45回戦 県中総体-9

 試合はボクの失点、

つまり1ワンゲームストゥ0ゼロで前立選手と鋤員すきいん選手がリードした状態の

0-0ゼロオールから再開である。


 ボクとりんはスタンバイエリアに入った。


 堤防ていぼうのような土壁つちかべで見えないが、前立選手と鋤員すきいん選手も同様だろう。


 ボクは聖剣せいけんくか否か、一瞬いっしゅんだけ考えをめぐらせる。


「(堤防ていぼうしなら、仮に土属性をたまとしてたれても当てるのは難しいはずだ……!

  ここは防御ぼうぎょよりもやはり、

  一瞬いっしゅんでも早くりんと合流することを優先しなければ……!)」


 そう決心すると、ボクはそのまま聖剣せいけんかず、

代わりにジリ……と足をみしめた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 ボクとりんななめに走り出した。


 前立選手と鋤員すきいん選手のほうは、

おそらくまたベースラインに沿って走り、

合体ジョイントしてから堤防ていぼうの上に出てくるだろう。


 すかさずりんが、パン!と上空に火球を発射した。


 遅降弾ラググレネードボンバーだ。


 ねらいは向こうのベースラインの中央付近である。


 だが当たる確率は低いだろう。


 ボクとりんはそのまま走り寄る。


 りん交錯こうさくする直前、ボクは聖剣せいけんをビュッ!といた。


 ズババッ!

とこちらが合体ジョイントすると、ほぼ同時に堤防ていぼうの向こうでも

バチバチッ!

と電気属性の音がした。


りん!真ん中辺りだ!

 ボクからあんまりはなれずに遅降弾ラググレネードボンバーねらって!」


 ボクは言いながら、聖剣せいけんを顔の前に構えて少し前進する。


「はい!」


 りんは言いながらボクと正常位置になると、

パン!と再び上空に火球を発射した。


 ボクは頭の中で、


「(ここまでは5秒かかったかどうかというところか……!

  10……、9……!)」

とカウントダウンを始めながら堤防ていぼうの上をにらむように見つめる。




 格闘技かくとうぎのような種目によく存在するルールだが、

積極的に攻撃こうげきをしない態度は

『すみやかな試合運用の妨害ぼうがい』、『逃避行為とうひこうい』などと見なされ、

剣魔けんまにおいても場合によっては失点としてあつかわれたりする。


 剣魔けんまにおけるその判断基準が、

ルール上『およそ15秒間』と定義されているのだ。


 特に、こんな風に土属性で作った地形にかくれるプレイは、

FPS一人称視点シューティングゲームの用語になぞらえて

ぞくに『キャンパー』や『芋虫いもむし』などと呼ばれ、

審判しんぱんからも目をつけられやすい。


 つまり、前立選手と鋤員すきいん選手も、

15秒以上堤防ていぼうから姿を現さなければ、

警告や失点を受ける可能性が高いのだ。




「(6……、5……!)」


 ボクがそこまでカウントしたところで、

スッ……と堤防ていぼうから頭のようなものが1つ飛び出す。


「(来る……!?)」


 ボクはギュッと聖剣せいけんにぎる両手に力をめた。


 頭は、さらにニュッと首の辺りまで出てくる。


 鋤員すきいん選手だ。


 次の瞬間しゅんかん

ボコン!とたまが発射された。


 放物線をえがいて飛んで来る茶色いそれは、土弾つちだんだ。


 ボクは咄嗟とっさ


「左!」

さけびながらズザッ!とサイドステップして回避かいひを行う。


「はい!」


 りんもそれに返事をすると、

同じくズザッ!とサイドステップしつつ、

パボン!と加速する火球を発射した。


 ズゥン!ズゥン!


