28回戦 練習試合-1

 6月の2週目の土曜日。


 天気は、ややくもり。


 中総体を2週間後にひかえた今日は、練習試合の日である。


 対戦相手は、2つとなりの県にある

『私立、乙気合おつきあい中等学校』だ。


 下井先生の母校だそうで、そのえん

ここ数年は毎年のようにウチの剣魔けんま部と練習試合を組んでくれているらしい。


 下井先生が在学する数年前までは男子校だったとのことで、

その名前の通りと言うか、

今も体育会系の厳しい雰囲気ふんいきの残る校風であり、

スポーツ系の部活が全般的ぜんぱんてきに強く、

男子は全員坊主ぼうずかそれに近い髪型かみがたときている。


 剣魔けんま部も、去年はミックスダブルスと団体戦で

それぞれ全国大会出場を果たしていた強豪きょうごう校で、

去年の練習試合の団体戦の結果は正甲中せいこうちゅうの負けだった。


 だが今年は、ウチの剣魔けんま部にも絶とりんという強力なメンバーが加入している。


「今日はよろしくお願いします」

乙気合おつきあい中の顧問である児囲先生が礼をすると、


「オナシャーッス!」

と、もはや怒号どごうのように気合い十分な部員達の声が飛んで来た。


ボク達も負けじと、


「オナシャーッス!」

と大声で返す。




 さて、最初は主にレギュラーメンバーから、本番の団体戦を想定した試合だ。


 りん魔法まほうシングルスのほうで試合で、

補欠のボクはしばらく出番が無い。




 我が正甲中せいこうちゅうのオーダーは、

剣士けんしシングルス1が2年生の絶、

剣士けんしシングルス2が3年生の実芭蕉先輩みばしょうせんぱい

魔法まほうシングルス1が1年生のりん

魔法まほうシングルス2が2年生の頂さん、

ミックスダブルス1が3年生で部長の鬼頭先輩きとうせんぱいと3年生で副部長の脇名先輩わきなせんぱいのペア、

ミックスダブルス2が3年生の和井先輩せんぱいと3年生の説駄先輩せつだせんぱいのペア、

ミックスダブルス3が2年生の申清と相武さんのペア、

である。


 実芭蕉先輩みばしょうせんぱいは、絶が来るまではウチの剣士けんしエースだった先輩せんぱいで、

かまのようにがある側を内側にして曲がっためずらしい形状の大きな聖剣せいけんの使い手だ。


 その形状のせいで、とてもガードがしづらい。


 和井先輩せんぱいは、グニャグニャと曲がるほどやわらかい布のような感じの

不思議な聖剣せいけんの使い手だ。


 長さもかなり有り、そのやわらかくしなやかな動きのせいで、

こちらもとてもガードがしづらい。


 説駄先輩せつだせんぱいは土属性が得意な魔法まほう使いである。


 りんほどではないが器量が多い先輩せんぱいで、

射程はそれほど無いが、

アースの地形を変えるほどの高レベルの土属性の魔法まほうを使用して、

アースに穴を開けたり土壁つちかべを作ったりと敵を翻弄ほんろうする戦法を得意としている。


 また、和井先輩せんぱいやわらかい聖剣せいけんの先っちょに説駄先輩せつだせんぱいの土属性が合体ジョイントされると、

ムチか重り付きのくさりのような感じの動きになり、

えて射聖ショットせずにそのまま使用することによって、

慣れない相手には非常に厄介やっかい攻撃こうげきり出すことができる。




 対戦相手の乙気合おつきあい中のオーダーは、

剣士けんしシングルス1が笛羅ふえら選手、

剣士けんしシングルス2が霜袋しもぶくろ選手、

魔法まほうシングルス1が仲居木選手、

魔法まほうシングルス2が奥飛騨おくひだ選手、

ミックスダブルス1が名間選手と五霧ごむ選手のペア、

ミックスダブルス2が御手洗みたらい選手と都入選手のペア、

ミックスダブルス3が志雄しお選手と布木選手のペア、

である。


 剣士けんしシングルス1の笛羅ふえら選手は、たてると同じぐらいの両刃りょうば巨剣きょけんの使い手。


 体格も絶のようにガッシリしていて大きい。


 剣士けんしシングルス2の霜袋しもぶくろ選手は、

ウチの鬼頭先輩きとうせんぱいと同じくらいの片刃かたば巨剣きょけんの使い手。


 魔法まほうシングルス1の仲居木選手は、

木属性という植物を操るめずらしい属性の魔法まほう使い。


 魔法まほうシングルス2の奥飛騨おくひだ選手は、火属性が得意な魔法まほう使い。


 ミックスダブルス1の名間選手は、

持ち手が非常に長くて、

逆に非常に短いの部分は、

先っちょに向かって細くとがったようになっているタイプの、

やりのようなめずらしい聖剣せいけんの使い手。


 同じくミックスダブルス1の五霧ごむ選手は、

土属性が得意な魔法まほう使い。


 ミックスダブルス2の御手洗みたらい選手は、

日本刀ぐらいのサイズでやや左に曲がった聖剣せいけんの使い手。


 同じくミックスダブルス2の都入選手は、

水属性が得意な魔法まほう使い。


 ミックスダブルス3の志雄しお選手は、

こちらもウチの鬼頭先輩きとうせんぱいと同じくらいの片刃かたば巨剣きょけんの使い手。


 同じくミックスダブルス3の布木選手は、

水属性が得意な魔法まほう使い。




 ここからは、レギュラーメンバーの試合結果について

かいつまんで述べようと思う。


 剣士けんしシングルス1の絶対笛羅ふえら選手の試合は、

かなりハイレベルな試合でタイブレイクまでもつれんだが、

