17回戦 立-4

 ピー!と審判しんぱん鬼頭先輩きとうせんぱいがホイッスルを鳴らして、


「ゲームセット!ウォンバイ夢路ゆめみち2ツーゲームストゥ0ゼロ!」

と結果をコールする。


 ギャラリーの絶、りんをはじめとした部員達と先生達が、

パチパチ……!と大きな拍手はくしゅをした。




「ありがとうございました……!」


 ボクは、頭にかぶっていたプロテクターをいで、たてるに右手を差し出す。


「……」


 たてるも、プロテクターをいで、何とか右手を出して握手あくしゅを交わした。


 たてるは泣き止んでこそいたが、その顔はグチャグチャだ。




「じゃあムロは、部活ちゃんと来いよな?」


 鬼頭先輩きとうせんぱいが、ボクの左肩ひだりかたを右手でパンパンと軽くたたいた。


たてるも……。辞めんなよ?」


 鬼頭先輩きとうせんぱいが、続けてたてるのほうを見る。


「いや……、オレ……、もう……」


「勝負は最後まで分からない」


 たてるが言いかけた言葉を、ボクがさえぎった。


「……えっ?」


 たてるがボクの顔を見る。


「勝負は最後まで分からないから、あきらめちゃダメだ」


 ボクは言った。


聖剣せいけんは、全部の指でギュッとにぎると手首が使いにくくなるから、

 親指と中指と薬指だけでにぎって、

 当たる瞬間しゅんかんに小指にも力を入れる感じでらなきゃダメだ」


 ボクは言った。


「走りながらのきは、相手に回避かいひされたりガードされたりすると、

 反撃はんげきされやすいから多用しちゃダメだ」


 ボクは言った。


「利きうでと反対の位置にいる相手にも利きうで側から大振おおぶりすると、

 簡単に回避かいひされたりガードされたりしちゃうから、

 もっとコンパクトにるとか逆からるとかしないとダメだ」


 ボクは言った。


空振からぶりしたりガードされてはじかれたりした時に、

 体勢をくずしたままだと、正しいフォームで聖剣せいけんれなくなって、

 相手に回避かいひされたりガードされたりしやすくなっちゃうから、

 もっと体幹をきたえなきゃダメだ」


 ボクは言った。


聖剣せいけんの持久力が不安なら、ポイントの間に一度なえて、

 もう一度き直しておくようにしなきゃダメだ」


 ボクは言った。


「勝負は最後まで分からない。

 分からないから、たとえ相手のマッチポイントだとしても、あきらめちゃダメだ」


 ボクは言った。


「それから、ボクはたてるを信じてる。

 たてるなら、ボクなんかよりずっと立派な剣士けんしになれるって」


 ボクは言った。




「オレは……」


 たてるが口を開いた。


「オレは……、こんな……、いやな思い……、するぐらいなら……、

 部活……、辞める……」


 たてるが再び大粒おおつぶなみだを流しながら、口に出す。


「それは『いやな思い』なんかじゃないんだよ」


 ボクは言った。


「!?」


「それはね、『くやしい』っていう感情なんだ。

 『いや』でも『苦しい』でも『悲しい』でも『恥ずかしい』でもないんだ」


 ボクは言った。


たてるだって、本当は分かっているはずさ。

 短小野郎やろうのボクに負けて、くやしいんだ」


 ボクは言った。


「……!」


 たてるは泣き止んだ。


「ボクだって、ウチの部内の試合や大会に出て、たくさん負けた。

 すごくくやしかった。

 だから、たくさん練習をした。

 実は、昼休みに毎日筋トレだってしてるんだ」


 ボクは言った。


たてるはどうする?」


 ボクは、たてるたずねた。


「……」


 たてるは答えない。


「ボクは、たくさん負けた。

 くやしかった。

 けれど、あきらめずに頑張がんばって、ここまで強くなれた。

 たてるはどうする?」


 ボクは、たてるに再びたずねた。


「……」


 たてるは、わずかに口を動かす。


「ボクは、たてるならボクなんかよりずっと強くなれると信じてる。

 たてるには、ボクなんかに負けたままなんて似合わないさ。

 たてるはどうする?」


 ボクは、もう一度だけたてるたずねた。


「……勝ちたい」


 たてるが言う。


「オレ……、くやしい……、兄貴に……、勝ちたい……」


 たてるはそう言うと、右腕みぎうでのプロテクターでゴシゴシとなみだいた。


「(前は、『お兄ちゃん』って呼んでたのに……)」


 ボクはニッコリと笑いながら、成長した弟の右肩みぎかたをポンとたたいた。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







