32回戦 市中総体-3

 ボクとりん、複本選手と蓋穴ふたあな選手は、ダダダ……!と走り寄る。


 ズババッ!


 メラメラッ!メラメラッ!


 おたがい、合体ジョイント完了かんりょうだ。


 バッ!と蓋穴ふたあな選手は、複本選手と正常位置へ、

複本選手のすぐ背後にかくれるような位置へ移動する。




 ボク達が観戦していた試合でも、

全てのポイントで彼女かのじょは同じように動いていた。


 複本選手と合体ジョイントするだけして、

攻撃こうげき防御ぼうぎょも全て複本選手に任せているのだ。


おそらく、

 聖剣せいけん2本分の合体ジョイントをするだけでそれなりに魔力まりょく消耗しょうもうしてしまうから、

 他の攻撃こうげきに回せるほど魔力まりょくの器量に余裕よゆうが無いのだろう』

というのがボク達の予想だった。


 そんな戦法でも勝ち上がれてしまうほど、

複本選手の2本の聖剣せいけんによる攻撃こうげき防御ぼうぎょ圧倒的あっとうてきなのだとも言える。




 ダダダ……!とボクはりんと松葉位置になりながら、

複本選手に向けて走り出す。


 複本選手は、

右手の聖剣せいけんをやや上に、

左手の聖剣せいけんをやや下に構え、

蓋穴ふたあな選手に合わせてなのか、小走りで前進してくる。


 ボクが先にアースのセンターラインに到達とうたつすると、

パン!パン!とりんが両手から火球の魔法まほうを連射した。


「右だ!」

と叫びながら、

複本選手がバッ!と火球を回避かいひするようにボクから見て左手側へ、

風上側へサイドステップし、

それに一瞬いっしゅんおくれて後ろの蓋穴ふたあな選手もバッ!とサイドステップする。


 ビュッ!とボクがその回避かいひした先へ向けて聖剣せいけんを縦にり下ろす。


 複本選手の左手の聖剣せいけんがバッ!と反応する。


 だが、ボクのこのスイングはフェイントだ。


 シュバッ!とボクはり下ろした聖剣せいけんから、

タイミングをずらして複本選手の上半身に向けて射聖ショットする。


「(普通ふつうの相手なら、これで決まる……!)」


 ボクは射聖ショットした真空弾道だんどうを目で追いながら思った。


 複本選手の左手の聖剣せいけんも反応しきれていない。


 だが、

ビュッ!バシン!と複本選手は、

あっさり右手の聖剣せいけんのほうでボクの射聖ショットはじいた。


 そしてすぐさまダッ!とボクのほうへ前進すると、

ビュッ!ビュッ!とき出した両手の聖剣せいけんから、

ババン!と同時に射聖ショットする。


「くっ……!」


 ボクはあわてて聖剣せいけんもどして、

ビュッ!バシン!と上半身に飛んで来た片方の射聖ショットはじくが、

ボッ!ともう片方の射聖ショット回避かいひしきれず、

左ヒザの辺りのプロテクターに受けてしまった。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされる。


「ナイスショットー!」


「センキュー!」


 蓋穴ふたあな選手と複本選手が、言いながらパァン!とハイタッチを交わした。


「ドンマイ!ドンマイ!木石!

 行け!行け!本能!」

とウチの剣魔けんま部の面々の手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来る。


「ドンマイですわ!」


「ごめん!」

りんとボクも言葉を交わした。




 ボクとりん、複本選手と蓋穴ふたあな選手が、

それぞれスタンバイエリアに入ると、

ピー!と再び審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 ボクとりん、複本選手と蓋穴ふたあな選手は、ダダダ……!と走り出す。


 ズババッ!


 メラメラッ!メラメラッ!


 おたがい、合体ジョイント完了かんりょうだ。


 バッ!と蓋穴ふたあな選手が、再び複本選手のすぐ背後にかくれる。


 ボクとりんは松葉位置になりながら、複本選手に向けて走り出す。


 ボクが先にアースのセンターラインに到達とうたつすると、

りんがパン!パン!と火球を連射した。


 ボクもすぐさま、それに合わせて聖剣せいけんき出し、

シュバッ!と射聖ショットする。


 3つのたまが複本選手にせまった。


 ビュッ!バシン!

ビュッ!バシン!バン!

ビュッ!バシン!バン!


 なんと複本選手は、

3つのたまを両手の聖剣せいけんで順番にたたき落としながら、

ボクに2発の射聖ショットを返してきた。


「なっ……!?うぅっ……!」


 ボクは聖剣せいけんり下ろした体勢から、

バッ!とその場にしゃがみんで、何とかそれを回避かいひする。


 バッ!バッ!

メラメラッ!メラメラッ!

ビュッ!ビュッ!

ババン!


 しゃがみんでいるボクに、さらに2発の射聖ショットが飛んで来た。


 複本選手が最初の射聖ショットの直後に大きく両手の聖剣せいけんりかぶり、

すぐ背後にいる蓋穴ふたあな選手がそれにすかさず合体ジョイントしたのだ。


「うわっ……!?」


 ボクは右半身に飛んで来た射聖ショットには、

何とかビュッ!バシン!と聖剣せいけんをぶつけるが、

左半身に飛んで来た射聖ショットに対応できず、

ボッ!と再び左ヒザの辺りのプロテクターに直撃ちょくげきを受ける。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


2ツー-0ゼロ!」

とスコアがコールされた。


「ナイスショットー!」


「センキュー!」


 蓋穴ふたあな選手と複本選手が、言いながらパァン!とハイタッチを交わす。


「ドンマイ!ドンマイ!木石!

