20回戦 体育祭-1

 5月も終わりに差しかった日曜日。


 天気は快晴。


 今日は、できればやりたくなかった体育祭の日だ。


 とは言うものの、入退場の行進の練習はしっかりやった。


 棒倒ぼうたおしのほうも、勝てるかどうかはともかく、特に不安要素は無い。


 一番難関と思われていたダンスのり付けは、

1週間前にはマスターしていた。


 懸念けねんがあるとすれば、大トリの競技としてひかえている

クラス対抗たいこうリレーだけだった。




 午前の終わりのプログラムであるダンスが無事に終わると、

ボクとたてるは、父さんと母さんと共に校庭の片隅かたすみでお弁当を食べ始める。


 内容は、ウィンナー、魚肉ソーセージ、いなり寿司ずしなど

ボク達の好物ばかりだ。


 全体的に茶系の色合いだが、


『運動会の日ぐらいこういうお弁当も良いだろう』

という母さんの意向である。


 デザートにバナナまで食べると、すっかりお腹いっぱいになった。




 と、


「ムロくん!たてるくん!」

と絶の声がした。


 り返ると、絶がりんも連れてこちらへ向かって来ている。




「あっ。夢路ゆめみちくん達のお父さんお母さんですね?

 はじめまして、本能絶と言います。

 こっちは妹のりんです」


 やってきた絶は、ボク達の父さんと母さんに向かってあいさつして、

深々とお辞儀じぎをする。


「やあ、どうもはじめまして……」


 父さんが言い、母さん共々立ち上がって同じように頭を下げると、


「まあまあ。本能くん達ってあれでしょう?

 最近、朝練いつも一緒いっしょに行ってる、あの。

 こんな美少年と美少女だったのねえ」

と母さんが感激したように、電話で話す時のような高い声を出している。


 それを聞いた父さんは、


「ああ、そうなのか。

 いつもバカ息子達がお世話になりまして……」

とまた頭を下げた。


「いえいえ、ボク達のほうこそいつもご迷惑めいわくをおけしているぐらいで……」


 絶はそう謙遜けんそんしながら、両手と首を横にる。


「なんか用事スか?」


 たてるが、父さんと母さんに構わずたずねた。


「うん。

 グラウンドのあっちにかざってある、各クラスが作った応援旗おうえんきあるでしょ?

 あれを見に行かないかってりんと話してて……」


 絶がニコニコしながら言うと、りん


「そうなんですの」

とニコリとした。


「ああ……。

 ウチのクラスの力作だもんねえ……」


 たてる面倒めんどうくさそうに言いながら立ち上がった。


「(それってもしかして……)」


 ボクも立ち上がり、絶、りんたてると連れ立って歩き出す。




 たてるりんの1年2組の応援旗おうえんきは、撲滅ぼくめつブレードだった。


 主人公である金太とライバルであるエインが、

たがいにガッチリと握手あくしゅした絵柄えがらを背景に、

撲滅ぼくめつ』の力強い文字が入っている。


「(何を撲滅ぼくめつするんだろう……?)」


 ボクは思った。


「ワタクシが主導でいたんですの。

 素晴らしい出来栄えだと自負しておりますわ」


 りんが、ボクと絶の反応を確かめるようにこちらを見る。


「なるほど。

 ヒロインの真祖子じゃなくて、

 ライバルのエインを持ってくる辺りがりんらしいね。

 絵もすっごく上手だし」


 ボクが言うと、りんは鼻高々という感じで胸を張る。


「そうそう。

 パンストにも上げましたら、けっこうバズったんですのよ」


 りんが言いながら、スマホでパンストグラマーに上げた

投稿とうこう画面を見せてくる。


「すごい!1000いいねえてる!」


 のぞき込んだボク、たてる、絶は、驚いて口に出す。


「(いやはや、行動力と才能のあるオタクほどおそろしい者は無い……)」

とボクはうらやましいの半分、あきれ半分の複雑な気持ちだ。


 まあ、ボクと絶の2年4組がいた、

波打ち際に上がる潮のしぶきを背景に

『ガチンコ!

