26回戦 新人戦-5

 にわかには信じられないことが、現在進行形で起こっている。


 ボクの2回戦の相手は、シードの曽卯ぞう選手だ。


 その試合のゲーム数が、現在1-1ワンオールで並んだ状態なのである。


 つまり、これから4ポイント先取のタイブレイクに突入とつにゅうするのだ。


 シード相手にここまで戦えているのは、ボクにとっては初めてのことである。


 曽卯ぞう選手が、ウチの剣魔けんま部の申清とタイプが似ている

というのも要因の1つかもしれない。


 長くて太い聖剣せいけんを使って力でねじせる、

いわゆるパワープレイヤータイプだ。


 最初に0ゼロ-1ワンとゲーム数でリードされていたのだが、

そこから1-1ワンオールに追いつくことができたのは、

曽卯ぞう選手が疲れを見せ始めたためである。


 それに申清に負けてから

『体勢をくずされるのは、足のん張りに体幹が着いて行けてないからだ』

と考えて、ボクがかなり体幹をきたえてきたのも功を奏したようだ。


「(流れはこちらにある……!

  大丈夫だいじょうぶ、きっと勝てる……!)」


 ボクは、これからの戦いに備えて、

りんからもらったドリンクをゴックン!と大きく飲みんだ。




 ボクと曽卯ぞう選手が、アースの対角にあるスタンバイエリアに立つと、

ピー!と審判しんぱんがホイッスルを鳴らした。


 ボクと曽卯ぞう選手は、お互いにダダダ……!とアースの真ん中へ向かう。


 いや、わずかに曽卯ぞう選手はおくれている。


「(やはりつかれている!)」


 ボクは確信して、えて曽卯ぞう選手の間合いに1歩入りんだ位置で立ち止まる。


「!」


 曽卯ぞう選手が反応し、

聖剣せいけんを横からコンパクトにって、ボクをとらえようとした。


 だがその動きは、ややおくれた。


 ボクは、背中側にスキップするように1歩ステップして、それを回避かいひする。


 そして再び曽卯ぞう選手の間合いに入りみながら、

今度はえて上半身の高い位置に聖剣せいけんを構え、

縦振たてぶりの動きで軽くりかぶって見せる。


 そう。


 どう見ても空振からぶりする距離きょりだ。


 曽卯ぞう選手は、しゃがみみながら、

返す刀でボクの足先をるように聖剣せいけんり始めた。


 ダンッ!


 ボクは、飛びみ前転の要領で、

曽卯ぞう選手のった聖剣せいけんえながら聖剣せいけんる。


 ガス!


 ボクの聖剣せいけんが、すれ違いざまに曽卯ぞう選手の

右肩みぎかた辺りのプロテクターをとらえた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


1ワン-0ゼロ!」

とスコアがコールされる。


「いいぞ!いいぞ!夢路ゆめみち

 行け!行け!夢路ゆめみち

 もう1本!」


 観客席から、ウチの部員達の手拍子てびょうし声援せいえんが聞こえる。


 おそらく、たてるや絶の試合が先に終わったのだろう。


「(つかれで、曽卯ぞう選手の動きは全体的におそくなっている……!

  行ける……!)」


 ボクは、聖剣せいけんにぎる手にギュッ!と力をめる。




 ボクと曽卯ぞう選手が、アースの対角にあるスタンバイエリアに立つと、

ピー!と審判しんぱんがホイッスルを鳴らした。


 ボクと曽卯ぞう選手は、おたがいにダダダ……!とアースの真ん中へ向かう。


 と、今度は曽卯ぞう選手が先に動いた。


 間合いに入る直前に、フェイントでボクが立ち止まるであろう位置に向けて、

大きくみながらきを放つ。


 ボクは、両手でにぎった聖剣せいけんにグッ!と力をめながら

左腕ひだりうで側からコンパクトにり、そのきをガキィン!と受け流し、

そのまま時計回りにギュルン!と身体全体を回転させつつ前進する。


 そして聖剣せいけんから左手をはなすと、そのまま右の裏拳うらけんり出す要領で、

聖剣せいけんをビュッ!と曽卯ぞう選手の上半身に向けてった。


 バッ!


 曽卯ぞう選手は、ヘッドスライディングするかのように前のめりに地面へたおみ、

それを回避かいひする。


 そして、たおれる直前にぐるりと仰向あおむけになりながら、

き出していた右手の聖剣せいけんに左手を逆手の持ち方でえ、

ボートのオールをぐように無理矢理ボクに聖剣せいけんる。


 ガッ!