「!」


 なんと鋤員すきいん選手が、

人が1人かくれられるぐらいのはば土壁つちかべを、

さらに2枚も堤防ていぼうの上に作り出した。


 2枚の土壁つちかべは、そのはばと同じぐらいの間隔かんかくが空いて設置されているが、

火球はボッ!とそれに命中してはばまれてしまう。


 火属性は威力いりょくが出やすいとはいえ、

土壁つちかべ相手ではわずかにボロボロとその命中した表面をくずした程度だ。


「お城の狭間さまのような物を作ってくるとは……。

 あの戦法に慣れてるようですわね……」


 りんがボクの背後で苦々しげに言う。


「(『さま』……。

  あれのことか……」


 ボクは2枚の土壁つちかべを見つめながら思った。



 

 確かに、昔のお城なんかで

かべの一部がへこんだような形や窓のような形になっているのを見たことがある。


 あれで防御ぼうぎょしながら、弓や鉄砲てっぽう

あるいはまさに今のように魔法まほう射聖ショットで、

射手が敵をねらつための構造なのだろう。




 と、

ふいにスッと上半身が土壁つちかべの間に姿を現した。


 右脇腹みぎわきばら聖剣せいけんを引きつけた前立選手だ。


「!」


 ボクはすかさず、シュババッ!とショットガンを発射する。


 それに反応して、バッ!と前立選手はこちらから見て左側の土壁つちかべに身をかくした。


 ショットガンの片方の真空は外れ、

もう片方はザク!と土壁つちかべはばまれてしまう。


 バッ!と前立選手が

今度は左側の土壁つちかべのさらに左側から上半身を出した。


 同時にビュッ!と目にも止まらぬ速さできをり出す。


 バチィッ!


「ぐああああ!」


 ボクの左肩ひだりかたの辺りにスパーキングスナイプが命中して、

ボクはのけ反り、そのままガクッ!と右ヒザをつく。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされた。


「ナイスショットー!」


「ヘヘヘ……!あと2ポイントー!」


 鋤員すきいん選手と前立選手は

堤防ていぼうの上でパァン!とハイタッチを交わす。


「ドンマイ!ドンマイ!木石!

 行け!行け!本能!」

とウチの剣魔けんま部の面々の手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来た。


「(ベースライン際からたれていたさっきまでとはちがう……!

  近すぎる……!

  あの堤防ていぼうの上からたれたら、

  この重い聖剣せいけんじゃガードが間に合わない……!)」


 ビキビキと痛む全身にボクは顔をゆがめる。


「ムロさん!?大丈夫だいじょうぶですか!?」


 りんがまた泣きそうな声で言いながらけ寄ってきた。


「まだやれるよ……!」


 ボクは言いながら、頭をブンブンり、何とか立ち上がる。


「でも……、かなりフラついてますわよ……!?

 さすがにもう……!」


 りん覚悟かくごが、らぎかけているようだ。


 だがボクは、


「次のプレイであの堤防ていぼうこわせたら、まだチャンスはあるさ……!」

堤防ていぼうとその上の土壁つちかべをにらむように見つめながら言った。


「あれをですか……!?

 一体どうやって……!?」


 りんおどろいてたずねる。


 ボクは改めて2枚の土壁つちかべの、

りんの火球と自分の真空が命中した位置をそれぞれ見る。


 火球の命中した位置は表面が丸くけずれたように、

真空が命中した位置は表面にわずかに切れ目が入ったような状態だ。


 それを確認するとボクは、

先ほど思いついたばかりの作戦とも呼べないその作戦をりんに耳打ちする。




「それは……!」


 りんは口元を手で押さえた。


「そうだね……。

 最悪、棄権きけんになっちゃうかもしれない……」


 ボクは軽くうなずく。


 棄権きけんしないと覚悟かくごを決めたばかりなのに、おかしな作戦だ。


「それもありますが……、危ないほうもでは……?」


 りんが言いよどむ。


 その通りだ。


 たとえ成功できたとしても、その後が、

堤防ていぼうこわす時が危険かもしれない。


 だがボクは、


「きっとできるから……!」

と力強く言いながらうなずく。


「承知しましたわ……。

 ムロさんは折れませんものね……。

 オホホ……」


 りんも、少しだけ笑いながらうなずいた。


 そう。


 ボクの意志は、すっごく固いのだ。

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