最後は絶がし切る形で3スリー-2ツー2ツー-3スリー5ファイブ-3スリーで勝利した。


 剣士けんしシングルス2の実芭蕉先輩みばしょうせんぱい霜袋しもぶくろ選手の試合も、

タイブレイクまでもつれんだが、

後半は霜袋しもぶくろ選手が実芭蕉先輩みばしょうせんぱい聖剣せいけんに慣れてしまったのか、

3スリー-1ワン2ツー-3スリー1ワン-4フォー実芭蕉先輩みばしょうせんぱいが敗北した。


 魔法まほうシングルス1のりん対仲居木選手の試合は、

属性の相性がモロに出た試合だった。


 仲居木選手の木属性魔法である、

木の葉を手裏剣しゅりけんのように飛ばす攻撃こうげきつるをムチのようにり出す攻撃こうげきは、

火属性のりんには全く効かず、3スリー-0ゼロりんが勝利した。


 魔法まほうシングルス2の頂さん対奥飛騨おくひだ選手の試合は、

同じ火属性同士の試合だったのものあってややもつれたが、

最終的には2ツー-3スリーしくも頂さんが敗北した。


 ミックスダブルス1の

鬼頭先輩きとうせんぱい脇名先輩わきなせんぱいのペア対名間選手と五霧ごむ選手のペアの試合は、

名間選手と五霧ごむ選手の作戦が徹底てっていしていた。


 五霧ごむ選手が立てた2人の身長と同じぐらいの高さの土壁つちかべの後ろから、

レベル2の土弾つちだん射聖ショットをひたすらグレネードランチャーか迫撃砲はくげきほうのように

ち続けたのだ。


 剣魔けんまでは、水属性でれたり、土属性で地形が変わったりしたアースも、

その試合が終わるまではそのまま利用されるというルールを

うまく活用した作戦である。


 五霧ごむ選手の器量もかなり高いらしく、

その状態で最後まで途切とぎれずにたまち続けられたうえ、

鬼頭先輩きとうせんぱいが何とか魔法まほう射聖ショット回避かいひして近づいても

リーチで優れた名間選手のやりのような聖剣せいけんに手が出せず、

鬼頭先輩きとうせんぱい脇名先輩わきなせんぱい0ゼロ-3スリー0ゼロ-3スリーと大敗した。


 逆にミックスダブルス2の

和井先輩せんぱい説駄先輩せつだせんぱいのペア対御手洗みたらい選手と都入選手のペアの試合は、

ウチの剣魔けんま部側がやり返した。


 説駄先輩せつだせんぱいに土属性を付与された和井先輩せんぱい聖剣せいけんが、

生き物のような動きで次々にポイントをうばったのだ。


 その結果、和井先輩せんぱい説駄先輩せつだせんぱいのペアが3スリー-1ワン3スリー-1ワンと勝利した。


 団体戦最後のミックスダブルス3の

申清と相武さんのペア対志雄しお選手と布木選手のペアの試合は、

序盤こそ申清と相武さんのペアが攻めていたが、

対戦相手の志雄しお選手と布木選手のペアは、

申清があまり動けないと分かると、

以前にボクとりんがそうしたように申清を徹底てっていしてねらちし始めた。


 その結果、2ツー-3スリー1ワン-3スリーで申清と相武さんのペアは敗北した。


 最終的な団体戦のスコアは3-4でウチの剣魔けんま部の敗北。


 ばつゲームとして、

今日の部活のラストにグラウンドを20周走ることが決定してしまった。




 さて、ここからは補欠メンバーもふくめての試合である。


 早速、ボクとりんが呼ばれて試合に入ることになった。


 対戦相手は、

剣士けんしシングルス1で絶にしくも敗れていた笛羅ふえら選手と補欠の地尾ちお選手のペアだ。


 地尾ちお選手は、やや長い黒髪くろかみをツインテールにまとめた

可愛い感じの見た目の女子だった。


 アースの真ん中の『*』マークの辺りに4人が集まると、


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いいたしますわ」

とそれぞれ握手あくしゅを交わす。


 ボクは、例によって

ハァー……!という深いため息のような息をついてから、

スゥー……!と大きく息を吸いむ。


 そうして、刀をくようにおもむろにビュッ!と聖剣せいけんく。




 一瞬いっしゅんの静止。




「……めてるのか?」


 笛羅ふえら選手が口を開いた。


「ちょっ……、やめよう……?」

地尾ちお選手は言いながら、制止するように笛羅ふえら選手の左肩ひだりかたを右手でつかんだ。


「いえ……、真剣しんけんですよ……?」


 ボクは若干申し訳なくなるが、それでも言い返した。


「(おこるって反応はめずらしいけど、

  そういう反応をするってことは向こうこそボクの聖剣せいけんめてる証拠しょうこだ……!

  おどろかせてやる……!)」

と思いながら。


 すると、ボクの気持ちを代弁するように、


めてるのはそちらでございましょう……?

 痛い目見ますわよ……」

りん笛羅ふえら選手をにらむように見ながら言った。


「だといいがな……」


 笛羅ふえら選手はくるりとり返ると、

アースのすみのスタンバイエリアに向かってスタスタと歩き出す。


 地尾ちお選手のほうは、こちらに軽く礼をして

同じようにもう1つのスタンバイエリアに歩いて行った。


 ボクとりんもスタンバイエリアに入ると、

ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 試合スタートだ。

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