 ~全力をくす~』

と書かれただけの応援旗おうえんきでは、

ここまでバズることはまず無いだろう。


 何しろ担任の益垣ますがき先生にすら、


「コンセプトがよく分からない……」

と言われてしまったのだから。


 ボクもまったく同意見である。




 と、


「間もなく午後のプログラムが始まります。

 玉入れに参加する女子のみなさんは、入場門に集まってください。

 り返します……」

という放送が入った。


「あら?

 もうそんな時間ですのね。

 それではワタクシは行って参りますわ」


 りんが言い、


「うん。頑張がんばって」

とボク達も言う。


 りんが入場門横の集合場所へと向かうのを見送ると、


「ボクらももどろうか」

と、ボクと絶、たてるはそれぞれのクラスの席へともどった。




 りんの玉入れは、残念ながら2位だった。


 しかし、1位も白組の4組だったので、大勝利である。


 この結果、午前のプログラムまででわずかに赤組に負けていた白組が、

点数を逆転した。


 ちなみに、今回の体育祭では、

1年生から3年生まで1組と3組が赤組、2組と4組が白組という組分けだ。


 つまり、ボクと絶の2年4組も白組なので、

4人全員が白組のチームということになる。




 さて、続いてのプログラムは、男子の棒倒ぼうたおしである。


 ボク達4組の対戦相手は、赤組の3組だ。


 事前に話し合っていたボク達のクラスの棒倒ぼうたおしの作戦は、

攻撃こうげき組と防御ぼうぎょ組に半分ずつ人員を割くオーソドックスなものだが、

攻撃こうげき組はさらに、

先にむ前衛組と、

後からむ後衛組に分かれている。


 ボクは防御ぼうぎょメンバーで、

絶は攻撃こうげきメンバーの後衛組だ。




 パ ァ ン !


 棒倒ぼうたおしの開始を告げるピストルの音が鳴らされた。


 開始と同時に双方そうほう攻撃こうげき組がすごい勢いで走り出す。


 ドガッ!ドガッ!と

3組の攻撃こうげき組が勢いよくり出す体当たりを、

ボクは頭を防御ぼうぎょするようにして構えた両腕りょううでで、

何とかし返すようにしてえる。


 と、ボク達4組の攻撃こうげきメンバー前衛組が、

ラグビーのスクラムのようなフォーメーションを組んで、

棒を取り囲む3組の防壁ぼうへきをグイグイとし広げるように、

棒に向かってみ始めた。


 そうしてくずれた3組の防壁ぼうへきをさらにつらぬくように、

絶達の後衛組が束になってグイグイと棒に向かってむと、

何人かが3組の棒にさわれるレベルまで侵入しんにゅうを果たす。


 作戦大成功だ。


 3組の棒がグインとかたむき、

棒の先端せんたんに1人乗った『上乗り』というポジションの男子が、

あわててグッ!グッ!と体重を移動し、

棒のかたむきを修正しようとする。


 と、

そこにダダン!と身軽に飛びかった者がいる。


 絶だ。


 登らせまいとつかみかかる3組の防御ぼうぎょを物ともせず、

その身体能力を生かしてかたむいた棒をけ上がるように登ると、

上乗りの男子の攻撃こうげきすらもスイとかわし、

その男子とみ合うようにしばらく争うと、

逆にドゴ!と蹴落けおとしてしまった。


 そうして、あっという間に3組の棒の先っちょに達すると、

ブラブラとぶら下がるようにして一気に体重をかける。


 そこに、絶に気を取られて浮足立うきあしだつ3組を出しくように、

他の攻撃こうげきメンバーも次々に棒に飛びかった。


 秒も持たずに3組の棒は撃沈げきちんされ、


 パ ァ ン !

と勝負ありを告げるピストルの音が鳴らされる。


 ボク達4組の勝利だ。


「わああああ!」


「イエエエイ!」


「うおおおお!」


 4組の男子達と応援おうえん席から大きな歓声かんせいが上がり、

負けた3組の男子達はガックリとかたを落とす。


 江口えぐちや下仁田をはじめとしたクラスのイケてる男子達が

絶に向かって一斉いっせいに集まり、

胴上どうあげまでしだした。


 もはや、白組が優勝したかのような空気だ。




 ボク達のクラスの勝利もあって、

白組がリードしたまま体育祭のプログラムは進む。

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