13回戦 朝練開始-5

 再び4人がアースの4すみのスタンバイエリアにそれぞれ入ると、

ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 と、パン!パン!とりんが上空に火球の魔法まほうを連射した。


 遅降弾ラググレネードボンバーだ。


「!」


 ボク、絶、脇名先輩わきなせんぱいはその行方を追って、バッ!と空を見上げた。


「(この感じは、たぶんアースの中央付近か!?)」


 ダダダ……!と正面に向き直ったボクとりん、絶と脇名先輩わきなせんぱいは走り始める。


 ブワワッ!


 メラメラッ!


 おたがい、合体ジョイント完了かんりょうだ。


 すぐさまボクは、りん遅降弾ラググレネードボンバーを利用すべく、

アースの真ん中を目指して走り始める。


 と、脇名先輩わきなせんぱいがそれを読んで、ドピュッ!ドピュッ!と水球を連射した。


「おっと!」


 ボクは、それを片手側転でバッ!と回避かいひする。


 その回避かいひした先をねらって、

絶が聖剣せいけんをビュッ!とき出した。


 ドビュッ!


「うっ!?」


 ビュッ!バシン!


 ボクは、すごいスピードで射聖ショットされた水球に、ギリギリで聖剣せいけんを合わせた。


 チラリとボクは自分の聖剣せいけんを確認する。


 メラメラ。


「(火属性はまだ残ってる……!)」


 と、パン!パン!パン!パン!とりんが、

射聖ショットで早々に魔力まりょくを使い切った絶に向けて両手で火球の魔法まほうを連射した。


「くっ……!」


 絶はチラリと上空を確認すると、

ビュッ!バシン!と当たりそうな1発だけをたたき落としつつ、

残りをスイスイと回避かいひする。


 ダダダッ!とボクが、そこに走り寄った。


「させない!」


 脇名先輩わきなせんぱいが再びドピュッ!ドピュッ!と水球の魔法まほうをボクに連射する。


「うわっ!」

と言いながらも、ボクはズザッ!ズザッ!と左右に移動してそれを回避かいひした。


 ボッ!ボッ!


 そこに、りん遅降弾ラググレネードボンバーが落下して来る。


 だが、今回は残念ながら、かなり手前の位置だ。


 と、それをブラインドにりんが、パボン!と加速する火球を発射する。


「!」


 ビュッ!バシン!


 絶が、それに聖剣せいけんを縦にって合わせ、ギリギリで弾道だんどうらした。


「(今だ!)」


 ボクは、動きの一瞬いっしゅん止まった絶に飛びかるように聖剣せいけんり下ろす。


「おっと!」


 絶は聖剣せいけんり下ろした体勢のまま、

フッ!とボクから見て右に回避かいひした。


 そこに、バンッ!とボクの聖剣せいけんから右方向に射聖ショットが行われ、

ボッ!と絶の右脇腹みぎわきばらに命中する。


「うわっ!?」


 絶は、おどろいたのと命中した勢いで、そのままドサッ!とたおれた。




 通常、聖剣せいけんというものは、

先っちょから真っ直ぐにしか合体ジョイントした魔力まりょく射聖ショットというものができない。


 しかし、ボクの聖剣せいけんは出っ張った部分が無いためか、

なんと半球状の部分からならどの方向にでも好きに射聖ショットができるのである。


 このことに気づいたのは、

以前のペアであった出来田さんが剣魔部けんまぶを辞めてしまう直前だったので、

未だに大会では日の目を見ていないボクの必殺技の1つだ。




 ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴り、


2ツー-1ワン!」

とスコアがコールされる。


「やっぱりすごいですわよ!