「兄貴。

 さっき借りたこれ、返すよ」


 寝入ねいる直前のボクの部屋に、

たてるが月刊プレイ剣魔けんまデラックスを持ってやって来た。


たてると同じくらい巨剣きょけんのプロ選手のフォームを、参考にするといいよ』

と、ボクが部活から帰宅した後に貸してあげたものだ。


「もういいの?」


 ボクはたてるから、月刊プレイ剣魔けんまデラックスを受け取りながらたずねる。


「スマホでったから」


 たてるが自分のスマホを持ち上げて答えた。


「あー、なるほどね。ボクもそうしようかな」


 ボクは、うなずきながら言う。


 確かに、スマホに画像として保存しておくほうが、

見たい時に見られて便利だ。




 たてるとは、すっかり元通りの関係にもどっていた。


 いや、元通り以上になついているかもしれない。


 さっきなど、


一緒いっしょ風呂ふろに入りたい」

突然とつぜん言われて、


「えっ……。

 きょ、今日だけね……?」

と仕方なく一緒いっしょにお風呂ふろに入った。


「(たてる一緒いっしょにお風呂ふろに入るのなんて、いつ以来だろう……?)」

と思いながら。


 同性でしかも兄弟とはいえ、一緒いっしょにお風呂ふろに入るというのは、

思春期をむかえたせいなのか、何だかずかしかった。


「すげー!

 腹筋マジ割れてるじゃん!

 うであしの筋肉もヤベー!」

たてるは、お風呂ふろでボクの身体を見て、やたらはしゃいでいた。




「あっ、明日から朝練行くよね?」


 ボクは、部屋に来たたてるたずねる。


「行く行くー。

 そんで、兄貴なんかすぐにいてやんよ」


 たてるが、ニヤリと不敵な笑みをかべて言った。


「十年……。いや、半年早いよ。

 フフフ……」


 ボクも不敵な笑みを返す。


「現実的かよー!アハハハ……!」


 たてるが大笑いした。


「ハアー……。

 あっ、オレの分も弁当早く作っておいてもらわないと。

 じゃあおやすみー」


 たてるは言いながら、ボクの部屋を出て行く。


「うん。おやすみ」


 ボクもたてるの背中に言った。







○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~







 翌日。




「おはよう!ムロくん!たてるくん!

 今日からたてるくんも朝練一緒いっしょなんだね!」


 絶は今日も朝から元気だ。


「おはようございます、ムロさん。たてるくんも」


 りんもあいさつしてくる。


「おはよう、絶、りん


 ボクも軽くうなずきながらあいさつした。


「ハヨーザイマス……」


 たてるも絶の手前、敬語であいさつをする。


 が、どうも聖剣せいけんを中断されてからというもの、

りんに対してかなり苦手意識があるらしい。


 明らかにテンションが下がっている。




 ちなみに、やっぱりと言うか、

たてるりんは同じ1年2組のクラスメイトだったのだが、

部活の時もふくめて、ほとんど会話らしい会話はナシということだった。




「(何とか仲良くなってほしいな……)」


 ボクは歩きながら考えて、1つ思いつく。


「そうだ。

 絶とりんさ、たてるともインラン交換こうかんしてあげてくれない?」


 ボクは提案してみた。


「いいよー!」


 絶は即座そくざ了承りょうしょう


「ワタクシも構いませんわよ」


 りん了承りょうしょうしてくれた。


「……!」


 たてるは若干、複雑な表情だ。


 早速、4人向けのグループの招待を送る。


 と、たてるがグループに参加しつつ、

ボクに個別でメッセージを飛ばして来た。


『ちょっとりんちゃんこわいからオレあんまりしゃべらないかも』


 ボクはそれを確認すると、そちらには返信せず、

4人のグループのほうにメッセージを書きむ。


 『今の3年生が引退したらボクと絶が、

  来年になってボク達が引退したらたてるりんが、

  きっと正甲中せいこうちゅう剣魔けんま部を引っ張って行く存在になると思う!

  みんなで頑張がんばって盛り上げて行こう!』


「おぉ……!」


 たてるが短くつぶやいた。


『オー!』


頑張がんばりますわ!』


 絶とりんがメッセージで返事してくれると、たてる


頑張がんばる!』


 とメッセージしてくれる。


「(半分は願望だけど……)」


 ボクは思った。

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