14回戦 立-1
キーンコーンカーンコーン……。
「えー……、月末には今年も体育祭があるぞぉ。
黒板に種目を書いてくから、各自で参加したい種目に立候補するようにぃ。
……あっ、ダンスは全員参加、棒
玉入れは女子は全員参加だからなぁ?
あと、立候補しなかった
クラスの
「(体育祭かー……。
ボクは、かなり
走るのはどちらかと言えば速いほうなのだが、
友達がいないので団体種目はできればやりたくないのである。
特にダンスとか棒
団体でやる種目なのに強制なものがあるというのが
それにイケてない男子が、
クラス
色々と制約が多いのだ。
「(かと言って残る種目は……?
障害物競走は、個人種目だけど何となくやりたくないし……)」
ボクが
「あのう……。
ボク、クラス
すっごく足が速いってわけじゃないんだけど……」
絶がボクの
「オオー!」
と
「いいよー!」
と賛同する。
「えへへ……」
絶は頭をかいた。
このように、人気者なら花形種目に出ても全く問題ないのだ。
それに、絶は少なくとも
運動神経が良いと見なされ、クラスメイトの期待も大である。
『本能』とクラス
「(しょうがない……。
ムカデ競争あたりでお茶を
そう思いながらボクが手を挙げようとした、その時である。
「ムロくんも足が速いから、クラス
絶が言った。
クラスはシーンと静まり返る。
「(絶……。何気ない感じで言ったが、それはかなりの
ボクは、心の中で頭を
今のクラス
クラスで一番足が速い野球部の下仁田、
足の速さはそこそこだが運動神経が良くて、
クラスではムードメーカー的な存在であるテニス部の
そして転校2日目にしてクラスの人気者で
そこに、特に期待値も人気も高くないボクなんかが入る余地など無いのだ。
もっと言うと、たとえ足が速かろうが入らないほうが良いとさえ言えた。
スクールカースト最下位のボクを、
勝ちを取るかどうかなんて以前の話になるわけである。
「いや……、ボクはムカデ競争やるからいいよ……」
重苦しい空気の中、何とかボクは言った。
我ながら、出来た人間である。
「ムカデ競争は、もう人数足りてるぞぉ?」
「(あああ……!)」
ボクは机に
クラスの
「(穴があったら入りたい……!)」
ボクは思いながらも何とか再び手を挙げ、
「じゃ……、じゃあ障害物競走……」
と顔を真っ赤にして言い直す。
「……いや、待て
「確かにムロは友達いないけど……」
「(うるさいぞ、
ボクは反射的にそう思った。
思ったが、
「(『けど』……?)」
と
「オレ、こいつとは同じ小学校だったんだけど、
足は速いんだよ確かに。足は。
だからオレもこいつをリレーに
まさかの助け
あるいはボクではなく、
絶が責任を感じるかもと思ってのことなのかもしれない。
しかし、当のボクとしては、かなり複雑な心境だ。
「(足の速さを認めてくれて味方になってくれるのは
障害物競走でいいんだってば!)」
正直に言ってこんな感じである。
「じゃあこれで決定なぁ」
まだどこにも参加表明していなかった数名のクラスメイト達の名前も、
適当に書き
「(あっ……)」
とボクは思ったが、
「やったね!ムロくん!」
絶は
「反対意見あるなら今のうちだぞぉ?
もはやボクは、何も言えなかった。
喜んでいる絶と、早く帰りたい
水を差すわけにもいかないだろう。
「……どういうつもりだよ?」
帰りのあいさつを済ませた教室で、ボクは
「お?リレーの打ち合わせ?」
下仁田もやって来る。
「ムロお前、昨日体育の前にグラウンド走ってたろ?」
「あっ……」
ボクは思い至る。
「(あれを見られてたからかー……!)」
ボクは、心の中で頭を
そう。
トレーニング室に絶が来て、気まずかったボクは、
筋トレを中断して教室に帰って体操服に
本当にグラウンドに走りに行ったのだ。
「マジに?やる気満々じゃん」
下仁田がボクの顔を
「すごい!さすがだね!」
絶も同調した。
「いや……、あれは
ボクは口ごもる。
「(部活もろくに行かなくなっていた
『昼休みにやることが無いから走っていた』
とか、
『身体を
とかの言い訳をするのは、ちょっと無理があるよなあ……)」
と思ってしまったからだ。
「やる気が無い
まあ体育祭に向けてじゃなくても、
それに実際速いしな。
ウチのクラスって陸上部1人もいないし」
「バトンの練習する?」
下仁田が言い、
「あれって借りられるのかな?」
絶が言うと、
「体育倉庫にあるから
と江口が仕切り、
「おう。ラジャー」
下仁田が賛成。
「分かった!よろしくね!」
絶も賛成だ。
「……分かったよ」
ボクも、しぶしぶ折れた。
今さら参加する種目を変えるというのも難しいだろう。
かと言って、体育祭の当日に休んだりしてまで出たくないというほどでもない。
「(ハアアア……。
なにも考えずに、ただただ全力で走ろう……)」
ボクは心の中で、深い深いため息をつきながらそう決めた。
○~○~○~○~○~○~○~○~○~○~
「じゃあ、夕練も
「本当に朝練だけで、夕練は来ないのかい?」
絶は、とても不満げだ。
「あー……、うーん……」
ボクは何とも言えない態度を取ってしまう。
正直な話、部活はかなりやりたい。
ボクは将来は
何より
何なら大会に勝てるかどうかとか、将来
好きなこと楽しいことを今はしていたいだけとさえ言えるかもしれないのだ。
しかし、
例えば、
その
「(そう考えると……)」
「立がいる限り、ボクは部活も大会も出る気分になれないから……」
ボクは、そう口に出してしまう。
「それは
絶が
ハッとボクも気づく。
「その……、うまく言えないけどさ……」
絶は、ボクを見つめたまま続ける。
「ムロくんの人生は、ムロくんの物だよ。
ムロくんは、
絶はそう言ってから、
「あっ……。
いや、その……。
例えと言うか……、
と
「う、うん……。分かってるよ……」
ボクは言うが、
「分かってるけど……、とりあえず……、今日は帰る……。
ホントにゴメン……」
ボクはそう言ってから、くるりと校門のほうを向くと、そのまま歩き出した。
「……うん」
絶は何か言いたげだったが、そのまま何も言わなかった。
「(『ボクの人生は、ボクの物』か……)」
ボクは校門を出て歩きながら、絶に言われたことを考える。
「(でもボクは……)」
ボクは思った。
「(でもボクは、
きっと死んでしまうと思う……)」
自分でもおかしいと分かっている。
分かってはいるが、それがどうしてなのかは、ボク自身にも分からなかった。
ボクは夕暮れの中、家までの道のりをトボトボと歩く。
ポコン!
ふいにスマホの通知音が鳴った。
絶からのインランだ。
『
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