27回戦 新人戦-6

 新人戦2日目。


 天気は昨日に引き続き、快晴。


 今日はミックスダブルスの試合が行われる日だ。


 昨日と同じ場所にブルーシートと荷物で陣取じんどった正甲中せいこうちゅうの面々は、

試合がすぐにあるペアはウォーミングアップに向かい、

審判しんぱんに割り当てられているペアは、その片方が大会本部に向かい、

そのペアのもう片方や試合も審判しんぱんも無いペアは、

思い思いに過ごし始める。


 昨日とちがい、勝手が分かってきた1年生も自分から率先して動いていた。


 第16シードで1回戦が無いボクとりんのペアも、

第16アースの1試合目の審判しんぱんに割り当てられている。


 ボクが立ち上がって大会本部に向かおうとすると、


「ムロさん。

 審判しんぱんはワタクシがやって参りますから」

りんが声をけてきた。


「えっ?本当に?」


 ボクはりんのほうをり返って、


「じゃあお願いしちゃおうかな……?」

と頭をかきながら、その申し出をありがたく受ける。


「(りんはすごく実力があるのに、

  先輩せんぱいを立ててくれたりこうして気遣きづかってくれたり……、

  本当に良くできた後輩こうはいだなあ……)」


 ボクが思っていると、


「絶くん、私も!

 私も審判しんぱんやってくるから!」

と声がした。


 絶のペアで、同じ2年生の頂さんだ。


「本当!?助かるよ!ありがとう!」


 絶はニコニコしながら、頂さんにうなずく。


 頂さんは、照れたような顔をして少しうつむく。


 かたより少し短いくらいの黒髪くろかみをポニーテールにきっちりまとめ、

赤いプラスチック製フレームのメガネをかけていて、

見た目的にはあまりスポーツが得意そうには見えない

細い手足と身体つきでありながら、

りんが来るまでは3年生まで含めたウチの部の中で

一番の火属性の魔法まほうの使い手だった実力者だ。


 団体戦でも元々レギュラーだった彼女が、

部内対抗戦たいこうせんの結果として、りん脇名先輩わきなせんぱいに次ぐ強さを見せつけ、

絶のペアの座を見事に射止めたというわけである。


りんちゃん。一緒いっしょに行こう」

と頂さんがりんに声をけると、りん


「はい。参りましょう」

と返事をして、2人で連れ立って大会本部のほうへ歩き出す。


 頂さんはどうやら絶に気があるらしく、

ライバルなはずのりんにもこのように積極的に話しかけて、

輪をかけて仲良くなろうと画策している様子だ。


「(まあ悪い子じゃないし、

  絶相手だとライバルも多いだろうけど頑張がんばって欲しいな……)」


 彼女かのじょが1年生のころから、

部活の後に居残って自主的な魔法まほうの練習や走りみなどの努力をして

レギュラーの座を勝ち取ったことを知っているボクとしては、

どちらかと言えば応援おうえんしたい立場である。


 当然のように、彼女かのじょも朝練には毎日欠かさず参加していた。




 さて、各アースでミックスダブルスの試合が始まった。


 審判しんぱんりんに任せたボクは、

たてるの試合の応援おうえんをしようと第14アースにやって来た。


 たてるのペアは、同じく1年生の音呼ねこくんだ。


 そう。


 なんとかれ魔法剣士まほうけんしである。


 だが、聖剣せいけんのほうは残念ながらそんなにめぐまれたほうではないらしく、


魔法まほう使いとして剣魔けんまをプレイしたくて入部した』

と言っていて、

ちょうど4月から部活に行っていなかったボクは、

まだかれ聖剣せいけんを見たことが無い。


 魔法まほうのほうは、水属性と土属性が使えるそうだが、

部活中に使っていたのは水属性が多かったように記憶きおくしている。


 まだあどけなさというか幼さが残る感じの中性的な見た目で、

かみの毛は天然パーマなのか全体的にクセがあり、

よく女の子に間違まちがわれるらしい。


 最初のほうこそ朝練には参加していなかったが、

たてるのペアに決定してからは、

たてるに合わせて毎日欠かさず朝練にも参加するようになっていたので、

やる気もあるようだ。




 たてるがドピュッ!とり出した射聖ショットが、

相手剣士けんし左脚ひだりあしにビシャッ!とヒットした。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ゲーム!木石、音呼ねこ1ワンゲームストゥ0ゼロ!」

とスコアがコールされる。


「いいぞ!いいぞ!たてる

 行け!行け!音呼ねこ

 もう1本!」

とボクは手拍子てびょうしでリズムを取りながら2人に声援せいえんを送る。


「(たてる達、このまま勝てそうだな……)」


 ボクは少し安心して、チラリと第16アースのほうの様子も見てみる。


 第16アースで現在プレイ中の試合の勝者が、

ボクとりんの2回戦の相手になるからだ。


「(おや……?)」


 第16アースで審判しんぱんをやっているりんが、

何やら険しい表情をしているのがボクの目に入った。


「(何かトラブルかな?)」

とボクは、しばらく第16アースの試合の様子を観察してみる。




 しかし、特に試合の進行に問題は無いようだ。


「(一体何だろう……?)」


 ボクが思っていると、


 ピー!とたてる達のいる第14アースの審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされた。


 たてるが、また射聖ショットでポイントをうばったのだ。


「いいぞ!いいぞ!たてる

 行け!行け!音呼ねこ

 もう1本!」


 ボクは再び手拍子てびょうしでリズムを取りながら声援せいえんを送った。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







