でも負けてしまうと、

正甲せいこう中の3年生は、今日で全員引退ということになってしまうのだ。


「そうしてくれたらうれしいけどね~……。

 とりあえず~、ご両親のどちらかにお電話代わってもらえる~?

 昨日のこと謝罪したいからって伝えて~?」


 下井先生が言うので、

ボクはスマホから耳をはなし、


「父さん母さん……、下井先生なんだけど……、

 『昨日のこと謝罪したい』って……、その……」

と父さんと母さんに呼びかけた。


 それを聞いた父さんが、ボクからスマホを受け取って、


「もしもし……。ああ、どうも……。

 いえいえ、ウチのバカ息子が勝手にやったことですから……」


 とか


「本当に先生にもいつもご迷惑めいわくをおけして申し訳ないぐらいで……」


 とか下井先生と話し始めた。




 精密検査も問題なく終えて、

結局ただの筋肉痛の治癒ちゆもしてもらったボクが

たてると共に試合会場に着いたのは、

お昼をすっかり回ってからのことだった。


 絶、そしてボクを欠いた正甲せいこう中の団体戦は、

残念ながら3回戦で敗退してしまっていた。

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