31回戦 市中総体-2

 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ゲームセット!ウォンバイ木石、本能!2ツーゲームストゥ0ゼロ!」

と試合結果がコールされる。


「ありがとうございました」

と、頭のプロテクターを脱いだボクとりん、対戦相手だっただく選手と代手選手は、

アースの真ん中の『*』マークの辺りでそれぞれ握手あくしゅを交わした。


 ボクとりんのペアが5回戦を勝ち、ベスト16に進出したところである。


 天気はどんよりとしたくもりで、風が強い。


 中総体2日目の今日は、ミックスダブルスの試合が行われている。


 たてると音呼くんのペアのほうは、3回戦敗退。


 絶と頂さんのペアのほうは、ボク達と同じく5回戦の試合中のはずだ。


「ここまでは作戦通りですわね……」


 第9アースを出て、絶と頂さんが試合中の第1アースに共に向かいながら、

りんがボクに言った。


「うん……。

 2ゲーム目はかなり危なかったけどね……。

 りんのおかげでホントに助かったよ……」


 ボクはコクリとうなずき、

先ほどの試合でピンチにハマった場面を思い返しながら言う。


「勝つためですから……。お気になさらず……」


 りんもコクリとうなずいた。


「(そう……。

  それもこれも、次の6回戦のための布石だ……)」


 ボクは、この試合会場のどこかにいるであろう次の対戦相手、

複本選手と蓋穴ふたあな選手の姿を脳裏に思いかべながら歯をめる。




 ボクとりんの予想は的中していた。


 複本選手と蓋穴ふたあな選手のペアの試合を観戦したところ、

蓋穴ふたあな選手の火属性の魔法まほうをその2本の聖剣せいけん合体ジョイントされた複本選手は、

1本ずつ別々に射聖ショットしたり、2本同時に射聖ショットしたりと

自在にその射聖ショットをコントロールしていたのだ。


 つまり、2連射聖ショット

ボクの必殺技であるショットガンと同じことが、

複本選手にもできるのである。


『ボクが持っているショットガンというアドバンテージが、

 複本選手相手では失われる』


 そう危惧きぐしたボクとりんは、

その複本選手と蓋穴ふたあな選手のミックスダブルスの試合を観戦する前から、

ある作戦を実行に移したというわけだ。


 そう。


 今大会でのショットガンの使用を封印ふういんしたのである。


『まだ乙気合おつきあい中との練習試合でしか見せたことがない

 ボクのショットガンという武器を封印ふういんすれば、

 それを知らない複本選手と蓋穴ふたあな選手を、出しけるかもしれない』

と、ボクとりんは想定したのだ。


 複本選手と蓋穴ふたあな選手のペアに対する、秘密兵器というわけである。




 結果的に、りんにかなり負担をかける形にはなったものの、

その作戦通り、

今の今までショットガンを封印ふういんしたまま勝ち上がることができた。


 ボクは、並んで歩くりん右肩みぎかたをポンと軽く左手でたたく。


 風が強く、遅降弾ラググレネードボンバーが使えない状況じょうきょうながら、

りんは本当によくやってくれた。


「(でも不安はある……。

  ショットガンによる不意打ちが成功するのは、

  最初の1回きりだろう……。

  2回目以降を完璧かんぺきに対応されてしまえば、

  おそらく勝てない……)」


 ボクは、胸をつぶされそうな不安にられるが、

それを見透みすかしたように、


「きっと大丈夫ですから……」

と今度はりんがボクの左肩ひだりかたに、そっと右手を乗せて言ってくれた。


 ボクは、その手に右手を重ね、


「うん……!」

とうなずいた。




 第1アースの試合も、

タイミング良く絶と頂さんが勝利したところだった。


「やったね絶!頂さん!」

とボクは努めて明るい調子で第1アースを出た2人に声をけたが、


「うん……。ありがとう……」

と絶はかない顔をして、


「ムロくんとりんのほうこそ……、次の試合……、

 その……、頑張がんばってね……?」

と心配そうな声で、ボクとりんに返す。


 それもそのはずで、

複本選手が自在に射聖ショットできるところを、

絶と頂さんもボクとりん一緒いっしょに観戦していたのだ。


 絶と頂さんのペアが複本選手と蓋穴ふたあな選手のペアに当たるとすれば、

再び決勝戦ではあるものの、

ボクとりんが勝てるかどうかは、正直言って分からない。


「(2連射聖ショットもショットガンも無い絶からすれば、

  『また負けるかもしれない』

  という不安のほうが大きいのだろう……)」

とボクは容易に想像できたが、


大丈夫だいじょうぶ!きっとボク達が勝つから!』

と強気で口に出せるほど、

ボクはまだ自分に自信が無かった。


「……」


 ボクとりんは、無言でコクリと絶にうなずくしかなかった。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 第9アースの真ん中の『*』マークの辺りに、

ボクとりん、複本選手と蓋穴ふたあな選手が立つと、


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いいたしますわ」

とおたがいに握手あくしゅを交わした。


 蓋穴ふたあな選手は、黒髪くろかみをポニーテールにまとめており、

なぜかちょっとおこったような表情に見えるが、

どうやらそれが普通ふつうにしている顔らしい。


 と、


「キミも不思議な聖剣せいけんだよね……。

 色んな方向に射聖ショットできるなんて……。

 でも、勝たせてもらうよ……。

 フフフ……」

とボクと握手あくしゅした複本選手が、

不敵な笑みをかべながら言った。


「……」


 ボクはまだ何も言い返せず、

ただにらむように複本選手を見つめただけだった。


 ボクとりん、複本選手と蓋穴ふたあな選手が、

それぞれ頭のプロテクターをかぶりながら、

アースの4すみにあるスタンバイエリアに入る。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされた。


 試合スタートだ。

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