29回戦 練習試合-2

 ボクとりん笛羅ふえら選手と地尾ちお選手はダダダ……!と走り寄る。


 ズババッ!


 メラメラッ!


 おたが合体ジョイント完了かんりょうだ。


「(火属性使いか……!)」


 ボクはほのおに包まれた笛羅ふえら選手の聖剣せいけんを見た瞬間しゅんかん

地尾ちお選手が火球の魔法まほうを発射してくるのを警戒けいかいする。


 パン!パン!


 パン!パン!


 りん地尾ちお選手が、松葉位置から火球の魔法まほう

それぞれ笛羅ふえら選手とボクに連射した。


 ズザッ!ズザッ!


 ズザッ!ズザッ!


 ボクと笛羅ふえら選手はそれぞれ火球を回避かいひしつつ、おたがいに前進する。


「(先手必勝……!)」


 ボクは思いながら、

笛羅ふえら選手の間合いのやや手前で聖剣せいけんを縦にり始める。


「!」


 ビュッ!


 ビュッ!


 ボクの聖剣せいけんの先っちょの動きに合わせるように、笛羅ふえら選手も聖剣せいけんを縦にった。


 ボクの聖剣せいけんから発射されるであろう射聖ショットはじこうとしたのである。


 だが、当然ボクのこのスイングはフェイントだ。


 ボクは、いて足元に来る直前の聖剣せいけんから、

ややななめ上方にシュバッ!と真空射聖ショットする。


「なっ!?」


 ビシュッ!


 笛羅ふえら選手は反応こそしたものの、いた聖剣せいけんもどすことができず、

右肩みぎかたの辺りのプロテクターにボクの射聖ショットの真空を受けた。


 普通ふつう聖剣せいけんのように先っちょから射聖ショットが来ると思いんでいたので、

タイミングをずらされた形というわけだ。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされる。


「いいぞ!いいぞ!木石!

 行け!行け!本能!

 もう1本!」

とアースの外から手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来た。


「ナイスショットですわ!」


「ありがとう!」


 りんとボクはパァン!と左手でハイタッチを交わす。


 乙気合おつきあい中の面々のほうはというと、


「オオ……!?」

とボクの射聖ショットを見てザワザワどよどよしている。


「……」


 地尾ちお選手は無言だが、じっとボクのほうを見つめているようだ。


「なるほどね……。おもしろい……」


 笛羅ふえら選手のほうがつぶやくように言った。


 少し雰囲気ふんいきが変わったようである。


「(ここからが本番だ……!)」


 ボクは、聖剣せいけんにぎる右手にギュッ!と力をめる。




 ボクとりん笛羅ふえら選手と地尾ちお選手が

それぞれアースの4すみにあるスタンバイエリアに入ると、

ピー!と再び審判しんぱんのホイッスルが鳴らされた。


 ボクとりん笛羅ふえら選手と地尾ちお選手はダダダ……!と走り寄る。


 ズババッ!


 メラメラッ!


 お互い合体ジョイント完了かんりょうだ。


 と、

パボン!と地尾ちお選手が松葉位置からボクに火球の魔法まほうを発射した。


 りんと同じく、爆発ばくはつの火属性魔法まほうで加速させた火球である。


 ビュッ!バシン!


 だが、りんで見慣れているボクは、

前進しながら難なくその火球の弾道だんどうらした。


 パボン!


 パボン!


 りんも負けじと松葉位置から笛羅ふえら選手に向けて、

加速する火球を連射する。


 ビュッ!バシン!


 ビュッ!バシン!


 笛羅ふえら選手も、前進しながら難なくその火球を連続してたたき落とす。


 笛羅ふえら選手の間合いまであと少しという位置で、

今度は笛羅ふえら選手のほうが先に聖剣せいけんを縦にり始める。


 ビュッ!


 バン!


 バン!


「えっ!?」


 ボクはおどろいて口に出しつつ、何とか聖剣せいけんる。


 ビュッ!バシン!


 ボッ!