 ボクは、回転の勢いを殺しながら、

何とか曽卯ぞう選手から距離きょりを取ろうとしたが、

ギリギリで回避かいひしきれず、

右の太もも辺りのプロテクターにかれ聖剣せいけんを受けてしまった。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


1-1ワンオール!」

とスコアがコールされる。


「ドンマイ!ドンマイ!夢路ゆめみち

 行け!行け!夢路ゆめみち!」

と観客席から手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来た。


「(ボクが受け流した瞬間しゅんかんに、

  そのまま回転して聖剣せいけん大振おおぶりするところまで読まれたんだ……!

  さすがはシード……!一筋縄ひとすじなわでは行かない……!)」


 ボクはアースのスタンバイエリアにもどりながら、歯をめる。




 ちなみに、剣魔けんまの試合は格闘技かくとうぎとはちょっとちがうため、

たとえポイント中にアースにヒザを着いたり寝転ねころがったりしたとしても、

特にペナルティなどは無い。


 聖剣せいけん魔法まほうという長いリーチの攻撃こうげきがあるので、

通常はそうやって動きを止めるとかえって不利になるからだ。


 それに、やってみると分かるが、

ヒザ立ちの姿勢や寝転ねころんだ姿勢では下半身がうまく使えず、

上半身の筋肉だけで聖剣せいけんる形になってしまうので、

重たい聖剣せいけんほど思うようにあつかうのが難しくなる。




 ボクと曽卯ぞう選手が、アースの対角にあるスタンバイエリアに立つと、

ピー!と再び審判しんぱんがホイッスルを鳴らした。


 ボクと曽卯ぞう選手は、おたがいにダダダ……!とアースの真ん中へ向かう。


 と、

曽卯ぞう選手の間合いに入る直前で、曽卯ぞう選手がグッと減速した。


「!?」


 ボクはフェイントで間合いに入る直前に立ち止まろうとしていたが、

タイミングをずらされてしまった形だ。


 間合いに入るか入らないかの中途半端ちゅうとはんぱな位置で、ボクは立ち止まってしまう。


 そこに曽卯ぞう選手が、大きくみながら右手側からこしの高さを

はらうように聖剣せいけんってきた。


 ボクはそれに向かって聖剣せいけんを合わせながら、


「(大振おおぶりすぎる……!これはもしや……!?)」

と考え、左足側にグッ!と体重をかける。


 シュン!


 曽卯ぞう選手が聖剣せいけんをなえた。


 そしてすぐさま、ビュッ!と聖剣せいけんかれる。


 だが、曽卯ぞう選手の聖剣せいけんの先っちょは空を切った。


「(やっぱりき差し……!)」


 曽卯ぞう選手の右側面にんでいたボクは、

ガッ!と冷静に曽卯ぞう選手の右腕みぎうでのプロテクターに聖剣せいけんをぶつける。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


2ツー-1ワン!」

とスコアがコールされた。


「いいぞ!いいぞ!夢路ゆめみち

 行け!行け!夢路ゆめみち

 もう1本!」

と観客席から再び手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来る。




 ボクと曽卯ぞう選手が、アースの対角にあるスタンバイエリアに立つと、

ピー!と再び審判しんぱんがホイッスルを鳴らした。


 ボクと曽卯ぞう選手は、おたがいにダダダ……!とアースの真ん中へ向かう。


 と、

曽卯ぞう選手が、今度は聖剣せいけんの間合いより手前で、

コンパクトに聖剣せいけんにぎりながら立ち止まった。


「(ボクが間合いに入るのを待ち構える気か……!)」


 ボクはそう見るや否や、進む方向をななめに切りえる。


 曽卯ぞう選手に向かって行くのではなく、

曽卯ぞう選手を中心とした間合いの円に接線を引くかのような動きに切りえたのだ。


 さらにボクは、その方向に動きを維持いじしたまま、

曽卯ぞう選手を正面にとらえるために足の動きをサイドステップに切りえる。


 だが、ボクが曽卯ぞう選手の間合いにれる位置までそのまま進んでも、

曽卯ぞう選手はボクの動きを追うように身体の向きを変えるだけで、

聖剣せいけんのほうは構えたままろうとしない。


「(確実に当たるところをねらって、ガードさせてくずす気か……!

  それなら……!)」


 ボクはサイドステップをやめ、曽卯ぞう選手の間合いに1歩踏む。


 曽卯ぞう選手はまだ聖剣せいけんらない。


 ボクはそのまま、1ポイント目でそうしたように、

上半身の高い位置に聖剣せいけんを構えて、軽くりかぶる。


 曽卯ぞう選手が動いた。


 先ほどとは違い、ボクの上半身に向けて、

曽卯ぞう選手の右腕みぎうで側からコンパクトに聖剣せいけんる。


 ビュッ!