「どうかしたの……?」


 第16アースの試合が終わって、アースから出て来たりんに、

ボクは歩み寄って声をける。


 と、りんはハッとしたようにこちらを見て、


「あっ……、大丈夫だいじょうぶですわよ……?」

と軽く首を横にった。


 先ほどの険しい表情はもう無く、いつものりんに見える。


 だがボクは、


「もしかして、昨日の疲れがまだ残ってる?」

と心配してたずねた。


 昨日の魔法まほうシングルスで優勝したりんは、

それだけたくさんの試合数をこなしていたからだ。


 だがりんは、


「いえいえ……、あのドリンクも飲んでましたから……。

 本当に大丈夫だいじょうぶですわ……」

とニコリとしながらうなずく。


「そう……?それならいいけど……」


 ボクは、それ以上は何も言わないでおく。


「(りんが『大丈夫だいじょうぶ』って言ってるんだから、大丈夫だいじょうぶなんだろう……)」

と納得して。




 ボクとりんは、一度正甲中せいこうちゅう陣取じんどっているスペースまで戻ると、

プロテクターを着込きこんで、そのままウォーミングアップに向かった。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ゲームセット!ウォンバイ木石、本能!2ツーゲームストゥ0ゼロ!」

と試合結果がコールされる。


 ボクとりん、2回戦の対戦相手である諸多選手と尾根おね選手が

それぞれ頭のプロテクターを脱ぎ、


「ありがとうございました」

握手あくしゅを交わす。


「(練習でもそうだったけど、風属性の合体ジョイント威力いりょくは、やっぱりすごい……!)」


 ボクは内心、かなり興奮気味だった。


 りん魔力まりょくで風属性を合体ジョイントされたボクの聖剣せいけんは、

真空のではあるが、立派なを帯びるのである。


 射聖ショットができるのもさることながら、

真空のぶんリーチも増すので、

ボクの攻撃こうげきや防御のバリエーションも増えることになるのだ。


りん

 勝てたけど、なんかアドバイスとか改善点とかあったら……」

とボクは言いながらりんのほうに向き直って、思わず言葉を切った。


 頭のプロテクターをいだりんは、

険しい表情でたきのようにあせをかいていた。


 その顔色は蒼白そうはくとまでは言わないが、どう見ても青ざめている。


「ど、どうしたの!?」


 ボクは言いながら、右手の手袋てぶくろを外して、

りんの額に手を当ててみる。


 熱はそんなにないようだ。


 が、ボクはそうしながら1つ思い至った。


「もしかして、整理ソートのせいで体調が……!?」


 大会の4日前に整理ソートが来たりんなら、有り得る話だ。


 だがりんは、


「いえ……、本当に大丈夫だいじょうぶですわ……」

と、まだうわ言のように言う。


 だが、どう見ても立っているのがやっとという感じだ。


 先ほどまで試合をしていたのが信じられないぐらいである。


「大丈夫じゃないよ!

 りんに何かあったらボク……、ボクいやだからね!」


 そうさけぶように言うと、ボクはすぐさまりんの身体をグインときかかえた。


 一般的いっぱんてきには、お姫様ひめさまっこと呼ばれるアレであるが、

そんなことを気にしている場合ではないのは明白だった。


 りん


「キャッ!」

おどろいたように口に出したが、

特に抵抗ていこうもしてこないで、されるがままになっている。


 いや、だんだん顔が赤くなってきた。


「(熱まで出てきたのかもしれない……!)」


 ボクは、そのまま小走りでアースを飛び出すと、

正甲中せいこうちゅう陣取じんどっているスペースまで急いで向かう。


「(なんて軽いんだろう……!

  こんな女の子に無理させて……!

  ボクは大バカ野郎やろうだ……!)」


 ボクは心の中で、自分の頭をポカポカたたいた。




 幸い、下井先生が持っていた救急箱に、

整理ソートの痛みや不調に効く薬が常備されていた。


 それを飲んで横になったりんは、徐々じょじょあせも引き、

症状しょうじょうが落ち着いたのか、すやすやとねむり始めた。


 ボクは、それを見てようやく一安心した。




 試合のほうは、ボクとりんのペアは3回戦で棄権きけん


 たてる音呼ねこくんのペアは2回戦で敗退。


 絶と頂さんのペアは、なんと優勝。


 絶がシングルスと合わせて2かんを達成して、新人戦は幕を閉じた。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







「ワタクシとしたことが、体調管理をおろそかにして……。

 本当に申し訳ございませんでした……」


 正甲中せいこうちゅうの最寄りのバス停で帰りのバスを降りた時、

夕日で赤々と染まったりんが、

暗い顔でくやしそうにボクに言った。


「気にしないで。

 本番は中総体だと思って、切りえて行こうよ」


 ボクは精一杯せいいっぱいの笑顔でそう言いながら、りんかたをポンとたたく。


「はい……!」


 そう返事をしたりんの顔に、もう暗さは残っていなかった


 やる気と闘志とうしに満ちあふれた、いつものりんの顔だった。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 絶、りんと分かれて我が家に帰宅したボクとたてるは、それぞれの部屋に入る。


「(あれがきっと……、りんや絶の強さの理由の1つなんだ……)」


 ボクは自室で着替きがえながら思った。


「(『転んでもただでは起きない』

  と言うやつだろうか……)」


 思いながら、ボクは自分自身の心の変化にも気づいていた。


「(1年生の時にペアだった出来田さん……。

  彼女かのじょが部活を辞めてダブルスに出られなくなった時のボクは、

  とても心乱れていた……。

  おこっていたとさえ言ってもいいかもしれない……)」


 ボクは天井をにらんだ。


「(でも、今はちがう……!

  本番は……!

  決戦は……、中総体だ……!)」


 ボクは両のこぶしをギュッ!とにぎめた。

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