「うぐっ!」


 なんと笛羅ふえら選手は、

聖剣せいけんから合体ジョイントした魔力まりょく2射聖ショットしたのだ。


 ボクは、顔面に向けて飛んで来た射聖ショットには何とか聖剣せいけんを合わせることができたが、

下半身に向けて飛んで来た射聖ショットにはギリギリで聖剣せいけんが間に合わず、

右のすね辺りのプロテクターに直撃ちょくげきを受けてしまった。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ワ、1-1ワンオール!」

とスコアがコールされる。


「オオ……!?」

と今度はウチの剣魔けんま部の面々がザワザワどよどよした後、


「ドンマイ!ドンマイ!木石!

 行け!行け!本能!」

手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来た。


「ナイスショットー!」

地尾ちお選手が言い、


「フン……!」

笛羅ふえら選手は、鼻を鳴らしながらパァン!と左手でハイタッチを交わす。


「まさかあんな技をかくし持っていたなんて……。

 ドンマイですわ……!」


 りんがボクにけ寄りながら言い、


「うん、ごめん……。油断してた……」


 ボクもりんのほうをチラリと見ながら言う。


「(射聖ショットを2つに分けたばかりか、

  それを聖剣せいけん一振ひとふりする間に連続で射聖ショットするなんて……!)」


 ボクは内心で舌を巻いていた。


 プロの選手でもほとんどできる人はいない、

『2連射聖ショット』や『バースト』などと呼ばれるちょう高等テクニックである。


 しかし、ボクは同時にあることを考えていた。


「……」


「……笛羅ふえら選手のほうが聖剣せいけんるのに合わせて、

 ワタクシが横風をかせれば妨害ぼうがいできそうですが……?」


 りんが、だまって考えんでしまっていたボクを見かねたのか、

作戦を提案してくるが、


「いや……、ちょっと試したいことがあるから……、

 さっきと同じ感じで笛羅ふえら選手と1対1にさせてくれない……?」

とボクは、りんに向けて首を軽く横にりながら言った。


「ムロさんがそうおっしゃるなら、おまかせいたしますけど……」

りんは若干心配そうな声色をしていたが、コクリとうなずいてくれた。




 りんと分かれてスタンバイエリアに向かいながら、

ボクは間近で見た笛羅ふえら選手とその聖剣せいけん射聖ショットの直前の様子を

動画をリプレイするように思い返す。


「(あの時、聖剣せいけんる直前に

  笛羅ふえら選手の聖剣せいけんに帯びていたほのおが先っちょ側と根元側の2つに分かれた……。

  そして先っちょのほのお射聖ショットされた直後に、

  根元側のほのおが先っちょに移動して来て、

  またすぐさま射聖ショットされた……)」


 ボクはスタンバイエリアに入ると、

くるりと笛羅ふえら選手と地尾ちお選手のほうに向き直った。


「(ボクの聖剣せいけん合体ジョイントされたりん魔力まりょくを同じようにコントロールできれば、

  もしかしたら……!)」


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 ボクとりん笛羅ふえら選手と地尾ちお選手はダダダ……!と走り寄った。


 ズババッ!


 メラメラッ!


 おたが合体ジョイント完了かんりょうだ。


 ボクは合体ジョイントされた自分の聖剣せいけんが帯びている真空を見つめながら前進する。


「(分かれろ……!)」

と真空が分かれるようなイメージを、強く念じるように思いえがいて。


 と、

パボン!と地尾ちお選手のほうから音がした。


「(加速する火球……!)」


 ボクはイメージを中断して、すぐさま構え、聖剣せいけんる。


 ビュッ!バシン!


 飛んで来た火球を何とかたたき落とすことができた。


「(試合中に練習してる余裕よゆうは無い……!

  ぶっつけ本番だ……!)」


 パボン!


 パボン!


 パボン!


 今度は、りん地尾ちお選手が交互こうごに加速する火球を発射して、

ボクと笛羅ふえら選手を援護えんごしてくる。


 ビュッ!バシン!


 ビュッ!バシン!


 ビュッ!バシン!


 ボクと笛羅ふえら選手は前進しながら、飛んで来る火球をそれぞれたたき落とす。


 メラ……!


 笛羅ふえら選手の聖剣せいけんほのおが動いた。


「!」


 ボクはそれを見た瞬間しゅんかん

バッ!とりんがいない左方向にサイドステップを開始する。


「(縦りで2連射聖ショットしてもとらえられない動きをすれば、

  ちあぐねるはず……!)」

とボクは考えたのだ。


 だが、そこに地尾ちお選手が、

パボン!と加速する火球を発射してくる。


「うっ!」


 バッ!


