18回戦 部内対抗戦-1

「は~い。

 来月の始めには新人戦が~、

 終わりには市の中総体があるわよ~」


 その日の剣魔けんま部の夕練が終わったところで、

下井先生が部員全員を集めて言った。


「新人戦は~、2日間かけて行われま~す。

 出場できるのは1、2年生だけ~。

 1人につきシングルスとミックスダブルスに

 それぞれエントリーできて~、

 団体戦は無いわ~。

 1日目がシングルス~。

 2日目がミックスダブルスの日程ね~」


 下井先生が1、2年生を順番に見つめていきながら言う。


「中総体のほうは~、全部で4日間~。

 最初の2日間は~、こちらも新人戦と同じよ~。

 1日目がシングルス~。

 2日目がミックスダブルス~。

 これも1人につきそれぞれエントリーできるわ~。

 全員出場できるわよ~」


 下井先生が、今度は3年生のほうも見渡みわたしながら言った。


「次の2日間は~、団体戦ね~。

 剣士けんしシングルス2試合~、

 魔法まほうシングルス2試合~、

 ミックスダブルス3試合の~、

 計7試合ずつ行われま~す」


 下井先生が、両手の指を折りながら言い、


「団体戦のオーダーでは~、

 シングルスとダブルスに同時に出ることは出来ませ~ん。

 つまり~、レギュラーは10人になる計算ね~。

 それから~、補欠に入れられるのは5人まで~。

 だから~、全部で15人がメンバーで~す」


 下井先生が、再び両手の指を折りながら言うと、

両手をパン!とたたく。


「そこで~、明日からの夕練では~、

 部内対抗たいこう戦として~、

 こちらで決めた色々な組み合わせで~、

 試合をどんどんプレイしてもらいま~す。

 いいわね~、みんな~?

 だれが相手でもだれがペアでも文句は言わないこと~」


 下井先生が再び全員を見渡みわたした。


「その結果を見て~、

 こちらでダブルスのペアとか団体戦のメンバーとかを決めるわ~。

 今のレギュラーと補欠のメンバーも~、

 負けてばかりだと入れえるわよ~?」


 下井先生がウィンクする。


「それと~、これは大会じゃないんだけど~。

 新人戦の翌週は~、今年も練習試合をやることが決定しました~。

 そこは~、中総体の出場オーダーで~、

 本番を想定してプレイしてもらうからね~?」


 下井先生が、再び両手をパン!とたたいた。


「本番の試合のほうは、全部トーナメント制だからな!?

 特に3年生!

 中総体は最後の試合だ!

 負けたらそこで引退だぞ!?

 分かってんな!?」


 美安先生が、ムチをパン!と地面にたたきつける。


「すみません先生方?

 1つよろしくて?」


 りんが、おもむろに挙手した。


「お?何かしら~?」


 下井先生が、りんのほうを向いて言う。


「ワタクシが普通ふつう挿入インサートすると、

 みなさんすぐに中断してしまう件については……?」


 りんが、下井先生にたずねた。


「!」


 ボクと絶以外の男子部員が、一斉いっせいにビクン!と反応した。


「そうそう~、問題はそこよね~。

 なので~、中断しなかった夢路ゆめみちクン以外と組む時は~、

 手加減をお願いできる~?

 それでもダメかもしれないから~、

 念のためりんちゃんのダブルスは~、

 翌日が部活お休みの土曜日にまとめてやりたいの~。

 それでもいいかしら~?」


 下井先生が両手のひらを合わせて、

『お願い』と言った感じのポーズを取りながら提案すると、

それを聞いた男子部員達も、一斉いっせいにホッとしたような様子を見せる。


「土曜日にまとめてやるのは一向に構いませんけど……、

 あれでも一応は手加減してたんですのよ……?」


 りんが首をかしげて見せる。


 再び男子部員達が、一斉いっせいにビクン!と反応した。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 部活終了しゅうりょう後。




 ボクは、たてると少しだけ居残りして、

聖剣せいけん素振すぶりをしたり、

たてるのスイングフォームをスマホで撮影さつえいしてチェックしたりしている。


 と、

下井先生と何やら話していた絶、りんがこちらへやって来た。


「ちょっとごめん……。

 ムロくんてS?

 それともM?」


 絶がボクに質問してくる。


「ん……?

 ああ……。

 ボクはMだよ」

とボクは答えた。


 なぜか、たてるがひどくおどろいたような顔をして、

ボクと絶を交互こうごに見てくる。


「じゃあワタクシは、Sで良さそうですわね」


 りんがうなずきながら言うと、たてるはさらに目をむいた。


「ボクはどうしよう……」


 絶がなやんでいるので、ボクは


「Lでいいんじゃないかな?

 ねえ、たてる

 たてるって、Lで注文してたんじゃない?」

たてるり返りながら言った。


 絶とたてるは、身長がほぼ同じなのだ。


 おどろいたような顔をしていたたてるは、


「えっ……?

 ああ……。

 ユニフォームのサイズの話か……」

と胸をなでおろしたような感じだ。


「(何の話だと思ったのだろう……?)」


 ボクは思った。


「うん。

 名前入りだと、届くまでに3週間ぐらいかかるらしいから、

 今から注文するんだって」


 絶が答える。


「自分、Lでちょうど良かったんで、Lで大丈夫だいじょうぶかと思うスよ」


 たてるが、うなずきながら言う。


「ありがとー!」


 絶は元気にお礼を言うと、

りんと共に下井先生のところへともどって行った。




 ちなみにウチの部では、毎年ユニフォームのデザインを変えている。


 今年のは、黒地を背景に、

大地の割れ目からき出ているほのおかマグマのようながらが、

サーモンピンクのカラーでえがかれているデザインだ。


 男女共に同じ、ユニセックスタイプのユニフォームである。


 選んだのは、脇名先輩わきなせんぱいと聞いている。


 と言っても、剣魔けんまの試合では、

その上からさらにプロテクターを装着してしまうので、

ユニフォームのデザインがはっきり見える機会は少ない。


 どちらかというと、そのプロテクターのほうが、

各校の伝統的な固定のカラーやデザインで、

名刺めいし代わりになっている感じである。


 正甲中せいこうちゅうの大会用のプロテクターは、

全体が明るめのイエローで、

右肩みぎかたと右太ももの辺りに『正』の文字が、

左肩ひだりかたと左太ももの辺りに『こう』の文字が、

それぞれ黒字でえがかれているデザインだ。


 ボク達自身がそう呼ぶことは滅多めったに無いのだが、

正甲中せいこうちゅう甲虫こうちゅうけて、

『イエロービートルズ』という2つ名が、

一部では定着しているらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る