 行け!行け!本能!」

とウチの剣魔けんま部の面々の手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来た。


大丈夫だいじょうぶですか……?」


「うん……。大丈夫だいじょうぶ……」


 しゃがみんだままだったボクにりんが左手を差しべてくれる。


 ボクはその手を左手で取って立ち上がり、


「いやらしいね……」

と思わず口に出す。


「(至近距離しきんきょりからの2箇所かしょ同時射聖ショットがこんなに対応しにくいとは……。

  なんていやらしい攻撃こうげきだろう……。

  しかもそれがすぐに、リロードされるように次々と飛んで来るなんて……)」


 ボクは複本選手の2本の聖剣せいけんを見つめる。


 と、

りんがボクのほうに顔を近づけて来て、


おくの手を使う時が来たようですわね……」

と耳打ちした。


 ボクは身を固くする。


「そうだね……。

 1ゲーム目がすでに追いまれちゃったし、出ししみはしていられない……。

 もうボクの秘密兵器を……」

とボクは言いかけたが、りん


「いいえ……。

 次の2ポイントは、ワタクシがすきを作ります……。

 ですから、普通ふつう射聖ショットめてくださいませ……」

と再びボクに耳打ちした。


すきを……?

 まだ少し風が強いから、遅降弾ラググレネードボンバーは使えないんじゃ……?」


 ボクは、りんの言葉に思わず聞き返すが、


「ワタクシにも、最近できるようになったおくの手があるんですのよ……。

 ホホホ……」

りんは笑った。




 ボクとりん、複本選手と蓋穴ふたあな選手が、

それぞれスタンバイエリアに入ると、

ピー!と再び審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 ボクとりん、複本選手と蓋穴ふたあな選手は、ダダダ……!と走り出す。


 ズババッ!


 メラメラッ!メラメラッ!


 おたがい、合体ジョイント完了かんりょうだ。


 バッ!と蓋穴ふたあな選手が、再び複本選手のすぐ背後にかくれる。


 ボクとりんは松葉位置になりながら、複本選手に向けて走り出す。


 と、

ボクが先にアースのセンターラインに到達とうたつすると、

ダンッ!とりんのほうから大きな足音がした。


「(えっ……!?)」


 ボクは音におどろいて、チラリとりんのほうを横目で見る。


 りんが、まるでチアガールのように、

両手両足をばした姿勢でジャンプしていた。


 次の瞬間しゅんかん

パパパパン!と、

なんとその両手両足から同時に火球の魔法まほうが発射された。


「なっ……!?」


 ボク、複本選手、蓋穴ふたあな選手が、同時に口に出す。


「オオ……!?」

と観客席からもどよめきが上がった。


 4つの火球はバラバラの軌道きどうながら、全て複本選手のほうへ向かって行く。


「くっ……!」


 反応のおくれた複本選手が、バッ!と2本の聖剣せいけんをクロスさせて、

やや身をせたガードの姿勢をとった。


『自分が回避かいひできても、

 蓋穴ふたあな選手がとても回避かいひできない』

と判断したのだろう。


「(今だ……!)」


 ボクは、4つの火球に合わせて、

シュバッ!と複本選手が聖剣せいけんを構えていない下半身のほうへ射聖ショットする。


 ボボボボ!ビシュ!


 複本選手は、3つの火球は何とか聖剣せいけんでのガードに成功したが、

1つの火球とボクの射聖ショットをプロテクターに受けた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ワ、1ワン-2ツー!」

とスコアがコールされる。


 観客席からは、ザワザワどよどよとした反応の後、


「いいぞ!いいぞ!本能!

 行け!行け!木石!

 もう1本!」

とウチの剣魔けんま部の面々の手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来た。


「すごいよ!四点同時攻撃クアドラプルアタック!?」

とボクは、りんとパァン!と左手でハイタッチを交わしながらたずねる。


「そうですわ!やっとモノにできましたのよ!」


 りんは言いながら、こしに両手を当てて胸を張ったポーズを取る。




 『四点同時攻撃クアドラプルアタック』とは、

クパーという魔法まほう使いのプロ選手が得意としている必殺技の名前である。


 先ほどのりんのように、

ジャンプして両手両足から同時に4つの魔法まほうを発射するのだ。


 魔力まりょくの放出は全身どこからでもできるので、

理論上は両手以外からも魔法まほうの発動が可能である。


 可能ではあるのだが、

放出する魔力まりょくの量や使う魔法まほうが正確にイメージできないと、

うまく発動しなかったりねらい通りに飛ばなかったりするわけなので、

3つ以上同時に魔法まほうを発動するまでは何とかできたとしても、

とても実戦に投入できる威力いりょくや命中精度にはならないはずだ。


 そんじょそこらの中学生にはマネできない、

ちょう高等テクニックである。




「……ですが、レベル2の火球4つで8ブロックも器量を消耗しょうもうしますから、

 使えても残り2回までですわ……。

 それ以上は、この試合中に魔力まりょく切れになってしまうおそれがあるかと……」


 りんがボクに顔を近づけて耳打ちする。


「!

 分かった……!」


 ボクは大きくうなずく。


 魔力まりょく切れになれば当然、それ以上魔法まほうの使用や合体ジョイントはできなくなるのだ。


 複本選手と蓋穴ふたあな選手のほうを見ると、

りんのほうを見ながら何やら小声でやり取りしている。


「もし、蓋穴ふたあな選手が複本選手からはなれるようであれば、

 蓋穴ふたあな選手のほうをねらいますわ……」


 りんがその様子を見ながら、再びボクに耳打ちした。


「ラジャー……!」


 ボクも、再び大きくうなずく。

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