 バッ!


 ボクは前転してそれをくぐりながら、

曽卯ぞう選手の前にみ出された左足に向けて、

足先をるように聖剣せいけんる。


 ビュッ!


 ザッ!


 曽卯ぞう選手が聖剣せいけんきながら1歩後ろに飛びのいた。


 ボクの聖剣せいけんは空を切る。


 曽卯ぞう選手は、返す刀でそのまま左腕ひだりうで側からななめに切り降ろすように

聖剣せいけんり始めた。


 だが、聖剣せいけんの短いボクのほうが速い。


 ガッ!


 ボクが立ち上がりながら、返す刀で裏拳うらけんり出すようにった聖剣せいけんが、

先に曽卯ぞう選手の右腕みぎうでのプロテクターをとらえた。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


3スリー-1ワン!」

とスコアがコールされる。


 ボクのマッチポイントだ。


「いいぞ!いいぞ!夢路ゆめみち

 行け!行け!夢路ゆめみち

 もう1本!」

と観客席から再び手拍子てびょうし声援せいえんが飛んで来る。




 ボクと曽卯ぞう選手が、アースの対角にあるスタンバイエリアに立つと、

ピー!と再び審判しんぱんがホイッスルを鳴らした。


 ボクと曽卯ぞう選手は、おたがいにダダダ……!とアースの真ん中へ向かう。


 ボクが先にアースの真ん中にある『*』マークに到達とうたつすると、

ボクは聖剣せいけん右脇腹みぎわきばらに引き付けるようにしてきの構えをした。


 それを見た曽卯ぞう選手は、すぐさま右腕みぎうで側からコンパクトに聖剣せいけんり始める。


 だが、ボクの動きはフェイントだ。


 下半身のほうは、曽卯ぞう選手の間合いに入る直前で停止している。


 と、

両手でコンパクトに聖剣せいけんっていた曽卯ぞう選手が、途中とちゅうで左手をはなした。


 そして右足を大きくみ込みながら、右腕みぎうでを前方にばし始める。


 コンパクトにる動きはフェイントで、

途中とちゅうから大きくみながらのきに切りえたのだ。


 これでは、ボクの位置にも届いて来る。


「くっ!」


 曽卯ぞう選手の前方で停止していたボクは、

構えていた聖剣せいけんを右から曽卯ぞう選手のきにぶつける。


 ビュッ!


 ガキィン!


 何とか曽卯ぞう選手の聖剣せいけんはじくと、

ボクはすぐさま前方へみながら

曽卯ぞう選手の上半身に向けてきをやり返す。


 ビュッ!


 バッ!


 ジッ!


 しゃがみんでボクのきを回避かいひしようとした曽卯ぞう選手だったが、

頭部のプロテクターにボクの聖剣せいけんがわずかにかすった。


 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされ、


「ゲームセット!ウォンバイ木石!2ツーゲームストゥ1ワン!」

とスコアがコールされる。




「(勝ったのか……?)」


 ボクはハアハア言いながら、アースの真ん中に立ちくす。


 まだ半信半疑だ。


「ありがとうございました……」


 曽卯ぞう選手が、頭部のプロテクターをぎながら聖剣せいけんをシュン!となえると、

右手を差し出してきた。


 ボクもあわてて聖剣せいけんをシュン!となえると、

頭部のプロテクターをぎながら


「ありがとうございました……!」

握手あくしゅを交わす。


「(勝ったんだ……!)」


 ようやくボクは思ったが、まだ夢を見ているような気分だった。




 ボクは、その次の3回戦も、

タイブレイク中に対戦相手の因坊いんぼう選手の聖剣せいけんが折れたことで勝利したが、

残念ながらそこまでだった。


 続く4回戦で、岩車という選手に3スリー-2ツー3スリー-1ワンで敗退した。


 その岩車選手は、続く5回戦で絶と当たり、

3スリー-1ワン3スリー-1ワンで絶が勝利した。


 たてるのほうは、2回戦でシードの選手に敗退していた。




「(ボク的には大躍進やくしんだけど、それでも絶には遠くおよばないんだ……。

  くやしい……。

  もっと強くならなければ……)」


 順当に剣士けんしシングルス、魔法まほうシングルスで優勝を果たした、

絶とりんの表彰式に拍手はくしゅを送りながら、ボクは思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る