24回戦 新人戦-3

 ガキィン!ボッキン!


 1ゲーム目2ツー-0ゼロというボクがリードした場面。


 ボクの渾身こんしんり下ろしをギリギリでガードしようとした草楼そうろう選手の聖剣せいけんが、

の真ん中辺りで真っ二つに折れ飛んだ。


 ガラン!と音を立ててアースに落下した聖剣せいけんの先っちょ部分は、

その直後にフワッとけむりのように消え去る。


 ピー!と審判しんぱんがホイッスルを鳴らし、


「えーと……、ウォークオーバー!ウォンバイ木石!」

と声を上げる。


 聖剣せいけんが折れたことで草楼そうろう選手の棄権きけんとなり、ボクの勝利だ。


 ボクは頭のプロテクターをぎながら、


「ありがとうございました!聖剣せいけん折っちゃってすみません!」

と右手を差し出しつつ謝罪の言葉を口に出す。


「いえ……。

 ありがとうございました……」


 草楼そうろう選手も頭のプロテクターをぎながら言うと、

アースの真ん中にある『*』マークの辺りでボクと握手あくしゅを交わした。


 棄権きけん負けなので、その表情はかなりくやしそうだ。


「あっ……、すみません……。

 木石さんは2年生ですか……?

 アドバイスあったらお願いしたいんですが……」


 草楼そうろう選手が、アースを出ようとり向きかけたボクに言う。




 意外かもしれないが、こういった大会やあるいは練習試合なんかだと、

勝っても負けてもこんな風に相手の選手にアドバイスを求める選手というのが、

よくいるものなのである。


 そして、ボクに『さん』付けして2年生か確認したということは、

やはり草楼そうろう選手は1年生なのだ。




「ああ……、2年生だよ……。うーん……、そうだなあ……」


 ボクは、再び草楼そうろう選手のほうへ向き直って、

両腕りょううでを組んで頭の中で今の試合を思い返す。


「1ポイント目の時、ボクのフェイントに引っかかって大振おおぶりしてたけど、

 相手の聖剣せいけんが短いからって簡単に大振おおぶりしちゃうのは良くないかなぁ……。

 ガードさせたならともかく、

 ボクがやったみたいに回避かいひされたらすきが大きいでしょ?」


 ボクは、言いながら草楼そうろう選手をチラリと見る。


「はい」


 草楼そうろう選手が小声で相槌あいづちを打った。


「で、逆に2ポイント目はフェイントを警戒けいかいしすぎたかもね。

 一瞬いっしゅん、お見合いになっちゃった。

 ああいう時はコンパクトにるとかうでだけできを出すとか、

 フリだけでもいいから何か牽制けんせいしたほうがいいね。

 そうしないと、ボクが好きなタイミングでりかかりに行ったり、

 りかかりに行くと見せかけたフェイントをかけたりが

 簡単にできてしまう。

 『相手にペースをにぎられちゃう』

 って言えばいいのかな……」


 ボクは言いながら、

自分の聖剣せいけんを軽くったりき出したりして見せる。


「はい」


 草楼そうろう選手は同じように相槌あいづちを打った。


「それから、たぶんだけど剣道けんどうの経験者だよね?

 基本的な構え方がそんな感じだったから」


 ボクは、草楼そうろう選手にたずねる。


「そうですね。

 小学校の時に少しやってました」


 草楼そうろう選手は、軽くうなずきながら言った。


剣道けんどうの構えは、

 判定がある上半身をメインに攻撃こうげきしたり防御ぼうぎょしたりする形だから、

 下半身にも普通ふつうに判定がある剣魔けんまだとそのまま使えないんだ。

 ボクみたいに短い聖剣せいけんの相手ならまだ大丈夫だいじょうぶかもだけど、

 右足をねらってしゃがみながらはらわれたりするから……」


 ボクは言いながら、草楼そうろう選手がやっていた構えをマネして、

前に出る位置になる右足を上げて見せる。


「なるほどです」


 草楼そうろう選手がコクコクうなずきながら言った。


「それから、剣道けんどうと同じスタンス、つまり足の位置だと、

 素早く左右に動き出すのも難しい。

 1歩目を大きくみ出そうと思ったら、

 その分こんな風に身体をかたむける動きが必要になって、一瞬いっしゅんおくれるんだ」


 ボクは、前後に足を開いたスタンスから、

左右にそれぞれ肩幅かたはばぐらい足をみ出して見せる。


剣道けんどうちがって、聖剣せいけんは大きさが個々人で全然ちがうからね。

 自分よりリーチが長くて重い聖剣せいけん相手だと、

 縦振たてぶりを受けずに素早くかわして近づくような、

 左右の動きが重要になる場面がある。

 ちょうど最後のポイントで、

 ボクがキミに近づいた時みたいなイメージだね。

 それに、ダブルスだと飛んで来る魔法まほう射聖ショット回避かいひすることもあるから、

 なおさらね」


 ボクは言いながら、縦に並べていた両足を少し左右に開いて、

反復横びのような動きを軽くして見せた。


「ああー……」


 草楼そうろう選手は、思い当たる節が有るかのように、目線を上に向けた。


「だから、剣道けんどうのようなスタンスにも長所はあるんだけど、

 そのスタンスにこだわるのはやめること。

 あとはー……、

 やっぱり自分と似た聖剣せいけんの持ち主で、上手な選手を探して、

 その人のフォームや戦い方をマネしてみるのが一番良いかなぁ……。

 プロ選手でもいいし、ちょうど大会だから、

 ここにも1人や2人は似た聖剣せいけんを使う選手がいると思うしね……。

 うん、以上です」

とボクはめくくった。


「ありがとうございました!」


 草楼そうろう選手が、言いながら深々とおじぎをしてくる。


「はい。ありがとうございました」


 ボクも、改めておじぎした。


 だが、


「(こんなえらそうにアドバイスしてて、

  2回戦で負けてたら世話ないぞ……)」

と、ボクは心の中で自分をいましめながらアースを後にする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る