 すでに2回も魔法まほう聖剣せいけんはじいていたボクは、

聖剣せいけん魔力まりょくを温存するために、

その場にいつくばるようにして何とか飛んで来た火球を回避かいひした。


 だが、動きを止めたボクは、格好の的になる。


「食らえっ!」

さけびながら笛羅ふえら選手がボクに向けて聖剣せいけんりかぶった。


 その聖剣せいけんに帯びているほのおは、

すでに先っちょ側と根元側に分かれている。


 ボクも負けじと、四つんい状態から何とか右手を伸ばして聖剣せいけんき出す。


「(分かれろ……!)」

と強く念じながら。


 バン!シュババ!バン!


 笛羅ふえら選手の聖剣せいけんとボクの聖剣せいけんから、

ほぼ同時に射聖ショットが行われた。


 ビシュッ!と笛羅ふえら選手の頭のプロテクターの上部に真空が命中し、


「ぐっ!?」

と言いながら、笛羅ふえら選手はわずかにのけぞる。


 ボッ!とボクの聖剣せいけんにも火球が命中する。


 だが、ボクの身体のほうは無傷だ。


 ボクの聖剣せいけんからは、

先っちょから真っ直ぐと、

そのややななめ上方向、

2射聖ショットが行われたのである。


 その片方の真空

先に射聖ショットされた笛羅ふえら選手の1発目の火球とぶつかっておたがいにはじかれ、

もう片方の真空笛羅ふえら選手の頭に命中し、

後から射聖ショットされた笛羅ふえら選手の2発目の火球は

ボクの聖剣せいけんに防がれた形だ。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ツ、2ツー-1ワン……!」

とスコアがコールされる。


 ギャラリーは、ウチの剣魔けんま部の面々も乙気合おつきあい中の面々も、

ザワザワどよどよしていた。


 四つんいの姿勢だったボクを立たせようと手を差し伸べたりんまで、


「ムロさん今のは……?」

困惑こんわくしている様子である。


 それもそのはずだ。


 先っちょ以外から自由に射聖ショットできるだけでもおかしいのに、

異なる2つの方向に同時に射聖ショットできるなんて。


 プロでもそんな技を使っている選手は見たことが無い。


 だが、ボクはりんたずねた。


「『ショットガン』だと変かな……?」

と。


「えっ……?ショットガン……?」


 りんが聞き返す。


「うん……、ショットガン……。

 今の技の名前……。

 えへへ……」


 ボクは笑った。


「(ボクだけの必殺技だ……!)」


 ボクは、心底興奮していたのである。


「良いと思いますわ……!」


 りんは大きくうなずいてくれた。




 そして、

ショットガンをり出せるようになったボクとりんのペアは、

そこから笛羅ふえら選手と地尾ちお選手のペアを圧倒した。


 ボクは剣士けんしなので、

聖剣せいけんでガードしながら笛羅ふえら選手に近づくことができる。


 身体の上下左右ななめと真ん中のどこかに

その至近距離しきんきょりから、

しかも2連射聖ショットのように時間差で飛んで来るのではなく、

2箇所かしょ同時に射聖ショットを受けるのである。


 さらにそこにりんの火球の魔法まほうまで加わるのだから、

ガードも何も無かったのだ。


 りんの火球の魔法まほうをガードしたり回避かいひしたりする笛羅ふえら選手の身体をねらって、

聖剣せいけんを構えていない2箇所かしょ

分かれて飛んで行く魔力まりょくをイメージしながら射聖ショットするだけで、

面白いように次々とポイントがうばえた。




「『めてる』なんて言って申し訳なかった……。

 ショットガン……。

 完敗だったよ……」


 試合後、頭のプロテクターをいだ笛羅ふえら選手は、

アースの真ん中の『*』マークの辺りでボクと握手あくしゅを交わすと、

そう言ってボクのこしの辺りをポンとたたいた。


「いえ……、笛羅ふえらさんの2連射聖ショットを間近で見れたおかげです……」


 ボクは照れて、頭をかきながら言う。


「(中総体まであと2週間……!すごい武器が手に入ったぞ……!)」


 ボクは、自分の活躍かつやくする姿に想いをせた。

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