 ムロさんの聖剣せいけん!」


「ありがとう!りんもナイスショット!」


 りんとボクは言いながら、パァン!とハイタッチを交わした。




 再び4人がアースの4すみのスタンバイエリアにそれぞれ入ると、

ピー!と審判しんぱんのホイッスルが鳴らされる。


 と、

今度は脇名先輩わきなせんぱいが最初に動いた。


 ドビュルビュルーッ!とレベル5の巨大きょだい水球の魔法まほうを発射したのだ。


 水球は、脇名先輩わきなせんぱいの目の前にバリアのようにかぶ。


「くぅ……!」


 ボクはひとまず、合体ジョイントするためにりんのほうへと走り出す。


 りんはパン!と、火球の魔法まほうを発射して絶のほうを牽制けんせいしつつ、

さらにパン!と上空に遅降弾ラググレネードボンバーを発射した。


「!」


 絶はスイスイと飛んで来た火球の魔法まほう回避かいひしつつ、

上空をチラリと確認する。


 ボクと脇名先輩わきなせんぱいも上空を見た。


「(この感じは、脇名先輩わきなせんぱいの位置か……!?)」


「!」


 脇名先輩わきなせんぱい遅降弾ラググレネードボンバーねらわれていると気づいたらしく、

水球の後ろにそのまま居座らず、

水球ごと絶のほうへと移動し始めた。


 だがその動きは、ややゆっくりだ。


「(あの水球、そんなに素早く動かせないのか!)」


 そう見るや否や、ボクはりんのほうへ走るのをやめ、

ザッ!と絶のほうへと方向転換てんかんして走り出す。


「(絶が水球の後ろにかくれる前に間に合えば、

  ポイントが取れるかも!)」


 そうボクは思ったのだ。




 ちなみにミックスダブルスで、

このように合体ジョイントされなかった剣士けんしのことを

『放置された』と表現したり、

合体ジョイントしないでプレイすることを

『放置プレイ』と表現したりする。




 パボン!


 パボン!


 りんもボクと同じ考えらしく、絶への攻撃こうげき拍車はくしゃをかけた。


「くっ……!」


 ビュッ!バシン!ビュッ!バシン!


 だが絶も、何とかりんの加速する火球を聖剣せいけんたたき落とす。


 そこにボクがダダダッ!と走り込んだ。


 絶が水球にかくれる前に間に合ったのである。


 しかも脇名先輩わきなせんぱいは自分の水球のせいで、

こちらへの射線がほぼ無い状態だ。


「(チャンス……!)」


 と、

ビュッ!と絶がボクのみ出そうとした足先をるように、

しゃがみながら聖剣せいけんった。


 だが、ボクがみ出そうとした最後の一歩はフェイントだ。


 先ほどのシングルスの、1ポイント目のプレイの再現である。


 ボクは再び、ダンッ!と両足でジャンプするように絶に飛びかかった。


 そこへ絶は、ギュルン!と先ほど聖剣せいけんった勢いでそのまま体を回転させ、

ビュッ!と続けざまに聖剣せいけんる。


 ガキィン!ボッキン!


「えっ!?」


 ボクと絶は、同時に口に出した。


 絶の聖剣せいけんの先っちょから3分の1あたり、

ボクの聖剣せいけんとぶつかった所から先が、折れ飛んでしまったのである。


 折れた先っちょの部分は、ヒュルヒュルヒュル……と風を切る音をひびかせた後、

ザクッ!とボクとりんが居た側のベースライン付近にさり、

その直後にフワッとけむりのように消え去った。




 ピ……、ピー!と審判しんぱんの女子があわててホイッスルを鳴らし、


「え、えーと……、この場合って……」

とキョロキョロする。


「ウォークオーバ~……。つまり~、棄権きけんよ~」


 下井先生が、アースの中にいるボク達に向けて声をけた。


「ですわね……」


 りんもうなずく。




 剣魔けんまの試合中に剣士けんし聖剣せいけんが大きく折れた場合、

具体的には持ち手の部分を除いた長さの4分の1以上が折れた場合、

ルール上は競技続行不可能とされ、

聖剣せいけんが折れた側の選手は棄権きけんあつかいとなる。


 つまりこの場合、絶と脇名先輩わきなせんぱい棄権きけんとなり、ボクとりんの勝利だ。




「ご、ごめん……!」


 ボクはハアハア息を切らせながら、すぐさま絶に謝る。


「いや……、大丈夫だいじょうぶ……。

 先っちょだけだから……。

 このぐらいなら……、そのまま夕方の部活もやれるよ……」


 絶もハアハア言いながら、左手と首をると、

シュン!と聖剣せいけんをなえて、


「でも、すごいよ!

 ボク、剣魔けんま中に聖剣せいけんが折れたのなんて初めてだもん!

 きっと、すっごくかたいんだね!

 ムロくんの聖剣せいけん!」

とボクの聖剣せいけんでるようにさわってきた。


「そ、そんなことないよ……」


 ボクは照れて頭をかき、


「(でも言われてみれば、プロ選手の剣魔けんまの試合なんか観てても、

  聖剣せいけんが折れてるところなんてほとんど見ないような……?)」

と思いながら、グリグリとさわられている自分の半球状の聖剣せいけんを見つめた。

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